おかちゃん。

フランスＷＣ最終予選。

日本の勝利を皆、期待していた。それを誰よりも背負っていたのが岡田監督だった。

そのころ僕は、新横浜の会社に勤めていた。

国立の試合の前には、代表は必ず新横浜Ｐホテルを利用していた。

それは、最終予選予選ホームのＵＡＥ戦の当日。韓国に破れた後２分け。次のアウェイでの韓国戦を前に緊張が高まっていた。

僕はいつものように営業に出かけようと駅をめざし歩いていた。

新横浜ＰＨのエントランスにブルーのバスが。

選手はまだ乗っていなかったが、一番前の席に岡田監督が座っていた。

一瞬視線が交わった。

僕はお辞儀をした。

つられて岡田監督もお辞儀をした。

 そのあと選手達がバスに乗り始め、僕はその場を去った。

「がんばってください」とか「勝ってください」とか言えばよかったかなとも思ったが、

そんなことを一番分かっているのは監督なんだから、何も言えなかった。

本当に戦っている人には、励ましも、叱咤もいらない。

ただ、一緒に戦います。という気持ちを表すことだけ。

この時、それが僕にとってお辞儀だった。

おかちゃんはわかってなかったよな〜。

でも見ず知らずの若造に返礼してくれるなんて、なんていいひと！と思った。

早く帰って来て下さいね。監督！