巨人の2016年ドラフトを振り返って(1)総論 なぜ巨人のドラフトの評価は低いのか?その評価は正当なものなのか?
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舎人
2016年12月28日 05:32 visibility7570
全く仕事が遅いもので、更新をしようしようと思いながら、こんな年の瀬になってしまいました。遅ればせながら今年も巨人のドラフトのことを振り返ってみようと思います。作業自体はドラフトの直後から始めたものの、なんだかその後あまりに白ける出来事が重なり、途中ほとんど放置したような感じでした。それでもこの作業をやっておかないと、来春に新人選手を見る上で何の手掛かりもないままに観戦することになってしまう。そんな思いから億劫で億劫で仕方ないながら作業を再開したのです。しかし、時が経つに連れてだんだんと検証しなくてはいけない資料が集まり、身動きが取れなくなってしまった感じ。さらに待てばもっと資料の充実した話になると思うのだが、それではいつまで経っても埒が明かないので、この辺りでまとめてみたいと思う。
まずは今年の巨人のドラフトがどういった狙いがあったのかを振り返ってみます。
週刊ベースボール 2016ドラフト大展望(2016.10.24号)
巨人【田中と佐々木の2択】
2年連続のV逸で、大型補強が予想される。補強ポイントは先発、左のリリーバーに長打力のある外野手。FA&新外国人獲得にも積極的に動きそうだが、ドラフトでは開幕即戦力が期待できる先発投手に狙いを絞る。昨年来、常にA評価の右腕・田中正義(創価大)が筆頭候補。その田中が故障で実践からはなれた際に、同じ右腕の佐々木千隼(桜美林大)の評価も急上昇しており、1位はこの2択が予想される。同じくA評価とされる山岡泰輔(東京ガス)も捨てがたいが・・。
野球太郎 2016ドラフト直前大特集号(ポイント抜粋)
読売ジャイアンツドラフト戦略分析
・近年はなんとなく逃げのドラフトが多く巨人らしさが無い。今年は競合覚悟で、果敢に田中正義(創価大)を指名してほしい。即戦力度では佐々木千隼(桜美林大)も捨てがたい。
・スター候補の高校生が欲しい。甲子園経験者として華のある今井達也(作新学院高)や将来のセカンドレギュラー候補として糸野雄星(明秀学園日立高)を指名したらどうか。
・チーム防御率は良かったが、投手陣は世代交代の時期に来ている。近藤均(王子)はお勧め。
・内野に比べ、外野は少し層が薄い。岩切貴弘(JR九州)は面白い。
・今年も独立リーグから大量指名するかが注目。BCリーグのスラッガー岡下大将(福島)、投手では安江・寺田(共に石川)などが候補。
アマチュア野球41 ドラフト2016
リーグV奪還のために投手陣強化が急務 特Aは田中正義!
巨人は投手陣強化が急務で、ドラフト戦略にも直結しそうだ。8月のスカウト会議でAランクに挙ったのは9人だが、投手は7人を占める。特Aと位置付けられているのは創価大・田中正義。今季の先発ローテで若手の本格派右腕は菅野だけで、最速156キロの田中は探し求めているピースとして合致する。今春の離脱要因となった右肩痛が唯一の不安材料だが、9月10日に秋季リーグ戦の高千穂大戦を視察した堤辰佳GMは「大人の投球ができていると感じた。最上位の評価は変わらない」と高評価した。田中は他球団と競合する可能性も高く、指名を外した場合のリスクもある。今ドラフトは投手は豊作と言われ、他候補の1位指名も検討している。大学生では桜美林大・佐々木千隼、明治大・柳裕也、社会人では東京ガス・山岡泰輔が即戦力として評価されている。高校生もBIG3の一角、履正社高・寺島成輝が早い段階での一軍デビューも期待できる逸材で、横浜高・藤平尚真も潜在能力を買われている。甲子園優勝投手の作新学院高・今井達也は8月のスカウト会議から甲子園大会を経てAランクに食い込んできた。
