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卒論「木製バットの導入と高校野球の国際化」その3
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すすむ
2008年01月24日 00:20 visibility1186
第3章 高校野球の国際化のために
国際大会の参加への道を絶たれてしまった日本であるが、国際的な貢献ができなくなってしまったわけではない。この章では今後高野連が高校野球の国際化に向けて取れると思われる行動について提案する。
第1節 親善試合を活発に(1) 親善試合の実績を重ねる
アジアAAA選手権、世界AAA選手権といった世界を舞台に優勝を争う国際大会の参加を、高野連は見送った。しかし、海外の高校野球との国際交流の場が失われたわけではない。
2つの国際大会とは別に高野連は、世界各国との親善試合を毎年行っている。特に交流が活発なのがアメリカであり、これまでに18回ほど全日本選抜とアメリカ選抜で日米親善大会を行っている。また、アメリカの州選抜チームが来日し、日本の各県の選抜チームと対戦する親善試合もこの20年で11度ほど行われており、高校生たちにとっては貴重な国際経験の場となっている。
アメリカの以外の国では過去に台湾、韓国、ブラジル、オランダ、フランス、ミャンマーといった国と親善試合を行っている。また、県の高野連が姉妹都市との親善試合を企画する場合もある。
これらの親善試合は、試合のほかに高校生同士の交流や、来日した選手の観光が行われるなど、試合以外でも交流の場が多く用意されている。また、姉妹都市同士での試合が組まれるなど、地域での注目も高い。そして、日本チームが海外に遠征する場合、参加する選手は現地にホームステイすることも多く、野球だけでなくさまざまな経験を選手たちはすることができる。
(2) 野球振興をテーマにした親善試合を新設
木製バットの採用により野球振興という名目が軽視され、勝負の意味合いを強められたアジアAAA選手権と違い、親善試合は勝負よりも、異なる国の高校生同士の交流が重視されている。
そこで、高野連は「親善」という目的と共に、「野球振興」をテーマに加えた海外の交流試合を組んでいくことで、アジアをはじめ、世界に野球を浸透させていくことができないだろうか。
高野連がこれまで行ってきた親善試合の相手は、ミャンマーや欧州といった国を除くと、高校野球が発展しているアメリカや韓国といった国が多い。
しかしながら、野球振興は有力国の実力を高めるだけではなく、野球後進国の実力を高めることや、野球が広まっていない国に野球というスポーツを伝達していくという意味合いも持つ。特に、高校生チームはあるものの、戦力的に劣るフィリピン、タイといった国や、モンゴルやミャンマーといった野球自体が浸透していない国に選手を派遣することは「野球振興」に見合う。
よって、日本を中心として、複数の国を集めた野球振興親善試合を新たに創設し、これまでにアジアAAA選手権が担っていた「アジアの野球振興」を実現することはできないだろうか。
金属バットを使用し、日本がこれまで親善試合を行ったことがないアジアの国を中心に試合を組む。そして、将来は全世界を対象にして親善試合を行うことも視野に入れる。海外遠征の際は参加する高校生の安全を確保するため、政治的な問題や治安問題をことが必要とされる。だが、海外の派遣が困難な場合は、日本に当事国の選手を招きいれることも可能だ。
この交流は親善試合に加え、野球用品の寄付や日本の指導者による野球教室といった幅広い面での野球振興が期待され、従来の親善試合やアジアAAA選手権よりも高い効果が期待される。
(3) 高野連による費用の捻出
野球振興のための新たな大会を新設する際に、まず問題になるのが参加のための費用である。第2章で述べたように、アジアの国には渡航費用の負担やバット代の負担に苦しむ国もあり、費用面での負担を増やすだけの大会であれば、参加しない国が多くなると予想される。
そこで提案するのが日本の高野連による費用の捻出である。1993年から2006年までの選手権大会の収支決算によると、高野連は1999年から親善試合などの費用に充てる「海外交流費」とアジアAAA選手権のための「アジア選手権関係費」を創設した。海外交流費は8年で8300万円、アジア選手権関係費は8年で2800万円を捻出している(各年度全国高校野球選手権大会収支決算より)。
