去り行く者たちの記録と彼らへ贈る言葉 2012(2) 田中大二郎と伊集院峰弘
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舎人
2012年12月09日 03:41 visibility9941
少し間が空いてしまいましたが前回の続き。今日は坂本の同期入団ながら、今オフ2人揃って戦力外になってしまった田中と伊集院についてです。この2人の事は入団以来、本当に思い入れを持って応援してきました。今回の決定には悲しみと残念な思いがひとしおです。2人とも現役を引退し、ジャイアンツアカデミーのコーチになるということですが、まだ大卒2年目と同じ24歳。年齢からいったらどう考えても早過ぎる引退です。2人ともまだまだ可能性を感じますが、どこの球団からも獲得のオファーが無かったということで今回の決定になってしまったのです。ただ、彼らが巨人でプレーをし、我々若手の活躍を祈るジャイアンツファンに夢を与え、球場の内外でしっかりとした軌跡を残した事は事実です。その思い出を振り返って、記録をまとめておきたいと思います。
田中大二郎(24)内野手 戦力外→ジャイアンツアカデミーアシスタントコーチ
今年の東京ドームで行われたイースタンロッテとの試合で大二郎は左中間へ本塁打を放つ活躍を見せました。これは防除率0点台だった香月から打ったもので、非常に価値のあるものだったのですが、その弾道はまるで、かつて巨人の4番を張っていた李承燁を思い出させるものでした。球の芯よりやや下を叩き打球にスピンをかけて飛距離を出す。こういった長打のセンスとは教えてどうなるものではなく、ある程度持って生まれた才能がないと無理だと聞きます。大二郎は正に天性の長距離砲の才能を持ったバッターだったと私は思います。
坂本が1位指名を受けた2006年のドラフトはまさに巨人の転換期を告げるものでした。高校生ドラフトと大社ドラフトで合わせて6人の野手(捕手含む)が指名されたのです。それまでの巨人はどちらかといえば投手偏重のドラフト指名を続けてきました。これはFAと逆指名ドラフトによって、野手の補強はピンポイントで済み、育成や淘汰を必要とする指名をしなくてすんだからです。しかし、そういったことを何年も続けて来た弊害で巨人の野手事情は大きく悪化し、期待するに値する若手野手がカスカスの状態になってしまっていました。そこで短期的と長期的な両面から野手のドラフト指名が行われたのでした。その長期的展望に立って指名を受けたのが坂本であり、田中大二郎だったのです。彼らは育成を標榜する新生巨人の象徴の強化指定選手としてプレーすることとなります。それまでは実績や実力重視だったファームの出場を、将来へ向けた可能性を鑑みて起用することになったのでした。大二郎のファースト守備は上手いと定評があったものの、プロ入り後は強肩を生かして外野手として育成されることとなりました。この大二郎の強肩はかなりのもので、おそらくチーム随一ではないかと思うほど。私が見てきた限り、亀井や長野よりもワンランク上のものだったと思います。これを生かさない手はないと大二郎の獲得を決めたチーム関係者は考えたのでしょう。田中の入団した頃の巨人の4番は李承燁でしたが、大二郎は将来、外野とファーストを兼任する主軸として、まさにポスト李承燁を期待されたプロとしてのスタートだったと思います。
1年目の大二郎はイースタンで.228の低打率ながら10本の本塁打を放ち週刊ベースボール誌のビックホープ賞に選出されます。この年の坂本は5本しかイースタンで本塁打を放つことができなかったのですから、大二郎は長距離砲としての片鱗を多少ながら見せたと思います。2年目もイースタンで本塁打を11本、打率も.266となり前の年よりも4分近く上げることができました。また、1試合ながら一軍初出場も果たしています。3年目もイースタンで打率.261、本塁打11本といったまずまずの成績を残し、一軍でもついに初ヒットを放つことができました。ここまでは誰もが大二郎の将来を信じていたし、順調な成長を感じていたことと思います。
少し大二郎の事情が変わったのは4年目の2010年でした。バッティングフォームがそれまでのバットを立てて構えるフォームから、高橋由伸のようにバットを寝かせて構えるようになったのです(現在は元に戻している)。これによって打率は上昇し(.261→.273)、三振も激減しました(380打席で61三振→400打席で34三振)。しかし、本塁打も11本から8本に減ってしまったことで、なんだか特長のないバッターになってしまった感じでした。さらに3年目までは外野手登録だったのが4年目からは内野手登録になりました。田中の外野守備は肩こそ強いものの、守備範囲が狭く、おぼつかないものでした。目測は誤る、捕球体勢に入ってから飛球を見失うなど、何年経っても上達しないままでした。それならばと高校までやっていたファーストを中心に守ることになったのでしょう。大二郎のファースト守備は“攻める”守備と形容した方がいいもので、非常にアグレッシブなものです。守備から一軍に入っても良いものだったと思います。ただ、この内野手転向は後々大二郎の出場機会減につながってしまうことになります。ファーストというのは守備力の落ちたベテランや外国人選手たちが頻繁に宛てがわれるポジションです。内野手といっても左投げの大二郎はファースとしか守れないとなると、そういったベテランや外国人たちを相手にしなくてはいけなくなってしまったのです。