チームの野手陣は阿部慎之助、村田修一らベテラン化が進んでいる。今季は自己最高のシーズンと言っていい坂本勇人は27歳で脂が乗っているが、ポスト坂本となる素材も加えたいところ。日本大・京田陽太、中央学院大・吉川尚輝は次世代の有力選手だが、投手優先の方針は変わらなそうだ。チーム防御率はリーグでも上位だが、エース菅野、高卒3年目で2ケタ勝利の田口麗斗に続く、若手投手の1軍定着は今季見られなかった。ドラフト戦略が高橋巨人2年目となる来季の3年ぶりリーグ優勝奪還のカギを握る。(日刊スポーツ 巨人担当 広重竜太郎)
アマチュア野球の記事ではAランクは9人となっていますが、その後10月の初旬には6名に絞られます。
巨人ドラ1候補「競合辞さず」田中正義ら6投手[日刊スポーツ 2016年10月7日]
巨人が「競合辞さず」の構えで即戦力投手を1位指名する。6日、東京・大手町の球団事務所でスカウト会議を開き、20日のドラフト会議の1位指名候補を6投手に絞った。大学生は創価大・田中正義、桜美林大・佐々木千隼、明大・柳裕也(いずれも4年)高校生は履正社・寺島成輝、横浜・藤平尚真、作新学院・今井達也(いずれも3年)の名前が挙がった。中でも球団内の評価を二分するとみられるのが156キロ右腕の田中とリーグ戦で53回連続無失点の佐々木だ。複数球団が競合する可能性が高い。巨人は近年は単独指名で堅実な戦略を取ることが多かったが、山下スカウト部長は「一番すぐ戦力になる投手に行く。どこに行っても競合する可能性はある」と断言。3球団以上の争奪戦に加わったのは、計5球団競合の07年高校生ドラフトの由規、同年大学・社会人ドラフトで6球団の大場、3球団の篠田以来となる。右肩痛から復調しつつある田中は山下スカウト部長も「秋は本来の投球に近い。力的にはトップクラス」とスケールの大きさを感じる。一方で152キロ右腕の佐々木は変化球も含めた総合力で評価が上昇しており、即戦力のニーズにマッチする。18、19日の最終会議で筆頭候補を絞るが、田中、佐々木が両軸になりそうだ。
巨人が狙っていたのは1にも2にも即戦力投手だということが分かります。私は前から巨人に本当に必要なのは投手ではなく大きいのを狙える野手だと思っていたのですが、そういった話は一切挙っていなかった感じです。
そして指名されたのが以下の選手たち。
巨人2016年ドラフト指名選手(データは日刊スポーツ参照)
[本ドラフト]
1 吉川 尚輝 21歳[岐阜] 177cm 79kg 内野(右・左) 中京高ー中京学院大
2 畠 世周 22歳[広島] 186cm 78kg 投手(右・左) 近代広島高福山ー近大
3 谷岡 竜平 20歳[東京] 181cm 79kg 投手(右・右) 成立学園高ー東芝
4 池田 駿 24歳[新潟] 174cm 71kg 投手(左・左) 新潟明訓高ー専大ーヤマハ
5 高田 萌生 18歳[岡山] 178cm 72kg 投手(右・右) 創志学園高
6 大江 竜聖 17歳[神奈] 173cm 78kg 投手(左・左) 二松学舎大付属高
7 廖 任磊 23歳[台湾] 201cm 125kg 投手(右・右) 岡山共生高ーパイレーツマイナーー開南大(台湾)
[育成ドラフト]
1 高井 俊 21歳[新潟] 180cm 87kg 投手(右・右) 東北高―BC新潟
2 加藤 脩平 17歳[静岡] 177cm 84kg 外野(右・左) 磐田東高
3 山川 和大 21歳[兵庫] 167cm 73kg 投手(右・右) 芦屋学園高―芦屋学園大在学中ー関西兵庫
4 坂本 工宜 22歳[兵庫] 178cm 80kg 投手(右・右) 関西学院高ー関学大準硬式野球部
5 松原 聖弥 21歳[大阪] 172cm 70kg 外野(右・左) 仙台育英高ー明星大
6 高山竜太朗 21歳[鹿児] 186cm 80kg 捕手(右・右) 鹿児島高ー九産大
7 堀岡 隼人 18歳[神奈] 183cm 84kg 投手(右・右) 青森山田高
8 松沢 裕介 24歳[愛知] 181cm 83kg 外野(左・左) 誉高―朝日大ー四国IL香川