アジア選手権関係費は年平均で350万円ほどが捻出されている。しかしながら、大会への不参加が決定した現在ではその予算は行き場所を失っている。この350万円を先に提案したアジア親善リーグへの開催のための資金に充てれば、費用面の問題の解決に一役買うことができるだろう。
また、センバツ大会、夏の選手権大会では外野席のみ、観客に無料開放している。この席に「海外の野球振興のため」といった寄付の意味合いを持たせ、入場料を課すアイディアもある。
ここ10年間の夏の選手権大会で、無料入場の外野席も含む総入場者が最も少なかった年は2003年の682,000人、その中で内野席・バックネット席・アルプス席などに入場した有料入場者は478,024人であった。よって、総入場者数から有料入場者数を差し引いた入場者数は206,776人となる。(朝日新聞2003年12月14日 「第85回全国高校野球選手権大会収支決算」)
招待券などの入場を差し引いて、外野席に最低15万人の入場が見込めると仮定すれば、外野席の入場料金を100円とした場合、夏の大会だけでも1500万円の利益が生まれる。これは海外交流費の年平均1037万円を上回る額となる。
これらの方法で野球振興のための費用を高野連が積極的に捻出することで、野球後進国でも親善試合に参加しやすい地盤を整える努力をしていく。そのことによって、アジアAAA選手権に代わる「野球振興」を目的とした国際試合の実現の可能性が高まっていくのだ。
また、2012年のロンドン五輪から野球競技は除外されることが決定している。野球競技がなくなることで、野球後進国が野球にかける費用は減少していくことも予想される。つまり、強豪国にとってはメダルを取るチャンスが減ったと捉えられるが、そうでない国は野球を発展させていくための目標をひとつ失ったことにもなる。
この風潮がある今こそ、野球後進国の視点を重視した環境づくりがさらに重要になる。アジアAAA選手権で木製バットが採用されるからとと言って、参加ボイコットと共にこれまでに掲げてきた「アジアの野球振興」というスローガンも高野連は放棄してはならないのだ。
シドニー五輪の際に金属製バットから木製バットに移行された理由は「プロ選手の打球による危険性」であった。現在はアメリカでも高校生の世代でも金属バットの使用を禁止する州があるなど、危険性を叫ぶ声は広がりを見せている。
そこで、金属製バットを使用し続ける際に決して目をそらすことができないのが、選手の安全対策である。第1章でも述べたように、特に投手は打球直撃の危険にさらされている。
よって、国内はもちろんのこと、国際試合で金属バットを使う際には安全対策を十分に施さなければならない。また、野球の技術が劣る野球後進国の選手は、打球を避ける技術も未熟な場合が多く、さらなる対応が求められることになる。
(1) 投手の保護
日本国内では現在、練習中の打撃投手のヘッドギア着用が義務付けられているが、近年胸部に打球が直撃し、選手が死亡する事故が発生し、頭部の保護だけでは安全とは言えない。
胸部に打球が直撃し、死亡した選手は主に心臓震とうが死因となることが多い。「心臓震とうとは、あるタイミングで心臓に衝撃が加わることにより、不整脈が生じることが原因とされる。子供の投げたボールが当たる程度の弱い衝撃でも発症する可能性がある。特に、胸骨がやわらかく衝撃が心臓に伝わりやすい18歳以下の子供に多く発症している」(ミズノホームページより)。
そこで、メーカー選手の保護のための胸部保護パッドを開発し、2007年に発売した(図3)。このパッドは投球や守備の邪魔にならないことを念頭においており、シャツに内蔵されたタイプもある(図4)。
打球が胸部を直撃し、重症に至る事件が多発したことを受け、高野連も胸部保護パッドの着用を義務付けるかどうかの議論を始めており、今後の動向が注目される。もし、胸部直撃による事故が今後多発すればこの胸部保護パッドの着用を義務付けることになるだろう。
また、技術面で劣る野球後進国の高校球児にもこういった防具を推奨することで、日本で起きた悲劇が繰り返されないことにもつながる。
(図3)
(図3)http://www.mizuno.co.jp/whatsnew/news/nr070403/nr070403.html
