卒論「木製バットの導入と高校野球の国際化」その2

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    2008年01月23日 09:42 visibility3186
 今回は第2章と第3章を掲載させていただきます。

 この章ではみなさんが意外と知らない海外の高校野球事情を掘り下げています!

第2章 海外のバット事情 

日本の高校野球は1974年に金属製バットの採用を認め、数回の基準改正を経て、現在も使用している。しかし、海外での使用バットも、金属製バットだけに限られているのであろうか。

ここでは主に高校野球で木製バットを採用している国を取り上げ、その経緯と問題点を考察する。また、金属製バットを使用している国の高校野球事情も掘り下げる。

 第1節 アジア地域 

(1)韓国

2000年のシドニー五輪で木製バットが使用されることを受け、韓国は同年から高校野球でも木製バットを採用した。

韓国で硬式野球部を持つ高校は52校。この52校すべてがプロ野球選手を養成することを目的としており、生徒は午前中のみ授業を受け、午後はすべて部活動の時間に充てている。また、部員も各学年10人程度と少数精鋭で臨んでいる。ほとんどの生徒が高校卒業後もプロや大学で野球を続けるため、高校から木製バットに慣れさせることを強く意識している。

野球部がある高校の数が52校と、日本に比べ少ないことから、金属製バットから木製バットのへの移行はスムーズに行われた。(木村、2007年、P116)

 

(2)台湾

2004年の3月から高校野球での木製バットの使用を台湾は義務付けている。これはその年の9月に開催された、参加選手が18歳以下に限定された国際大会、世界18歳以下野球選手権(世界AAA野球選手権)で木製バットが使用されることが決定されたことに伴う措置だった。(朝日新聞2004年3月10日「バットの軍配は? 台湾・木製、日本は金属 親善高校野球」)

台湾には約100校が硬式野球部を持ち、毎年末に、日本の甲子園大会にあたる「金竜旗」大会を開催している。野球は台湾国内で唯一プロリーグが存在するスポーツ。そして、過去に五輪で銀メダルを取り、国民の注目を最も集めているスポーツである。

2004年のアテネ五輪のテコンドー競技で、史上初の金メダルを手に入れた台湾。団体競技で未獲得の金メダルに最も近いのは、バルセロナ五輪で銀メダルを獲得した実績のある野球である。そのことから、高校レベルから木製バットに適応できる選手を育成し、台湾チームの力を高めようとする姿勢が伺える。

 

(3)その他のアジア各国

日本、韓国、台湾以外の国は実力、規模ともにまだまだ発展途上であり、特に資金面では問題が多い。

アジアの高校生を対象にした、第3回「アジア18歳以下野球選手権」の際にはインドネシア、フィリピン、モンゴルが渡航資金不足を訴え、高野連が募金を呼びかけた。その結果、329万9590円の募金が90件の団体、個人から集まり、参加が可能になった。(1998年8月22日 朝日新聞 「高野連が募金呼びかけ アジアAAA野球選手権参加国に渡航費用」)

また、これらの野球後進国では、高校生以上の年代でも、金属製バットを使用している国がほとんどである。野球にかけられる費用が日本や韓国に比べて限られているため、消耗性の高い木製バットを避け、より経済性の高い金属製バットを好む。

国際大会において初めて木製バットが採用されたシドニー五輪では、アジア予選の際に日本、台湾、韓国の3国以外(中国、フィリピン、タイ)が木製バットを所有しておらず、予選を管轄するアジア野球連盟から一国につき40本のバットが送られた。(1999年7月2日朝日新聞 「野球のシドニー五輪アジア予選は木製バットで」)

 そして、木製バットに限らず、他の野球用品不足にも悩まされている国も多い。木製バットを使用する国際大会に参加する国であっても、普段の練習に浸透している国は少数であると考えられる。

