消えた球場（13）　芝浦球場

＜このブログに掲載していた写真はあいにく消えてしまいましたのでご了承ください。＞

今回の遠征では東京スタジアムとともにもう一箇所球場跡地を回りました。それが「芝浦球場」跡地でした。
現在の東京都港区海岸3丁目の「芝浦埠頭公園」のあたりにその球場は存在していたということです。
この芝浦球場、私が調べた限りでは現在のところ「日本球界初のプロ野球本拠地球場」です。
ここを本拠地としていたのは日本初のプロ野球チーム、「日本運動協会」（通称：芝浦協会）でした。
（注）以下ここでは芝浦協会と表記します。

ところでこう書くと「日本最初のプロ野球チームは大日本東京野球倶楽部（すなわち現在の読売ジャイアンツ）じゃあないのか？」と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかしそれは違っていて「大日本東京野球倶楽部は現存するＮＰＢという組織の中では最古の球団であるが、日本国内で最初に誕生したプロ野球チームは芝浦協会」なのです。
協会については次回に書きますのでここでは芝浦球場について。

この球場が完成したのは1921年（大正10年）です。つまり甲子園や神宮よりも早くに建設されたのです。芝浦の埋立地に建設された木造のスタジアム。スタンドはバックネット裏、1塁側、3塁側の3箇所にあり、それぞれ2，000人、合計6，000人収容。外野の立ち見を入れると2万人収容できたということです。
外野フェンスも木造の塀で丸みは無く、直線的なフェンスだったそうです。両翼は90ｍ、センターは図面に距離が書かれていなかったらしく、そこで両翼の長さから計算しておおよそ125ｍ前後だったのではないかと言われています。

埋立地だったため当時はこの球場のすぐそばには海が迫っていたそうです。内野スタンドの上段からは海が見えていて何とも言えない絶景だったとも言われています。

芝浦協会はこの周辺を複合的なスポーツ施設にしようと考えていたようで、球場の横にはテニスコートやクラブハウスも造られていました。
また、「野球を興行として成立させるためには女性客の取り込みが必要」、と考えていたようで芝浦球場の3塁側スタンドには「男子禁制の女性専用席」が造られていたということです。
大正時代って我々が思っているよりも案外モダンだったのではないかと思います。また「野球の発展には女性客の開拓が必要」という考えはかなりの先見性があったのではと思われます。

このような素晴らしい日本初のプロ野球場だった芝浦球場。
しかしその最後には過酷な運命が待っていました。
球場が完成した僅か2年後の1923年（大正12年）、「関東大震災」が起こったのです。
球場はこの震災で直接的な被害はありませんでした。しかし結果的にはそれが裏目に出て、戒厳司令部などから目を付けられ、災害救助物資の保管場所・運搬中継所として強制的に接収されてしまったのです。
芝浦協会側も緊急時のことだからやむを得ないと思っていたのですが、事態が沈静化してもいつまでたっても球場が協会側に返還されることはなく、いつの間にかスタンドやフェンスなどが取り壊されて倉庫が建てられてしまうという始末。いわば行政によってまんまと乗っ取られてしまったわけですね。
本拠地を失った芝浦協会は解散。芝浦球場とともに消滅してしまいました。
（協会には後日談があり。それは次回で）

芝浦球場があったという周辺は現在は埠頭公園となっており、そこには写真のような少年野球場が造られています。（一枚目の写真は野球場外観）
全面人工芝で内野にはスタンドがあり、照明塔も設置されているなかなか立派な野球場です。
プロ野球「芝浦協会」の夢は少年たちに引き継がれていくことでしょう。

芝浦球場があった当時は周辺はすぐ海だったそうです。
現在は埋め立てが進んで写真のように倉庫がたくさん建っています。
国と行政によって取り上げられて倉庫が建てられたという芝浦球場。
何となく皮肉な光景です。

埠頭公園には少年野球場以外にこういう帆船のモニュメントがあります。これは日本初の南極探検隊がこの芝浦港から出航したことを記念としたものです。ちなみにこのモニュメント、子供が遊べるようになっています。

公園の隅っこには南極探検を称える石碑も残されています。
その一方で芝浦球場に関する記念碑なり痕跡は散策した限りでは一切見当たりませんでした。

＜追記＞

後年（2013年9月）マイヤキューさんがこの地を訪れられた時には球場の歴史を記述した銘鈑があったそうです。同氏のブログでは「2011年に公園内の遊具が一新されたので、その時に銘鈑が新設されたのでは？」ということでした。