(ミズノホームページ)
(図4)
(シャツ内臓型胸部保護パッド)
http://www.asics.co.jp/pressrelease/press.html?NT00000B26
(アシックスホームページ)
打者は、死球や自打球によるケガの防止のため、打席では両耳つきのヘルメット着用が義務付けられ(プロ、社会人、大学は片耳でも可能)、エルボーガード、足部のプロテクターの着用が許可されている。生身が基本であった投手においても、練習中のみ使用をしていたヘッドギアの試合での着用の許可や義務付け、ならびに胸部保護パッドの着用義務付けを行うことで、より高度な安全対策をとることは可能だ。
(2) バットのさらなる規制改正
防具の導入以外にも、バットの規制改正をさらに行うことも可能である。道具の機能を操作することは野球を本来の姿から遠ざけると危惧もあるが、金属製バットの導入の際に明確な基準を設けておらず、本塁打の乱発や打球直撃による事故を招いてしまったことは、高野連にも問題はある。
よって、2001年以降行われていない、金属製バットの規制改正もさらに行われると考えられる。改正が行われる際は、買い替えによる費用の問題や、使わなくなった旧規格のバットの処分方法などが問題になると考えられる。
だが、木製バットよりも耐久力が優れている金属製バットであっても限界があるため(平均20000打が可能)、当然新しいバットに買い替える必要はある。しかし、金属製バットはリサイクルが可能であるので、木製バットのように使い捨てとはならず、資源の問題はクリアできる(第1章第2節環境面を参照)。
このように、木製バットの導入をしないのであれば、さらに徹底した安全への配慮をしていく必要がある。
国際大会の木製バット採用により、日本の高校野球は今後国際大会から距離を置くことが考えられる。しかしながら、野球振興の理念を引き継いだ親善試合の活性化と、金属製バット使用時のさらなる安全確保によって、野球を世界にアピールする活動は続けられるはずだ。
野球をさらに世界的な規模で行われるスポーツにするために、安全で耐久力のあるバットの開発、ケガを防ぐ練習方法など、金属バットとうまく付き合いながら、世界にも認められ、不慮の事故が起きないよう、今後の高野連の対応に期待したい。
これまでに行われてきた主な親善高校野球
年
大会名
日本の参加チーム
1987
日韓親善高校野球
山形県選抜
1988
日米親善高校野球
埼玉・東京・静岡各都県選抜
1990
日米韓3国親善国際高校野球大会
全日本選抜
1993国際親善野球欧州大会
(オランダ・フランスで開催)
全日本選抜
1994日韓米3国親善国際高校野球大会
(ロサンゼルスで開催)
全日本選抜
1995
日米親善高校野球
北海道・宮城各道県選抜
1997
日台親善高校野球
和歌山県選抜
日米親善高校野球
秋田・山形各県選抜
日伯親善高校野球
(ブラジルで開催)
全日本選抜
1998
日伯親善高校野球
和歌山県選抜
1999
日韓親善高校野球
徳島県選抜
日米親善高校野球(ハワイで開催)
東北地区選抜
2000
日米親善高校野球
日米親善高校野球
栃木・群馬・新潟・長野・東京各都県選抜
島根、岡山、山口
2002
日米親善高校野球
鹿児島・宮崎・熊本・長崎
・佐賀・福岡各県選抜
日米親善高校野球
(アメリカで開催)
全日本選抜
2003
日米親善高校野球
中国地区選抜
2004
日台親善高校野球
和歌山・兵庫・静岡・神奈川各県選抜
2005
日米親善高校野球
富山・石川・滋賀各県選抜
2006
日米親善高校野球
京都・大阪各府選抜
日米親善高校野球
(アメリカで開催)
全日本選抜
ミャンマーとの親善野球
滋賀県選抜
2007
日伯高校野球
福島・群馬・茨城・岐阜
・三重・東京各都県選抜
日米親善高校野球
(アメリカで開催)
全日本選抜
2004年 岩手・湯本高で試合中に打球が胸に直撃した投手が死亡
2005年 愛知・下伊那農業高で試合中に打球が胸に直撃した投手が重体
2007年 大阪・飛翔館高で試合中に打球が胸に直撃した投手が重体
大阪・PL学園高で硬式野球部の練習に参加していた同学園中の野手が送球を胸に受け死亡
- 事務局に通報しました。
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