  第2節  アメリカ 

(1)   厳しい安全管理

日本、韓国、台湾と同じく高校が硬式野球部を管理している。他の国に比べて、選手の健康に配慮することが重要視され、試合におけるイニング数は7回(通常は9回)で行われ、投手の投球数や投球間隔も厳しくルールで決められている(1週間に30アウトまでなど)

シーズンは2月から6月までで、地域別のリーグ戦が行われる。このリーグを勝ち抜いた高校がその州の優勝校を決める大会に出場する。日本のような全国大会は行われないため、各州が独自のルールを制定する。そのため、使用するバットの種類も州によってまちまちである。(1994年8月7日朝日新聞 「高校野球の国際交流」)

 (2)金属製バット禁止条例案の可決 マサチューセッツ州の高校は2003年から木製バットのみを使用、ノースダコタ州は2008年から木製バットへの切り替えを決定した。また、ニュージャージー州でも同様の法律の制定が進められている。(2004年6月11日朝日新聞 「野球の金属製バットに「ノー?」 米マサチューセッツ州」、2007年3月27日朝日新聞 「金属バット離れ、海外で進む「けがする危険」で波紋」) 2007年3月14日にはニューヨーク市議会で、市内の公立高校で金属製のバットの使用を禁止する条例案が可決された。同議会によると、この条例の大きなきっかけとなったのは、2006年夏に、選手に打球が直撃した事件が2件起きたことである。ある議員は「金属製バットは選手を、野球が本来持っている以上の危険にさらす」と指摘し、禁止案を支持した。 この条例の決定には全米野球協会、全米高校野球コーチ協会、スポーツ用品会社が費用負担増などを理由に反対の意向を示し、ニューヨーク市議会を相手に訴訟も起こした。しかし、その訴訟は棄却され、当初の予定通り、2007年9月から高校野球の金属製バットの使用は禁止された。その判決では「高校生の健康と安全を守ることは重要」とニューヨーク市議会の意見が支持された。(2007年8月30日産経新聞 「NY市議会、高校野球での金属バット禁止法案を可決」) このように、健康を重視するための使用バットの変更が地域によっては行われているアメリカ。日本の高校野球よりも健康に対して高い意識を持つ国なので、突発的に起こる事故であっても防止策への取り組みは盛んである。 第3節 その他の地域 

日本・韓国・アメリカ・台湾以外のほとんどの国は、高校単位でなく、国や地域が高校世代の野球チームを管轄している。

オランダを例に挙げると、これらのチームは年齢別の組織を作り、学校内の部活動ではなく、地域単位でのクラブチームとして運営されているのが特徴である。その中でジュニアAAA(15歳から18歳)クラスが日本の高校と同じ年代にあたる。(1993年9月16日朝日新聞 「高校野球欧州を行く」)

が、木製バットを使用するプロリーグはあったものの、(オランダ・キューバ)、高校生の年代で常日頃から木製バットを使用する国についての情報は見当たらなかった(国際大会で使用する国はある)。

野球はバットに限らず、道具に費用がかかるスポーツである。グローブ、スパイクをはじめ、ヘルメットやキャッチャーのレガースといったさまざまな道具が必要だ。野球を始めたばかり国はまずこの道具を揃える必要があり、時には道具が振興を妨げてしまう場合がある。そのため、経済性の高い金属製バットは野球後進国にとって欠かせない存在となっている。

 


第3章 国際大会での動き 第1節      年齢制限のない国際大会 

現在、野球の国際大会には、年齢制限のないもので、五輪競技、インターコンチネンタルカップ、ワールドカップ、ハーレム国際大会、ワールドベースボールクラシックがある。

国際大会ではじめて木製バットが導入されたのは2000年のシドニー五輪予選である。導入の大きなきっかけとなったのは、この大会から許可されたプロ選手の参加である。まず、先にプロ選手の参加が決定し、大会では木製バットと金属製バットの併用がなされることになっていた。その後、「プロ選手が放つ打球による危険性」を考慮し、木製バットのみの使用となった。(1999年6月17日日本経済新聞 「シドニー五輪、野球は木製バットで統一へ」)

