野球以外です。

  • げん
    2006年08月14日 20:33 visibility52

 海風特有の湿った風が、空虚な3LDKのリビングの窓から吹き込んできている。

僕が吐き出した煙草の一筋の煙は、いくつもの渦環を作りながらゆっくりと広がっている。

 もう子供の笑い声も、言い争いの喧騒も消えて10ヶ月近くが経っていた。

 

 僕は毎月のように、ラブホテル街を抜けたスタジアムの見える家裁に足を運び、いかに

僕が駄目な人間で、救いようが無い人間だという主張を聞かされ、莫大な慰謝料と

子供には二度と会えないと宣告され続け、またスタジアムを背に駅へ向かい歩いた。

 

 彼女はずっとそのおやにずっと抑圧され続けてきた、気の遠くなるほど長く、そして

これからも、おそらくずっと。 

 彼女は一種の精神病になっていた。そして、僕自身も気がつかないほど小さな心の

変質から、心を病んでいった。

 あるとき彼女は、この部屋を出て行った。もう街路樹の葉は落ち、白い冬と刺すような

冷たい海風が吹き荒れる季節にだ。

 彼女も彼女のおやも、僕を一通り批判すると、無視した。そう勝者の歴史に敗者のした

正義が無いかのように。自分たちがあたかも正義の味方であるようにね。

 

 僕が一人で生きていくには、広すぎるこの部屋には、やらせくさいTVの音と遠くの車の

エンジン音がかすかに響いている。

 もう僕はここでの言葉を忘れてしまった、いや、言葉を発する必要がなくなったのだ。

 

 そして、この部屋からいろいろな物が消えていった。そう彼女達が持ち去ったのだった。

 僕はテレビの前に座り、その昔に子供のお絵かき台でった机に、ノートパソコンと携帯

電話の充電器を置いた。余りにも広すぎる。

 

 僕は、煙草を吸い、酒を飲み、テレビを見て、当てのないネットサーフィンをした。

 あてもなく彷徨い、特有の湿った海風にあたった。

 今までの中で、僕の心が躍り、輝いていたのはいつだっただろう。

 

 また、ラブホテル街を抜けて、スタジアムの見える家裁にいった。今度は代理人も

一緒だった。僕たちは、また、すこしトーンダウンした例の主張を聞いてきた。

 代理人とスタジアムの近くの喫茶店で、今後のことについて話をして、別れた。

 絶望的な話と希望のある話が、半々だったと思う。

 また、僕はスタジアムを背に歩き出した。

 

 スタジアムは、僕が少年だった頃のような、熱気を発していた。

 

 僕は、そのままスタジアムの外野席へ向かった、あの少年のころのように。

 

※事実を元にした、フィクションのような、ノンフィクションのような、判断は読んだ方に

まかせます。

 

たまには、趣向の違う日記ですが、お楽しみいただけたでしょうか? 

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