僕の好きな先生(中編)

ある日の理科の授業でのことだった。

「ものの溶け方調べ」という単元を学ぶため、先生は氷砂糖を用意して下さった。

そして先生は教卓の上に氷砂糖を出すと

「これは氷砂糖だよ。食べてみると…ほら甘い」

と言いながら氷砂糖を一つ自分の口に放り込んでニコッとされた。

僕らは呆気にとられたが、一呼吸も置かないうちに

「あーっ!!」

と驚きと非難の声を上げた。

そうすることが「お約束」のように思えたからだ。

そして先生が笑いながら「ゴメン」って謝る…みたいな。

しかしヒロ先生の反応は意外なものだった。

「おい、おい…。先生が食べたんだからみんなにも後であげるに決まってるじゃないか…。どうして先生のこと信じてくれないんだ?」

僕らは後で先生からきちんと氷砂糖をもらった。

しかし僕は「あの時『あーっ』なんて声あげなきゃ良かった…」 という思いで氷砂糖が苦かった。

クラスの仲間同士で信じ合う。

そして先生とクラスの一人ひとりが信じ合う…。

僕は先生が僕らと同じ板の上に乗って一年間過ごそうと思って下さっているのだ、でも僕らの方が先生を仲間と思ってないんじゃなかったのか…と言う思いがしてヒロ先生に申し訳なく思った。

…と書いたら、なんて早熟で感受性が強いいい子なんだ、と言うことになりますが、実際はそんなに論理的に自分の気持ちを捉えることなんてできるはずもありません。

ただ「先生をがっかりさせなかったら、もっと氷砂糖がおいしかっただろうな」と思っただけです。

でも今思い返しても先生には申し訳ないです。

クラスの空気がしんみりするのはその時ぐらいで、あとは毎日楽しい時間が教室に流れていました。

そんな感じで一年が過ぎ去ろうとしていた三学期のある日、先生は突然こう言い出されました。

「みんなクラスの中に一人くらいは『好きだなぁ』『いいなぁ』と思える異性の友達がいるやろ?もうすぐこのクラスも終わりだしさ、みんなの望むペアで写真撮ってあげるよ」

みんなは戸惑いながらも、どこか嬉しそうに先生の耳元に意中の人を言いに行きました。

そして全員がそれぞれの「意中の人」と写真を撮ったのです。

これって、すごくない?!



誰もからかったり、冷やかしたりせず、自分が好きな人と写真を撮ってもらうのを粛々と待っていたんだ。

これがクラスの「信頼関係」がある状態じゃないかな…。

みんな、たった八歳だったのに。

先生もきっと満足されていたと思います…クラスに一年かけて確かな絆が結ばれたことを。

そしてこの愛のあるクラスは終わりを告げ、僕らは三年生になりました(以降、後編に続きます)。

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