野球読書日記「WBC戦記 日本野球、連覇への軌跡」

  この本、厚手の良い紙を使っているので、テーブルの上にしっかり立ちます。2006年、2009年の「Sports Graphic Number」のWBC速報号を文庫化したもので、写真も芸術性が高いと思われるものがたくさん収録されています。険しい表情が印象に残ることの多い求道者イチローさんの心からの笑顔など貴重なものです。それにしても、登場する選手の一人ひとりが懐かしい。そして2006年、2009年の代表選手の中でまだ現役を続行してる和田毅選手(2006年)、青木宣親選手(2006年、2009年)、ダルビッシュ有選手(2009年)、田中将大選手(2009年)の偉大さを思います。

 本の構成上、一人のライターにより書かれたものではないのですが、日本の優勝という最高の結末で締め括られた大会の記録なのでどれだけ客観的に抑えて書いても誇らしげな筆調を感じます。優勝とはこんなにみんなを幸せにするものなのだと改めて感じます。

 我々が期待するのは試合の裏側、勝負のあやに切り込んだ取材の成果をライター各氏がどう見せてくれるかだと思いますが、どれも期待以上の仕上がりだと思います。特に2009年3月23日の韓国との決勝戦、9回裏の韓国の反撃を1点でしのぎ延長戦につないだ時の捕手城島健司さんの回想には城島さんの勝負哲学が表れています。

 

「李机浩の次打者、高永民に対する配球もまた、城島だけで導き出したものではなかっ た。その4球目のスライダーは、ベンチにいた阿部慎之助が北京五輪を経験していたからこそ出せた結論だった。 『阿部が「高永民は完全にヤマ張りだから、1球全然合わなかったら、最後まで合わないです」というヒントをくれていた。 過去の3打席の流れから、最後の打席はもう完全 にスライダー一本待ちなのが分かった。だから初球ストレートを簡単に見逃し、2球目 もストレートを見逃した。バッターは追い込まれれば当然ストレートに合わせなきゃい けない。そこで3球目の真っ直ぐはファウルになった。するとバッターが真っ直ぐをマ ークしたことで、もうスライダーで仕留めることができる。だから最後の最後でスライ ダーを投げさせたんです。あれが本当に大きかった。WBC期間中は、阿部や石原とい つもキャッチャー同士の意見をぶつけ合っていた。ゲームにはオレが出たけど、ブルペ ンを含めてみんなのおかげだよ』

 独断か、総意か。どちらの選択が正解だったのかは今でも分からない。 永遠に答えが 出ない、それがキャッチャーの仕事でもある。」(216~217頁)

 

 きっと城島さんが饒舌に、しかし後進やファンに伝えたいという誠実さを込めて語ったであろうことをライターの津川晋一さんが的確にまとめておられます。本当はもっと長く引用するとこの記事の良さが伝わるのは言うまでもありません。

 

 次のWBCが来年3月に迫っています。新しい「WBC戦記」を歓喜とともに目にしたいものです。

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