娘の病気のこと『手術の日』

娘の手術は脳を圧迫している風船を破ってその膜を焼ききるという内容でした。



その日は当然仕事も休んで、朝息子を保育園に送り届けた後、娘と嫁さんの待つ病院へ向かいました。



当時、岡山に住んでいた姉は、この日の為にわざわざ新幹線で駆け付けてくれたので、広島駅でひろって二人で病院へ。


小児科の入院棟の四人部屋の窓側が娘のベッドでした。

部屋に入るとカーテン越しに楽しそうな娘の声が聞こえてます。

そーっとカーテンを開けると、娘は一瞬明るくなった後、姉を見つけて静かになりました。


入院中初めて来た姉に、違和感を感じたのか、急に不機嫌になりました。
今日はいつもと違う日なんだと子供ながらに思ったのでしょう。


ぐずぐずの娘をなだめていると、看護婦さんが移動式のベッドを持ってやってきました。

さらに不振がる娘。

よく覚えてないんですが、手術することは伝えてなかった気がします。

普通はそこからベッドに寝転んで連れていくんですけど、気が張ってる娘は点滴からの麻酔が効かずに、なんとか説得して別棟の手術室まで歩いて行くことに。


歩いて行ったか、僕がおんぶしたか忘れましたが、とにかく機嫌をとりながら行きました。


手術室が近づくにつれ、不安がどんどん増してきて押し潰されそうでした。


逆に娘は次第に機嫌が良くなっていきました。

手術室に着くと、何人もの先生がいました。娘からすると異様な光景だったと思います。

そこでまた娘はぐずりだします。


点滴から眠らせたいんですけど、時間がたっても娘の意識ははっきりしてたので、もう口から吸わせて眠らせる方法をとることになりました。


呼吸器を口まで持っていかないといけないんですが、手術服に帽子にマスクの知らない人たちに囲まれてて、怖がってる娘は暴れて口につけさせません。


最初は

お父さんと一緒にやってみるー?

とか、ここチョコレートの匂いするんよー!

とか、いろいろやってた先生も。


最後は力づくで頭を押さえて泣き叫ぶ娘の口に呼吸器をあてました。

ほんの一瞬で娘は白目をむいてパタリと横になりました。

呆然としている僕と嫁さんは、すぐ外に出るように促され、後ろ髪をひかれる思いで手術室から出ました。

よく、ドラマとかで手術のすぐ前の廊下で待ってるの見ますけど、僕らは別棟の小児科の入院部屋まで帰らされました。


母も駆け付けてくれて、姉と嫁さんと四人で待ちました。
姉も母も、嫁さんのことが心配で来てくれたみたいでした。
ほんと、僕も嫁さんを気遣う余裕は無かったので、すごく助かりました。



あの時間は何と表現すればいいかわからないですけど、生きた心地がしないというか、時間が止まったような、不安や、後悔や、懺悔の気持ちや、祈りをずっと頭で繰り返してました。


昼頃には終わると聞いていた手術。


昼を過ぎても何も連絡がありません。


不安が重くのしかかってきます。


廊下から見える詰所では看護婦さんが他愛もない話をして笑っている光景が見えます。


この差はなんなんだろう…。
当たりどころのない不安に負けそうになって、イライラしてました。


待てどくらせど看護婦さんから声がかかりません。

おかしいな…
なんかあったんかな…
でもそれならもっと慌ただしくなるんじゃ…

なにせ手術室から遠く離れて様子が伺えないので、想像を頭で巡らせるしかないんです。

そして、とうとうしびれを切らした嫁さんが詰所に聞きに行きました。


看護婦さんはハッとした顔をして、

『そうですよね、ご心配ですよね。すぐ様子を聞いてみますので』
と、優しく言ってくれました。

気が張っていた嫁さんもそこで少し堪えきれずに涙をこぼしました。


しばらく待っていると先程の看護婦さんが近づいてきて、

『今、頭の骨を戻して、皮膚を縫っているところだそうです。もう少しで終わります。手術は順調ですよ。』

それを聞いた瞬間
『良かった…良かったな…』

と、嫁さんの頭を撫でながら僕も泣いてしまいました。



それから数分して看護婦さんに呼ばれて、手術室へ向かいました。


廊下を走りたい気持ちをおさえて、早歩きで、いや、ほとんど走ってたかもしれません。


手術室に入ると頭を包帯でぐるぐる巻きにされた娘の姿が見えました。


すぐに布団の中から手を探しだして握って、頑張ったね、と声をかけました。


まだ麻酔の効いたままの娘はうっすら眼を開けてこっちをみてました。



その日からさらに娘は痛みと吐き気と戦います。


僕の気持ちが限界に来たので次回にまた書きます。


病院で出会った病気と戦ってる子供たち、そしてそのお母さんは、いつ見ても元気でした。
中には物凄い重い病気で入院されてる子供もいましたが、そのお母さんもすごく前向きで、明るくて、感心しました。

僕らが廊下で手術が終わるのを待っているときも、通りかかったそのお母さんは静かに『頑張って』と、嫁さんに声をかけてくれました。

人の心って温かいですよね。

その一言でどれだけ救われたか。



僕もそんなとき人の救いになるような一言が言えるようになりたい。


様々な学びが入院中はありました。



長々と、読んで下さってありがとうございました。

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