
魚と菊池
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菊池完2009年04月23日 18:38 visibility22
つかの間のオフを終え、岐阜に帰るため東京駅に向かっていた。
通勤時間は避けたものの、JR特急さざなみ10号は思いのほか席が埋まっていた。
窓際のいわゆる人気席は全滅。廊下側が何席か空いている状態である。
車内をゆっくり歩き、席を探していると、2つの空席を発見した。
一つは、帽子を深くかぶり大きなリュックと紙袋をもった男性の横。
もう一つは、空席にカバンを置き『隣、無理だから�』と言わんばかりの若い女性の横。
そりゃ男ですから、、なんて考えません。
『すみません、隣いいですか?』
少しキャシャな男性は無言でうなづき、必要以上にリュックと紙袋を窓際に引き寄せた。
『ありがとうございます。』
必要以上に爽やかに言ってみた。爽やか過ぎて恥ずかしくなり少しにやけてしまった。
東京駅まで30分。
駅前の本屋で買った【社長の金言】を読みながら無駄に頷いてできる男を装おってみた。
金言がローソン社長の話に差し掛かった頃、東京駅に到着するというアナウンスが流れた。
出入口の近くだった為、廊下は軽く出口渋滞していた。
できる男は焦りません。なんてくだらないことを考えながら待っていると、
『すみません、いつもテレビで見ています』
と、後ろから話かけられた。
えっ、俺!?たしかに昨日スカパーには少し映っていたかもしれないけど、いつも?
えっ、まじで俺?
頭に?が3つは付いていたが無視はできない。若干照れながら振り向こうとしたら…
『ありがとうございます!!』
えっ、え〜〜!!
隣の男性が突然甲高い声で答えた。聞いたことがある声だ。
帽子を深く被っていたが、声の主は…
さかなくん!!!???
さかなの帽子じゃないからわからなかったが、よ〜く見ると小さい魚が沢山泳いでいる帽子だった。
急いでいたのか、さかなくんは丁寧に何度もお辞儀をして足早に電車を降りていった。
ざわめく車内。ざわめく僕の心臓。もう少しで振り向いてしまうところだった。
安堵からか、笑顔がこぼれた。そんな僕を、前席の若い女性が怪しげに見ている冷たい視線が痛かった。
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