そういった心配な要素はあったにせよ5年目の2011年は大二郎にとって飛躍の年になりました。オープン戦から一軍に帯同し、ついに開幕一軍の座を掴むのです。さらにプロ初打点とツーベース3本を含む6本のヒットを放つことができました。一軍には6月の頭まで登録され、大いにその存在を誇示することができたと思います。結局はそのまま再び一軍に昇格すること無く二軍に落ちたままで、このシーズンは終えることになってしまったのですが、一軍定着まではそれほど遠い位置にいないことがハッキリと感じ取れたシーズンではなかったかと思います。
そして、今シーズンの話ですが、開幕から打撃不振で7月までは2割そこそこの低打率に苦しみます。本塁打もオールスター前までに2本しか打てません。ようやく8月以降、調子を取り戻しつつありましたが、今度はファーム落ちしていた小笠原やボウカーの優先起用でなかなか出番が回ってきません。結局、今年は一軍での出場も無く、イースタンでも97試合の出場で56安打、本塁打3本、打点19、打率.245というプロ入り後最低の成績でシーズンを終えてしまったのでした。
今年の不振を考えるに、体の急激な変化にあったような気がします。一緒に観戦に行った茶柱さんとも話していたのですが、今年の大二郎は体が一回り大きくなった気がしました。おそらくこれは統一球によって打球が飛ばなくなったことに対する大二郎なりの対策だったのではないかと思います。しかし、それによって動きが鈍くなり、打撃においても感覚が狂ってしまったのではないかと思いました。どうも守備においても動きにキレが無かった今シーズンの大二郎を考えるに、体が大きくなったことにより攻守ともにバランスの崩れがあったのではないかと私は思います。
ただ、今回の戦力外の理由を考えると、ファーストでしか使いようのない使い勝手の悪さが一番の理由ではないかと思います。成長してモノになるかどうか分からない上、ファーストでしか生きられない選手ならば、何もいつまでも抱えておく必要はないと球団は判断したのでしょう。同じ左打ちのボウカーや小笠原がいますし、捕手の阿倍の緊急避難場所としても巨人のファーストは使われます。そんなチーム事情の中で、大二郎の居場所はなくなってしまったのだと思います。
体のバランスさえ掴めれば、まだまだ可能性を感じるだけに今回の戦力外は本当にもったいないし、残念でなりません。私は石井義のような代打の切り札的な存在に成長するのではないかと期待していました。トレードでやって来た横川なんかよりも可能性があるとすら思っています。他の選手はさて置き大二郎の戦力外だけは未だに納得できないでいます。
期待をしていただけに話もたくさんしたし、動画もいっぱい作りました。今年のプレー集も未紹介のヒットシーンを足して作ってみました。6分を超える大作です。こうした鋭い打球と屈託のない笑顔をもう見る事ができなくなるかと思うと本当に胸が痛くなります。
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伊集院峰弘(24)育成内野手 戦力外→ジャイアンツアカデミーアシスタントコーチ
伊集院も好きなバッターでした。この年の坂本田中伊集院の高卒三人衆の中では最も早く本塁打を放ったのが伊集院でした。入団して間もない3月の教育リーグでしたが、私は運良くこの試合を目撃することができました。この試合はベイスターズ球場でしたが、伊集院は湘南の左腕佐久本からレフトのネットを大きく揺らす特大の本塁打を放ったのでした。この当時から非常にしっかりとした打撃フォームをしており、軸のブレないしっかりとしたバッティングが出来ていた感じでした。
高校時代は捕手とサードの兼任ということでしたが、プロ入り後は捕手1本でのスタート。しかし、捕手としては捕球もスローイングもリードも全般に渡って今ひとつ鈍臭い感じでした。なんだか1年遅れて入団した谷内田の方が捕手らしい捕手と感じた覚えがあります。それでも3年目の2009年は岡崎監督の方針で、春先に二軍のスタメン捕手として抜擢されたりしています。オビスポと組んで2人共おぼつかない動きながら、必死でバッテリーを組んでいたことを思い出します。
しかし、捕手としての伊集院は3年で見切りを付けられ、内野手に転向します。これは私と同じように伊集院の打撃にセンスを感じた球団関係者がいたからに他なりません。その通りフューチャーズやシリウス、第二二軍を中心に出場した伊集院は、チームの主軸として打線を牽引する活躍をします。ただし、これがイースタンの試合になるとなかなか結果を出すことが出来ません。そこにどれほどの差があるか分かりませんが、こういったパターンの選手は結構多く、プロとしてやっていくだけの決め手がない、つまりは低いレベルでまとまってしまった選手であるということです。何年待ってもそこから突き抜けることが出来なかった伊集院は、打者としてセンスを感じるものの、プロとしてやっていくにはやや厳しいレベルでまとまってしまった選手だったのではないかと私は思います。
私は伊集院が入団時捕手だった経緯から、いつか故木村コーチのようなオールラウンドプレーヤーになることを期待していました。内野を中心にどこでも守れる汎用性に活路があると期待していたのです。今考えるとそこまでの器用さが伊集院にあったかどうか分かりませんが、泥んこになり捕手として内野手としてひたむきに白球を追い続けた経験は、今後の伊集院の野球人生の財産となっていることでしょう。アカデミーのコーチとして皮切りに、いつかチームのコーチとしても帰って来て欲しいと思います。
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