☆夏は終わらない2020 高校野球独自大会より~『ルールブックの盲点の1点』済々黌高校~

 

 

スコアボードに刻まれた1点の理由を、実況アナウンサーも、解説者も、一瞬、理解できていなかった。
それは、2012年の第94回全国高校野球選手権大会6日目の第2試合、2回戦の 済々黌 対 鳴門 の一戦で、7回裏の済々黌の攻撃が終わった時のことであった。
済々黌が 2 - 1 とリードして迎えた7回裏、済々黌は1死一、三塁と貴重な追加点のチャンス。ここで打席には2番・西。済々黌ベンチは一塁走者との間でヒットエンドランを仕掛けるが、西の当たりはライナーとなってショートを襲った。この打球を鳴門の遊撃手・河野がジャンピングキャッチ。そしてすかさず一塁へ送球。エンドランがかかっていたため、一塁走者は戻りきれずにアウト。併殺が完成し、3アウトチェンジ。鳴門がピンチを脱出した・・・はずだった。ところが、この直後、スコアボードの7回裏の部分に1点が入っていた。済々黌にとっては貴重な追加点である。途端にキツネにつままれたような顔になる鳴門ベンチ。
この1点のポイントは済々黌の三塁走者・中村の走塁にあった。鳴門の遊撃手・河野がライナーを好捕した場面。普通なら併殺を防ぐために三塁へ戻るのが基本だが、中村は戻るどころか加速して一気に本塁へ向かったのである。一塁アウトよりも早く本塁を踏むためだった。「捕った遊撃手が一塁を見たので、いけると思いました」とは試合後の中村の談話だが、実はこれは守備側の鳴門がアピールすれば認められない1点であった。中村はそれを承知で仕掛け、奪い取ったのである。
これは、野球規則にあるアピールプレイの一つ。この時、三塁走者だった中村にリタッチ(元にいた塁に戻って触れ直す行為)はなかった。そのため、鳴門が三塁にボールを送って「三塁走者の離塁が早かった」とアピールし、第3アウトを三塁で置き換えればこの得点は認められなかったのである。しかもアピールできるのは守備側がフェアグラウンドを離れる前まで。この試合の球審は鳴門ナインがベンチに戻ったのを確認(アピール権の消滅)して、得点が入ったことを球場側に伝えた。こうして7回裏に「1」が記されたのである。
済々黌は熊本県が誇る文武両道の名門校。進学校らしい頭を使ったプレイで、日頃から野球規則を熟読していたという。シートノックにはアピールプレイも組み込んだ。だからあそこで三塁にボールが転送されたら仕方がなかった。わかってやった好走塁。さらに中村はこうも付け加えた。「このルールは漫画の『ドカベン』を読んで知っていたので迷いなく走れました。3アウトになったあと、鳴門ナインが早くベンチに戻ってくれることを祈ってました」
漫画「ドカベン」の35巻では、1死満塁からのスクイズが投手への小飛球となり、飛び出した一塁走者の山田太郎が戻りきれずにアウトとなったが、この間に三塁走者の岩鬼正美がホームインしている。それを小学生の時に読んでいた中村は「甲子園で岩鬼になってました」と笑った。
試合は結果的に、2年生エースの大竹(早稲田大学→ソフトバンク)が鳴門打線にわずか4安打しか許さず1失点完投。3 - 1 で勝利した済々黌が3回戦進出を決めた。

 

奇遇にも、この日の第4試合には漫画「ドカベン」のモデルになった新潟明訓が登場した。

 

~アサ芸プラスより一部引用~ 

 

 

 

熊本県立済々黌高校は熊本県熊本市に所在し、1879年(明治12年)に創設された同心学舎に源を発し、1882(明治15年)に済々黌として創立、130年を優に越す熊本県内最古の歴史を有し、偏差値73を誇る熊本県内屈指の進学校である。
野球部は1900年(明治33年)に創部され、熊本県内では熊本商に次いで、八代と並ぶ歴史を有する。
甲子園には、春4回、夏7回出場し、甲子園通算成績は16勝10敗である。
夏の全国大会予選には、1925年(大正14年)の第11回大会予選(南九州大会)に熊本県勢としては、九州学院中(九州学院)に次いで、宇土中(宇土)、鹿本中(鹿本)、熊本工、熊本商、玉名中(玉名)、八代中(八代)とともに初参加した。結果は、九州学院中に 6 - 8 で敗退となった。
夏の予選初勝利は、1928年(昭和3年)の第14回大会予選(南九州大会)で、天草中(天草)に 22 - 2 で圧勝した。
夏の予選通算成績は183勝84敗である。

 

済々黌といえば、1958年(昭和33年)の第30回選抜高校野球大会で優勝を成し遂げており、この優勝は熊本県勢としても春夏通じて唯一の優勝となっている。
伝統ある済々黌、令和での甲子園出場に期待したい。

 

 

 

 

 

以上です。

chat コメント 

コメントをもっと見る

通報するとLaBOLA事務局に報告されます。
全ての通報に対応できるとは限りませんので、予めご了承ください。

  • 事務局に通報しました。