僕の甲子園物語 第2話
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こじっく
2010年05月07日 20:49 visibility97
こうして、S君の家庭教師を務めることになった。
S君は中学に入学し、中学の野球部ではなく硬式野球のチームに入った。
はっきりと高校進学後の甲子園を見据えた選択だった。
しかし本当にS君が勉強してくれないことには閉口した。
「先週出した宿題は?」
「先生、それなんですが、机の上に置いておいたら、風が吹いてきて、飛んで行きました・・・」
「・・・・」
こんなやりとりが何度もあった。
また家庭教師を初めて間もない頃だったか、いきなりこんなことを言い出したこともあった。
「先生、今年の新入生で一番最初に校長室に呼び出されたの僕なんですよ。だって、俺におかしなこと言って来る同級生いたんで、殴っちゃったら、担任の先生に捕まって校長室まで連れて行かれました。」
またこれも入学後間もない頃だったか、
「学校の裏の沼で友達と筏作って乗ってたんですよ。そしたら教頭先生が来てね・・・名前聞かれたから別の友達の名前言って開放されたんだけど、後でやっぱりバレました・・・アハハ」。
僕は校長室に呼び出されたことも、筏を作って乗ったこともなかったので、うらやましくもあった。
僕が同じことをしたら、僕の家は蜂の巣をつついたような騒ぎになっただろう。
しかし、今だから思うのだが、S君のご両親は本当に真面目で篤実な方である。
おそらく、S君もきつくご両親から叱られていたのだと思う。
それでも、S君はそういうやんちゃをやってしまっていたのだろう。
では、やんちゃをできなかった僕と、やんちゃなS君の間にあった差異とはなんだったのだろう。
恐らく・・・僕はやんちゃをすると両親や祖母から愛されなくなる、見捨てられてしまうという思いがあったのだと思う。
しかし、やんちゃな子供はそれだけで両親や家族から見捨てられるだろうか?
人が人を見捨てたり、愛していた人を愛さなくなるってどんな時だろうか?
一体、僕はS君と違い、どんなことを思って中学時代を過ごしていたのだろうか?
話がだいぶ逸れてしまった。
最初は僕も一応は家庭教師として「勉強をしてもらわないと!!」と、思っていた。
勉強について厳しいことも言ったと思う。
しかし、僕も野球好きである。
気がつけば、大好きな野球漫画である満田拓也「MAJOR」を毎週3冊ずつぐらいS君に貸して読んでもらった。
S君もあだち充「H2」を僕に貸してくれた。
こんな風にして、僕らは徐々に馴れ合っていった・・・とか書いていいのか、本当に悪い家庭教師だったと思う。
しかし、S君は僕を信頼してくれたのか、だんだん悩みのようなものを打ち明けてくれるようになった。
それを聞いているうちに、僕はS君がとても思いやりがあって優しい少年であることに気付いてゆくのだった。印象に残る話にこんな話があった。
「俺らのチームメートに、すごく野球が上手くて、性格もいいやつがいるんですよ。そいつ、お父さんが医者で、勉強に厳しくて・・・・チーム続けられなくなったんです。学校の部活のサッカーか、土日にやってる野球か、どっちか選べってお父さんに言われたみたいで・・・・。でも、それって、野球かサッカーか選ぶっていうより、野球の友達か学校の友達か選べって言ってるようなもんですよね。そりゃ、選べないですよ。だから、俺、あいつがチーム辞めても、友達でいてやるって、言ったんです・・・。」
他にも、S君は僕に随分色んな話をしてくれた。
チームのこと、家族のこと、そして野球の面白さ!
次第に僕らは勉強をしなくなり、90分の授業のうち80分は勉強以外のことを話すようになっていたのだった・・・。
(写真と記事は関係ありません)
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