卒論「木製バットの導入と高校野球の国際化」完結編

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    2008年01月26日 01:51 visibility1312

長々と掲載させていただきました卒論もついに完結です!目を通していただいた方々に感謝であります!


第5章 高校野球のこれから(結論に代えて)

 

アジアAAA選手権の不参加と共に、日本の高野連は国内での木製バットの導入を断念し、金属バットの継続使用を選択した。高校野球の国際大会から距離を置くことになってしまったが、実情では木製バットを高校生から採用している国は世界でもごく一部であり、まだ木製バットが高校野球の世界基準となったとはいえない。


 また、木製バットを導入している韓国は、硬式野球部がある高校の数が日本の80分の1であり、アメリカは各州によって対応が異なるため、共に日本とは事情が大きく違っている。


 これまでに述べてきたさまざまな要因から、全世界最大規模の高校世代の硬式野球部がある日本としては、高野連の判断は妥当であったと言える。つまり、日本の高校野球をこれまでのように機能させるために、木製バットの導入は適していないのである。


 そして、アジアAAA選手権や世界AAA選手権といった、木製バットを使用する大会にただ参加するだけでは、真の野球の国際化は達成されない。なぜならば、世界には資金不足のため、道具の不足に悩まされ、大会参加の際の渡航費用さえも捻出できない国も存在する。世界を舞台に優勝を争う試合を行う前に、まず、野球を行う地盤を整えていく必要があるからだ。


 高校世代をはじめ、各世代の国際大会で好成績を修めていくことで、世界に日本の野球をアピールすることも国際化のひとつと言える。だが、すでに日本の野球が高水準であることはこれまでの国際大会から周知の事実であり、強さをアピールする活動はすでに行われている。


 今後日本に求められるのは、アジアAAA 選手権が掲げていた野球振興という理念だ。国際大会で木製バットの採用が押し進められる現状で、見失われかけているこの理念をどの国よりも率先して実現することで、野球の伝道者としての日本を世界にアピールすることができる。


 この野球振興に、約4000校という規模を誇る日本の高校野球と、豊富な資金力を誇る高野連は大いに貢献できる。第4章で述べたように、これまでに行われてきた各国との親善野球を発展させ、日本の高校球児が野球の伝道師の役割を果たすことで、国際化に一歩ずつ近づく。

つまり、将来の好敵手となりうる世界の高校球児を、日本の高校球児が支援する。国際大会でこれまで圧勝していた国に、日本が苦戦し始めたときに、野球の国際化がなされたと言えるのではないだろうか。


 加えて、国際化と平行して、金属バットの安全対策も強化していくことも重要だ。バット自体の改良、投手をはじめとする選手の保護を積極的に行い、不慮の事故を防ぐ努力を率先して行うことも日本の高校野球に課せられた課題なのである。この活動を続けていくことで、経済的に優れた金属バットを野球後進国が安全に使用できるようになり、さらなる野球振興が見込める。


  これらの要因から、今後の日本の高校野球には、金属バットの安全確保と野球後進国に向けての野球振興を強く意識することで、木製バットを導入せずとも、世界の野球に貢献していくことを期待したい。

   
おわりに  

 大学入学時から、大学スポーツ新聞部の一員としてスポーツに触れることが多かったことと、大学4年時に母校に教育実習に行き、指導者として高校野球に関わった。加えて、生粋の野球好きということもあり、卒業研究のテーマをこの「木製バットの導入と高校野球の国際化」と決めた。


 個人競技ではゴルフの石川遼選手、フィギュアスケートの浅田真央選手といった高校生が世界レベルで活躍し、野球競技自体もオリンピックやワールドベースボールクラシックといった大会によって、急激な国際化が進んでいる。


 しかし、それにも関わらず、日本国内では絶大な人気を誇る高校野球であっても、なぜ国際的な大会となるとほとんど注目されることがないのか、といった疑問がまず浮かんだ。そして、調査を進めてくと、その原因に木製バットが大きく関わっていることが判明したのだ。


 野球に触れる機会が多い日本にいると、野球は世界中に浸透しているスポーツと勘違いしてしまうが、実際はそうではない。現状は、日本、キューバ、アメリカ、韓国、台湾といった一部の国で盛んに行われているのに過ぎないのである。

しかしながら、100年近くの伝統を持つ日本の高校野球は世界に誇れる実力と、スポーツマンシップを持っている。高校時代硬式野球部に所属した自分自身も、この精神を身をもって実感している。


 費用などの問題は山積みではあるが、将来は、毎年国民の注目を集めるセンバツ大会・夏の選手権大会だけでなく、高校球児が世界各国に羽ばたいて、野球の伝道者となってほしいと願っている。


 これまで野球に触れる機会を設けていただいた方々と、世界中の野球を愛する方々のおかげで、この論文は完成の日を迎えることができた。


 ならびに、執筆にあたって取材に応じていただいた、龍谷大学の小椋博先生、徳山高校の長谷川司先生、各大学の硬式野球部の選手、執筆の際にご指導いただいた担当教員の小黒純先生、そして、すべての関係者にお礼申し上げます。

 

                                山本 晋

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