巨人は昨年来、田中正義のことをずっと追いかけてきたのだと思います。それはただ単にチームの補強ポイントが即戦力投手だったからという理由だけではないと思う。単純に即戦力度から言ったら佐々木でも良かったのだ。しかし、巨人が田中を選んだのは、菅野に並ぶエースを期待できるのは田中を置いて他にいないと判断したからではないか。昨年まではなんだか抽選を避けていた感のある巨人が、珍しく今年は競合覚悟でトップアマを狙いに行ったのだ。こういった姿勢は、たとえ抽選に破れたとしても支持しなくてはいけないと思う。この姿勢が無ければ、スター性がありスケールの大きい選手を手に入れることは決して起こらない。一時代を築いた原も松井も抽選の末に手に入れた選手たちだったのだ。また、他球団が投手に目が行っている間に、すぐに切り替え外れ1位を野手にしたことも評価したいと思う。獲得した吉川は色々な意見があるものの、間違いなく今年の野手の中では3本の指に入る好素材だった。地元中日がえらい熱の入れようだったし、1位入札が無くても、2位の巨人の順番までは残っていなかったに違いない。セカンドのレギュラー創出はチームの長年の宿願であり、そのための素材としてはうってつけの選手を獲得したと思う。
2位以下はすべて投手。さらに、育成まで入れたら10人も投手を指名したことになる。この辺りが評価の分かれるところではないかと思う。しかも、2位〜4位までが全て大社の即戦力を期待しての投手である。確かにドラフト前一番の目的だったのは即戦力投手の獲得だったかもしれない。しかし、2位で指名した畠の前に、外れ1位指名も検討されていた花咲徳栄の高橋が残っていたではないか。また、同じく指名の噂があった秀岳館の九鬼もいた。東海大望洋の島でも良かった。しかし、巨人はスケール感や素材よりも方針を優先して即戦力投手を指名し続けたのだ。どうもこの辺り、巨人の指名方針の頑さというか融通の利かなさが目立って仕方ない。もっともこういった頭の固さは今に始まったことではない。10年前、2006年のドラフトは左投手が補強ポイントだったのだが、希望枠で金刃の入団を決めるだけでは満足せず、2位で上野、5位で深沢、育成1位で鈴木と4人もサウスポーを獲得した。しかし、そのおかげで囲い込みをしていた長野を強行指名される失態を犯している。あの時、上野ではなく2位で長野を指名していたら、2009年のドラフトで菊池雄星や筒香を指名できていたかもしれない。あの時の愚かな頑さがその後のチームの歴史を少なからず変えてしまった気がする。 また、2012年のドラフトのことも思い出される。1位指名は1年待ってくれた菅野だったのだが、2位で巨人は日ハムに移籍した大累を指名したのだ。この時のことを藤本スカウトが当時の野球太郎で振り返っており、その時のコメントはこんな感じだった。「現場からの指示で2位以降は野手を取る方針だった。大累はとにかく守備がうまくて足が速くて欲しくてたまらなかった選手。鈴木が残っていても2位は大累だったと思う」この鈴木とは、今年大ブレイクした広島の鈴木のことである。巨人も鈴木のことは高く評価していたそうだが、それよりも大累を選ぶ方針だったらしいのだ。要するにこの時の絶対権力者の原監督の意向で、2位以下の野手の指名が決定された。この野手とはおそらく即戦力のコマとなる野手のことだろう。つまり巨人のドラフトとは、どんな好素材の選手がいても、現場なのかフロントなのか分からないが、決めた方針が優先するということを物語っている。あの時のドラフトでは巨人の2位指名の前に広島に鈴木が指名され、悩むまでもなかったが、もしも残っていてスルーしたとしたら、その後スカウトたちはどんな非難を浴びたことだろう。巨人はとかく2位や3位の指名に謎があると言われるが、それはこういった残っている好素材よりも指名方針が優先するからではないかと私には思える。
野球太郎2012年ドラフト総決算プレミアム特集号
また、不満なのが高校生の指名が少ないこと。本指名で2人、育成で2人は少なすぎる。特に野手は育成2位の加藤だけなのは残念な限りである。本指名と育成で合せて9名もの高校生を指名したソフトバンクのような長期的展望に立った野心がどうして持てないのだろう。巨人の25歳以下の野手不足は深刻である。トレードで石川や柿澤を獲得して話が済む問題ではない。
これらの指名した選手たちの評価の一覧は下の表の通りである。
週刊ベースボール(横綱→大関→関脇→小結→前頭1~17→なし)
野球太郎(◎→◯→△→なし)
アマ野球(AA→A→BA→B→C→なし)