この大会以後の国際野球連盟主催の国際大会(インターコンチネンタルカップ、ワールドカップ、ハーレム国際大会)では、プロ選手の参加が解禁されたこともあり、木製バットが採用された。また、アジア大会などの地域別大会でも木製バットが採用されるなど、2000年以降、国際大会に木製バットが急激に浸透した。

これらの大会に参加する選手は従来から木製バットを使用していたプロ選手、2001年から木製バットを導入した社会人、クラブチーム、大学、専門学校の選手であったので、選手派遣は問題なく行われていた。

 第2節 高校生の年代を対象にした国際大会 

1、「世界18歳以下野球選手権」

高校生の年代を参加対象にした国際大会には、世界18歳以下野球選手権(以下は世界AAA選手権と略す)がある。主催は国際野球連盟。2年おきに開催され、2006年大会が第22回で、12カ国が全世界から参加している。この大会でも2004年以降木製バットが採用されている。

だが、大会の開催時期が8月後半であることが多いため、日本で行われる夏の選手権大会と日程が重なる。22回行われた大会中、高野連は日本代表をこれまで2度しか派遣していない。1994年は選手権大会に出場していない選手の日本選抜、2004年は選手権大会参加選手による日本選抜を派遣した。また、大会では木製バットを使用するため、木製バットを普段使用する日本の高校野球にとっては、その点も参加の障害となってしまっている。

しかし、日程が選手権大会後(9月3日−9月11日)となった2004年の大会に参加したように、都合さえ合えば、参加は検討される。

また、参加選手は、選手権大会で活躍した選手から選抜された。2004年に選ばれた11人の野手は、2人がプロへ、9人が大学進学や社会人に入団した実力者の集まりであった。高校卒業後も野球を続ける選手にとっては、木製バットへの順応をアピールする場となる。

 2、「アジア18歳以下野球選手権」アジア18歳以下野球選手権(以下はアジアAAA選手権と略す)とは、世界AAA選手権が行われない隔年の9月に開催される、アジア野球連盟主催の大会である。日本はその年の全日本高校選抜チームを高野連が派遣している。この大会は「アジア地域の野球振興」を基本理念にしており、2005年に開催された第6回大会までは金属製バットが使用され、モンゴルやスリランカといった野球後進国も参加しやすい環境づくりがなされていた。先に記したように、2000年以降野球の国際大会では木製バットの導入が進んでいたため、2006年の時点で、金属バットを使用する国際大会はこの大会と、15歳以下を対象にした世界15歳以下野球選手権(世界AA野球選手権大会)のみとなっていた。しかしながら、2007年の第7回大会では一転、木製バットへの変更が決定された。大会を主催するアジア野球連盟の会議での決定だと表向きの発表がされたが、実際は日本が参加していない会議での決定であった。決定の主導をしたのは韓国と台湾の委員によってであり、第6回大会の開催時にも木製バット導入を主張していた両国の意見が色濃く反映される結果となった。また、この会議の開催は日本に伝えられず、木製バット導入についての打診さえもされていなかった。そして、高野連には木製バット導入の決定を会議の数日後に知らされ、完全に日本を置き去りにした形で決定がされた。高野連の田名部参事はこの決定に対し、「この大会はアジア地域の野球振興を目的に創設された。木製バット導入はその基本理念が置き去りにされ、大変遺憾だ」とこの決定に難色を示した。高野連は「夏の甲子園大会後の期間では木製バットに対応しきれないことも踏まえ、参加を取りやめる」という決定をした。(2007年3月12日朝日新聞 「高野連、アジアAAA選手権の不参加を決定」)この決定を受け、高校・大学以外のアマチュア野球チームを統括する全日本野球会議が社会人・クラブチーム・専門学校から、大会参加規定である18歳以下の選手を選考し、同大会に派遣することとなった。この選手団は代表事業として選定され、「U-18日本代表(18歳以下日本代表)」と正式に任命され、高野連が関わらない形でのチーム作りがなされた。以上から、アジアAAA選手権大会に高野連が選手の派遣を取りやめたことで、現状では日本の高校野球は国際大会への参加の道は絶たれたことになる。 

