稲葉の底力

今見せろ　お前の底力を　突き進め　勝利を掴み取れ


　プロ野球の応援歌なんてものは幼稚で捻りもない恥ずかしい歌詞ばかりなのだが，ファイターズの稲葉篤紀選手のこの歌詞は(後半部分は別として)この選手の経歴にぴったりマッチした歌詞だと思う．

　その稲葉選手は，プレーオフではポップフライばかり打ち上げていたのだが，0-0で迎えた9回裏2死12塁の場面で，自身の一番の得意球である真ん中低 めギリギリ一杯のストレートを鮮やかに弾き返した．惜しくもセカンド仲澤に捕られたが，1塁走者小笠原の激走で2塁セーフ．一瞬愕然とするショート川崎を 見たのか見なかったのか，2塁走者森本が迷わず快速を飛ばして一気にホームを陥れ，サヨナラタイムリー内野安打となった．

　次打者は6番SHINJO．0-0で9回裏2死12塁となると，繋いで二死満塁でSHINJO・・・という場面を，あまり野球を見ないにわかファンや， いい絵が欲しいマスコミ，そして俺みたいなSHINJO信者が期待してしまうところだけれど，その絵が完成する前に決めた．2年前のプレーオフとは違う， SHINJOが引っ張るチームではないことを象徴する一打だった．

　SHINJOが注目を浴びるのはもちろん，彼の後継者として認知された森本にもマスコミが目を向ける中，「12球団最高の外野」の右翼を守り続け，5番打者として自己最高の成績も挙げてきた．走攻守の3拍子を高く地味なレベルで兼ね備えた外野手稲葉篤紀．

　スワローズからFA宣言し，メジャーに見向きもされずに北海道に流れ着いた男稲葉篤紀．彼の「底力」はチーム唯一の優勝経験者として，日本シリーズにも見られることだろう．