野球人(安倍さんの一人ドラフトによる1位〜6位)
日刊スポ(特A→A→B→C→なし)
スポニチ(A→B→C→なし)
報知(横綱→大関→関脇→小結→前頭1~15→なし)
サンスポ(A→B→C→なし)
デイリー(特A→A→B→C→なし)
トーチュウ(特A→A→B→C→なし)
後で各選手ごとの各論で話そうと思うが、1位指名の吉川は文句なしの評価ながら、2位の畠は評価が分かれる選手のようだ。ドラフト前にケガをしたことをどう考えるかのようだが、ケガの影響はないと考えてようやく2位指名に匹敵すると言ったところではないかと思う。3位の谷岡も4位の池田も中位クラスの評価が多い。しかし、5位の高田の評価はかなり高いものが多い。夏の甲子園大会で大炎上したことで評価を下げてしまったが、それがなかったら3位までに消えていた素材だったかもしれない。もしも、畠が高橋で、谷岡が島だったらもっと良かっただろうと考えるが、これだけを見ると、まずまずの指名結果だったように感じる。
果たして、各紙のドラフトの評価はどうだったのだろう。集まられるだけ集めてみた。
週刊ベースボール 2016ドラフト総決算号(2016.11.07号)
01位 100点 ソフトバンク
02位 90点 中日
02位 90点 ロッテ
04位 85点 西武
04位 85点 阪神
04位 85点 オリックス
07位 70点 広島
07位 70点 楽天
09位 69点 ヤクルト
10位 65点 DeNA
11位 50点 日本ハム
11位 50点 巨人
読売ジャイアンツ
[収穫]坂本勇人の相棒を獲得
[誤算]スター候補の右腕を逃す
先発の軸に据えたかった田中正義(創価大)、佐々木千隼(桜美林大)を競合、抽選の末に逃したのだから、マイナス50点は当然。とはいえ、近年リスクを避けたワクワクしないドラフトに較べれば、ファンも納得したのではないか。しかも、確定した1位の吉川尚輝(中京学院大)はNo.1野手で、補強ポイントでもあった二塁にピッタリ。残り6人すべて投手で、懸案の軸になり得る先発は助っ人かFAで解決を図ればいい。(S)
野球太郎 2016ドラフト総決算&2017大展望号
01位 95点 ソフトバンク
01位 95点 西武
03位 80点 ロッテ
03位 80点 中日
05位 75点 ヤクルト
06位 73点 オリックス
06位 73点 DeNA
08位 70点 日本ハム
08位 70点 巨人
10位 65点 楽天
11位 60点 広島
12位 55点 阪神
読売ジャイアンツ
スター候補の吉川尚獲得で二遊間がグッとしまる 2位以降は投手で固め、若返りと競争を促進する
(小関さん NumberWeb)
【ソフトバンク 90点、ロッテ 85点】
【西武・オリックス 80点、ヤクルト 70点】
【中日>日本ハム>楽天>広島>阪神>巨人>DeNA 69点~60点】
(前略)
点数は低いが注目したのは、野手の大山悠輔(白鴎大・内野手)を単独指名した阪神と、外れ外れ1位で吉川尚輝(中京学院大・内野手)を指名した巨人だ。阪神は金本知憲監督の主導で昨年が1位高山俊、2位坂本誠志郎、巨人は'15年が2位重信慎之介、'14年が1位岡本和真、'13年が1位小林誠司、2位和田恋を指名してきた。
プロ野球の世界は往々にして投手偏重、守り重視で選手を補強するが、一軍は野手16~17人、投手11~12人で構成される。それでいて「投手7~8割」という言葉が常に大手を振ってまかり通る。そういう「守り信仰」に一石を投じる指名だと思う。
(以下略)
(安倍さん 日刊ゲンダイDIGITAL)
「一番得をした球団は西武、最も損をした球団はソフトバンク」
※巨人についてのコメントはなし
(片岡さん THE PAGE)
「最悪は阪神、最高はロッテ」
(前略)
巨人の吉川尚輝(中京学院大)の外れ1位も、おそらくセカンド起用を想定してのものと考えられる。クルーズの不在が響いたが、ファイナルステージでは、セカンドの穴が目立った。投手強化もテーマだっただろうが、2位からの3人は、大学、社会人の投手で固めた。150キロ級2人と左腕のバランスもいい。また5位でプレートさばきが素晴らしい創志学園の高田を指名したことも楽しみだ。