3、「アジア18歳以下野球選手権」に見る各国の国際的立場

 

(1)   アジア野球連盟の動き

21カ国が参加するアジア野球連盟、理事長は韓国のイ・ネフン。主にアジアAAA 選手権とアジア地区での五輪予選を主催している。1994年に初開催のアジアAAA選手権は、アジアの野球振興を目的に創設された。

第1回から経済的な負担の軽減から、金属バットが使用されていたが、事態は急転し、2007年の第7回アジアAAA選手権での木製バット導入を決定している。

 

(2)日本

木製バットが導入されたことで日本の高野連は、参加ボイコットという形で抗議。次回以降の大会でも、金属製バットが使えないと不参加の姿勢をとることが考えられる。

野球振興を目的としてきたアジアで行われる大会にも木製バットを使用するという風潮が生まれるということは、経済的にも野球が浸透してきたという現れとも考えられる。だが、アジアにおける野球振興の努力はまだ必要であるという姿勢を、高野連はボイコットによって示した。

 

(3)韓国・台湾

先に述べたように、韓国は2001年、台湾は2004年から国内の高校野球で木製バットを導入しており、他の国よりも高い適応性を持っている。過去の国際大会でも実績を残しており、まさに世界に通用する国である。

アジアAAA選手権大会は当初、コストのかからない金属バットを利用し、野球後進国の発展を狙いとしていた。2005年に行われた第6回大会の際に韓国が、「世界AAA選手権で木製バットが採用されたように、アジアでも国際標準にあわせるべきである」と主張し、波紋を呼んだ。結局は金属製バットの使用を続けることになり、創設当時の目的である、野球振興の姿勢を崩さなかった。(2005年8月18日朝日新聞「アジアAAA選手権は金属製バット使用」)

しかしながら、韓国と台湾は「世界基準」という言葉を使い、第7回大会での木製バット導入を決定した。これは、アジアAAA選手権の開催目的を、「野球振興」から、「世界で通用するアジアの野球へ」の意識の変化を求めた行動ともとれる。

また、第2回大会から、日本・韓国・台湾といった実力国をAリーグ、その他の国をBリーグ、と2部制をとっている。そのため、Aリーグ内では実力伯仲の試合が多く行われ、野球振興とはまた別の、貴重な国際舞台における真剣勝負の場を生み出している。

国際経験を強く意識した両国は、このAリーグでの試合でそれぞれの国のチーム力を高めるため、「国際基準にのっとった対応」を求めたとも考えられる。

 

(4)その他の国

アジアAAA選手権に参加する国は両国のような強豪国ばかりではない。選手権と言う名前ではあるが、アジア地区での野球振興という目的がある以上、世界に目を向ける前に、野球後進国であっても参加しやすい環境作りがされてきた。

また、ボイコットとはまた別に木製バットにかかる費用の面を危惧し、参加が危ぶまれる国が出てくる可能性もある。過去に日本が渡航のための費用を寄付したように、特に費用の問題も解決しなければ、参加国の減少などによって、大会事態の存続も危うくなる。

   4、高校生が参加できる国際大会

韓国と台湾の意見を基に、今後もアジアAAA選手権が木製バット使用のままで開催されるとすれば、現役高校球児の参加は高野連が態度を変えなければ非常に困難になる。また、もうひとつの国際大会である世界AAA選手権には日程の問題があり、今後の参加は不透明である。

そこで、高野連は今後どういった対応をとるべきなのかを次章で考察する。


  

 

 

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