(中略)
片岡氏は田中を外した後の巨人のドラフト戦略にも来季を念頭に置いた工夫を感じたという。
(以下略)
(得津高宏さん 東スポWeb)
(S=ソフトバンク、AAA=ロッテ、AA=ヤクルト・西武・楽天、A=オリックス・中日、B=日本ハム・DeNA・広島、C=巨人、D=阪神)
(前略)
一方「失敗ドラフト」と見るのは巨人、阪神の2球団だという。
「巨人はとにかくクジ運が悪かったですね。投手2人を外して野手の吉川に行ったのは、球団が作製したリスト順からして仕方がなかったのかなと思いますが、即戦力で1位級の投手はやはり欲しかった。2位の畠(近大)も悪い投手ではないとは思いますが、まだ先に指名しておく選手がいたのではないか。大阪担当のスカウトは、去年の桜井(立命大)で失敗してますからプレッシャーがかかるでしょうね。左腕の池田(ヤマハ)は中継ぎで使うつもりなのでしょうが、胸を張って『補強できた』とは言えないドラフトだったと思います」
(以下略)
(dot. 朝日新聞デジタル)
(90点=ソフトバンク・ロッテ・西武、85点=DeNA、80点=日本ハム・広島・中日、75点=楽天・ヤクルト、70点=オリックス、65点=巨人、60点=阪神)
重複を恐れずに田中正義を獲りにいった球団の姿勢は評価できる。だが、結果には恵まれず、最終的に吉川を外れ1位で指名した。守備センスあふれる吉川はスピードも抜群で、何よりプレーに華がある。是非とも1年目からレギュラー争いを演じてもらいたい。だがクジを外したこともあって、球界の盟主としてはやや物足りないドラフトだったことも事実だろう。ただその中で7位指名のリャオ・レンレイには注目。台湾出身だが日本の高校に3年間通ったために指名対象となった異例の選手で、身長201センチ、体重125キロの規格外の肉体を持つ。いつベールを脱ぐのか。今ドラフトで最も騒がれるのは、この男かもしれない。
巨人にはずいぶんヒドい評価のオンパレードである。確かにファンとしては不満のあるドラフトだったし、上で指摘してきた通り巨人のドラフトには問題点があったと思う。しかし、この評価はどうも主観が過ぎて客観性に欠いてはいないかという思いになる。そもそも、第三者の主観を排除し、球団の考え方や方針で成功度の順位を決めるとしたら、1位指名における抽選の結果と指名の順位にかかわるウェーバーしか材料が無いはずである。まず抽選で引き当てた球団(グループA)と一本釣りをした球団(グループB)、そして、抽選で外れた球団(グループC)の3グループに分けられる。今年の場合は2度目の抽選があったので、加えて2度抽選で外れたグループ(グループD)がある。つまり今年は4グループが存在する訳だが、このグループ内でさらにウェーバー順が早い方が順位が上になる。すると今年の場合は以下の順位になるはずだ。
01位 中日(グループA、ウェーバー順2番)
02位 ソフトバンク(グループA、ウェーバー順9番)
03位 オリックス(グループB、ウェーバー順1番)
04位 楽天(グループB、ウェーバー順3番)
05位 ヤクルト(グループB、ウェーバー順4番)
06位 西武(グループB、ウェーバー順5番)
07位 阪神(グループB、ウェーバー順6番)
08位 ロッテ(グループC、ウェーバー順7番)
09位 DeNA(グループD、ウェーバー順8番)
10位 巨人(グループD、ウェーバー順10番)
11位 日本ハム(グループD、ウェーバー順11番)
12位 広島(グループD、ウェーバー順12番)
巨人の順位は10位ということになるが、こうした何らかの理屈があって低いというのなら納得が行く。しかし、各紙に載っているのは、その評者の考えに沿った指名方針だったり、どれだけお眼鏡にかなった選手を獲得できたかが、評価の良し悪しを左右するのだ。ファンはそういったもので一喜一憂するのもだから仕方ないが、これは球団からしたら大きなお世話というものだろう。
評者たちが球団の考えた末の方針を無視して語っているとしたら、評価が高い球団とはすなわち、前評判の良い選手を数多く獲得できた球団ということになるのではないか。それなら、各球団がどれだけ前評判の良い選手を獲得しているかを調べれば、真の成功球団が弾き出されるに違いない。今回の話で最も時間を傾注したことなのだが、各球団が獲得した選手の前評判がどうだったのかを調べてみた。
ルールとして、数多く選手を指名した球団が有利にならないように、各球団の評価上位5名の加点で順位を決めてみた。
日刊スポーツの評価(評価上位5名の合計:特A=25点、A=20点、B=15点、C=10点)
01位 90点 ソフトバンク(特A=田中、A=古谷、B=九鬼・田城・清水)
01位 90点 ロッテ(特A=佐々木、A=酒井、B=島・土肥・宗接)
03位 85点 西武(A=今井・中塚、B=源田・鈴木・田村)
03位 85点 ヤクルト(A=寺島・梅野、B=星・中尾・古賀)
03位 85点 中日(A=柳・京田、B=石垣・藤嶋・丸山)
03位 85点 オリックス(A=山岡・黒木、B=岡崎・山本・小林)
07位 80点 日本ハム(A=堀、B=石井・高良・森山・高山)
07位 80点 広島(A=高橋、B=加藤・床田・板倉・アドゥア)
07位 80点 巨人(A=吉川、B=畠・谷岡・高田・大江)
07位 80点 DeNA(A=濱口、B=水野・松尾・京山・細川)
07位 80点 楽天(A=藤平、B=池田・田中・菅・森原)
12位 75点 阪神(B=大山・小野・才木・濱地・糸原)
スポニチの評価(評価上位5名の合計:特A=25点、A=20点、B=15点、C=10点)
01位 100点 西武(特A=今井、A=中塚・源田・鈴木、B=平井)
02位 95点 ソフトバンク(特A=田中、A=古谷・九鬼、B=田城・松本)
02位 95点 ロッテ(特A=佐々木、A=酒井・島、B=土肥・有吉)
04位 90点 広島(特A=高橋、A=加藤、B=床田・板倉・アドゥア)
04位 90点 楽天(特A=藤平、A=池田、B=田中・森原・千葉)
04位 90点 オリックス(A=山岡・黒木・小林、B=岡崎・山本)
04位 90点 中日(特A=柳、A=京田、B=石垣・藤嶋・丸山)
08位 85点 日本ハム(A=堀・石井、B=高良・森山・高山)
08位 85点 巨人(A=吉川・高田、B=畠・谷岡・池田)
08位 85点 ヤクルト(特A=寺島、B=梅野・星・中尾・古賀)
11位 80点 DeNA(A=濱口、B=水野・松尾・京山・細川)
11位 80点 阪神(A=大山、B=小野・才木・濱地、糸原)
野球太郎の評価(評価上位5名の合計:1頁=25点、1/2頁=20点、1/6頁=10点、表のみ=5点)
01位 85点 中日(1頁=柳、1/2頁=京田・笠原、1/6頁=石垣・藤嶋)
02位 75点 ソフトバンク(1頁=田中、1/2頁=古谷、1/6頁=九鬼・三森・田城)
02位 75点 巨人(1頁=吉川、1/2頁=畠、1/6頁=谷岡・池田・高田)
02位 75点 西武(1頁=今井、1/2頁=中塚、1/6頁=源田・鈴木・平井)
05位 70点 日本ハム(1/2頁=堀・高良、1/6頁=石井・森山・高山)
05位 70点 広島(1/2頁=加藤・高橋、1/6頁=板倉・アドゥア・長井)
05位 70点 ロッテ(1頁=佐々木、1/2頁=島、1/6頁=酒井・土肥、表のみ=種市)
05位 70点 DeNA(1/2頁=濱口・水野、1/6頁=松尾・京山・細川)
05位 70点 阪神(1/2頁=大山・小野、1/6頁=才木・濱地・福永)
10位 65点 ヤクルト(1頁=寺島、1/6頁=星・梅野・中尾・古賀)
10位 65点 オリックス(1頁=山岡、1/6頁=黒木・山本・岡崎・小林)
12位 70点 楽天(1頁=藤平、1/6頁=森原・鶴田、表のみ=田中・菅原)
アマチュア野球の評価(評価上位5名の合計:AA=25点、A=20点、BA=15点、B=10点、C=5点)
01位 90点 オリックス(AA=山岡、A=黒木・山本、BA=山崎、B=小林)
02位 85点 ソフトバンク(AA=田中、A=九鬼、BA=古谷・田城、B=三森)
02位 85点 ロッテ(A=佐々木・酒井・島、BA=土肥、B=有吉)
02位 85点 巨人(A=吉川・高田、BA=畠・谷岡・大江)
05位 80点 西武(A=今井、BA=中塚・源田・鈴木・田村)
05位 80点 中日(A=柳・京田、BA=笠原・藤嶋、B=石垣)
07位 75点 ヤクルト(A=寺島、BA=星・梅野・古賀、B=中尾)
08位 70点 阪神(BA=大山・小野・才木・濱地、B=糸原)
09位 65点 日本ハム(BA=堀・高良・高山、B=石井・森山)
09位 65点 DeNA(BA=濱口・水野・松尾、B=京山・尾仲)
11位 60点 広島(BA=加藤・高橋、B=床田・板倉・アドゥア)
11位 60点 楽天(A=藤平、BA=森原、B=池田・田中、C=菅)
野球太郎の1頁や1/2頁とは、1ページで紹介されている選手か1/2ページで紹介されている選手かということ。◎と◯と△ではアバウトすぎるのでそうさせていただいた。
こう見てきた限り巨人の評価は決して低くはない。今までのものは一覧になっていたものだが、次に番付で評価付けられているものはどうだろう。野球人は安倍さんの一人ドラフトを参考にしてみた。
週刊ベースボールドラフト番付(番付に記載選手の合計:横綱=25点、大関=20点、関脇=15点、小結=12点、前頭1~5=10点、前頭6~10=8点、前頭11~17=6点)
01位 60点 西武(大関=今井、小結=鈴木、前1=田村、前3=中塚、前6=平井)
02位 55点 日本ハム(関脇=堀、前4=森山、前6=高良、前7=石井、前10=高山、前12=山口)
03位 51点 中日(関脇=柳、小結=京田、前8=丸山、前9=笠原、前10=藤嶋)
04位 47点 ヤクルト(横綱=寺島、前3=星、前11=梅野、前14=古賀)
05位 46点 ソフトバンク(横綱=田中、関脇=古谷、前16=九鬼)
06位 42点 ロッテ(大関=佐々木、前2=島、前15=宗接、前16=酒井)
07位 38点 巨人(大関=吉川、前8=高田、前9=谷岡)
08位 33点 オリックス(大関=山岡、前2=黒木)
09位 27点 楽天(関脇=藤平、前11=池田、前14=田中)
10位 24点 広島(小結=加藤、小結=高橋)
11位 18点 阪神(前13=大山、前15=長坂、前17=才木)
12位 16点 DeNA(前1=濱口、前12=水野)
スポーツ報知ドラフト番付(番付に記載選手の合計:横綱=25点、大関=20点、関脇=15点、小結=12点、前頭1~5=10点、前頭6~10=8点、前頭11~15=6点)
01位 59点 西武(横綱=今井、前2=中塚、前5=鈴木、前10=源田、前14=田村)
02位 51点 ヤクルト(横綱=寺島、前4=梅野、前6=星、前9=中尾)
03位 46点 中日(大関=柳、小結=京田、前8=石垣、前11=笠原)
04位 43点 日本ハム(関脇=堀、前7=高良、前10=石井、前14=高山、前15=森山)
05位 39点 ソフトバンク(横綱=田中、関脇=古谷、前13=九鬼)
06位 38点 巨人(小結=吉川、前4=畠、前5=高田、前12=谷岡)
06位 38点 ロッテ(横綱=佐々木、前9=酒井、前12=島)
08位 37点 広島(関脇=高橋、前2=加藤、前13=長井、前15=アドゥア)
09位 33点 オリックス(関脇=山岡、前3=黒木、前8=山本)
10位 30点 楽天(大関=藤平、前1=池田)
11位 24点 阪神(前3=小野、前6=大山、前11=才木)
12位 10点 DeNA(前1=濱口)
「野球人」仮想ドラフトより(記載選手の合計:1位重複=25点、1位単独=20点、外れ1位=18点、2位=15点、3位=10点、4位=8点、5位以下=6点)
01位 84点 オリックス(外れ1位=山岡・黒木、3位=山本、4位=小林、5位=山崎・澤田、6位=岡崎・榊原、7位=根本)
02位 81点 西武(単独1位=今井、2位=中塚・鈴木・田村、3位=源田、6位=平井)
03位 72点 DeNA(2位=濱口・水野、3位=京山、4位=進藤、5位=細川・狩野、6位=尾仲、7位=松尾)
04位 68点 ヤクルト(重複1位=寺島、2位=中尾、3位=星・梅野、4位=古賀)
05位 65点 ロッテ(外れ1位=佐々木、2位=酒井、3位=島・土肥、5位=種市、6位=宗接)
06位 63点 中日(単独1位=柳・京田、2位=笠原、4位=石垣)
07位 51点 楽天(単独1位=藤平、2位=池田、3位=田中、7位=石原)
08位 50点 広島(外れ1位=加藤・高橋、4位=板倉、6位=長井)
09位 46点 ソフトバンク(重複1位=田中、2位=古谷、5位=九鬼)
10位 40点 日本ハム(3位=堀、4位=山口・郡・今井、5位=高山)
11位 38点 巨人(外れ1位=吉川、3位=高田・大江)
11位 38点 阪神(2位=大山・小野、4位=才木)
こちらも野球人の評価が低いものの、他はまあまあといった感じである。巨人に50点を付けた週刊ベースボールは、巨人の半分以下の点数の阪神やDeNAに、なぜ巨人よりはるかに良い点数を付けたのだろう。週ベは昨年も最下位の50点評価だったし、なんだか恣意的なものを感じます。ただ、岡本の年の一昨年は逆に最高の100点満点だったので、決してアンチ的なことではないのだろうとは思う。
次に、これら7つの順位を合算して総合順位を算出してみた。
総合順位(7評価の順位合計が少ない順)
01位 15 西武(日=3位、ス=1位、太=2位、ア=5位、べ=1位、報=1位、野=2位)
02位 25 中日(日=3位、ス=4位、太=1位、ア=5位、べ=3位、報=3位、野=6位)
03位 26 ソフトバンク(日=1位、ス=2位、太=2位、ア=2位、べ=5位、報=5位、野=9位)
04位 27 ロッテ(日=1位、ス=2位、太=5位、ア=2位、べ=6位、報=6位、野=5位)
05位 36 オリックス(日=3位、ス=4位、太=10位、ア=1位、べ=8位、報=9位、野=1位)
06位 38 ヤクルト(日=3位、ス=8位、太=10位、ア=7位、べ=4位、報=2位、野=4位)
07位 42 日本ハム(日=7位、ス=8位、太=2位、ア=9位、べ=2位、報=4位、野=10位)
08位 43 巨人(日=7位、ス=8位、太=2位、ア=2位、べ=7位、報=6位、野=11位)
09位 53 広島(日=7位、ス=4位、太=5位、ア=11位、べ=10位、報=8位、野=8位)
12位 59 DeNA(日=7位、ス=11位、太=5位、ア=9位、べ=12位、報=12位、野=3位)
10位 60 楽天(日=7位、ス=4位、太=12位、ア=11位、べ=9位、報=10位、野=7位)
11位 69 阪神(日=12位、ス=11位、太=5位、ア=8位、べ=11位、報=11位、野=11位)
巨人の評価は12球団中8位という結果だった。これは決して高くはないが、評者に言われるほど悪くはないといったところ。この順位はだいたい野球太郎の総決算号と似たもので、太郎の編者達のさすがの見識を認めざるを得ない。
最後に、なぜ巨人の評価が毎年低いものになってしまうかだが、これは上で話した通り、どんなに好素材の選手が残っていたとしてもチームの方針が優先する体質にあると思う。これはなかなか変わるものではないかもしれないが、今回山下スカウト部長が退任するので、岡崎新部長の元、考え方を一変すべきだと思う。そうすればファンも納得するもっと良いドラフトを展開できるだろうし、評者たちの評価も上がるのではないかと思う。
もっとも、巨人の評価が低い理由には、FAや外国人選手の乱獲など、度を過ぎた補強をすることへの批判も幾分込められていると思う。「こうして好素材を獲得しても、育てるつもりがない球団ではなぁ」そんな当てつけを感じずにはいられない。
巨人はこのようにドラフトでそれなりの好素材を獲得したからには、それを球団を挙げて育成しない手はない。新人や若手選手が最初から保険にしかならないような編成では、どんな好素材もいつしか旬を過ぎ、薹(とう)が立ち、腐ってしまう。それは「優勝を義務づけられている」などという理由で言い訳して良いものでは決してない。アマ球界に対する背任行為であり、野球ファン全体に対する罪でもある。そのことを重々踏まえ、指名した選手達を迎え入れて欲しいと思う。
さて、次回からは各選手達の話をして行きます。吉川、畠という順になると思いますが、更新は年明け早々になると思います。では、次回も乞うご期待!皆さんよいお年を!
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