昇格4年目の地方クラブを支えるもの

■難敵湘南に初勝利! プレーオフ進出に望みをつなぐ岡山
岡山が前半で3ゴールを挙げて湘南に初勝利。今季の目標である6位以内に望みをつなぐ【宇都宮徹壱】

 スタジアム上空は、激しい風が渦巻いていた。
 9月17日、台風16号が九州北部を通過していたこの日、岡山のkankoスタジアム(カンスタ)では、J2リーグ第34節、ファジアーノ岡山対湘南ベルマーレの試合が行われようとしていた。試合前、「カンコー学生服」と書かれた看板の前で、岡山のマスコットであるファジ丸と岡山のファンが、強風にあおられながら記念撮影をしていた。カンスタのネーミングライツを取得しているのは、「カンコー学生服」でおなじみの尾崎商事である。岡山にはほかにトンボ学生服、ヨット学生服といったブランドがあり、学生服の全国シェアの8割を占めるという。

「学生服のシェア、ナンバーワン」を誇り、温暖な気候から「晴れの国」とも呼ばれる岡山は、しかし最近までメジャースポーツの空白地帯であった。それでも09年、ファジアーノ岡山が晴れてJクラブとなってから、状況は次第に変わりつつある。J2初年度の09年は18チーム中18位の最下位。続く10年は19チーム中17位、11年は20チーム中13位と着実に順位を上げ、今季は第33節終了時で11位につけている。ここ4試合、勝利には恵まれていないものの、今季の目標である「6位以内」には7ポイント差。プレーオフ進出の可能性は、まだ十分に残されている。前節、首位のヴァンフォーレ甲府にアウエーで0-1と惜敗した岡山が、この日ホームに迎える湘南は現在2位。これまで一度も勝利したことがない難敵であった。

 14時キックオフの試合は、意外な展開を見せる。序盤、湘南に押し込まれる場面が見られた岡山は、20分を過ぎてから敵陣でもパスが通るようになり、次第にチャンスを演出するようになる。そして34分、金民均とのワンツーから仙石廉が先制ゴールを挙げると、41分には仙石から川又堅碁、さらに田所諒へとペナルティーエリア前を横断するパスがつながり、最後は田所が左足で見事にネットを揺らした。湘南ベンチは、すぐさまメンバー2名を代えて修正を図るが、それでも岡山の勢いは止まらない。アディショナルタイム2分には、カウンターから川又が3点目を挙げ、試合の行方を決定付けた。

 とはいえ湘南も、このままでは終わるはずはなく、後半17分には古橋達弥がヘディングで1点を返して反撃ののろしを上げる。だが、前半の3点は、やはり大きかった。後半、何度もピンチを招きながらも、岡山は2点のリードを何とか守り抜って3-1で勝利。順位は変わらなかったものの、湘南相手に初勝利を挙げるとともに、5試合ぶりにホームで勝ち点3を加えたことで、スタンドのサポーターは大満足であった。

■影山監督が語るチームが得た自信とJ2のレベル向上
ドイツでの留学経験を持ち、アジアでの指導歴が長い影山監督。チームを率いて今季で3年目【宇都宮徹壱】

「1点目がスーパーなシュートでしたね。あのまま0-0が続いていれば難しかった。2点目も良い形から取れたと思いますが、ちょっと安心からボールを奪うところに緩みが出たところで3点目が入った。3点目は、メンタル面(での緩み)を一度払しょくするという意味で大きかったですね」

 岡山の影山雅永監督は、この日のゴールについて、それぞれ意義深いものであったことを言及しながら、試合を総括していた。今季、3ゴールを挙げて快勝したのは初めてであっただけに、指揮官のうれしさが手に取るように伝わってくる。その上での影山監督は、前節で「強豪の甲府相手にボールを動かせたこと、ゴール前まで崩して運べたこと」が、今回の勝利につながったとした上で「(この2試合で)得た自信は大きい。今後の8試合に生かさなければいけない」と語り、プレーオフ進出への強い思いをのぞかせていた。

 ここで少し、影山の経歴について触れておきたい。現在、45歳。現役時代は古河電工(のちにジェフ市原)、浦和レッズ、ブランメル(現ベガルタ)仙台でプレーしたのち、母校である筑波大大学院に復学。その後、ドイツのケルン体育大学に留学し、コーチングに関するさまざまなメソッドを学んで帰国すると、サンフレッチェ広島のコーチを経て、マカオ代表監督、シンガポールU-16代表監督を歴任している。アジアでの指導歴は3年に及んだ。そして09年、岡山のヘッドコーチとして招かれ、手塚聡前監督の後任として10年、初めてJクラブのトップチームを率いることとなる。

 アジアでの仕事にはやりがいを感じる一方で、「日本の状況はあまり入ってこなかった。浦島太郎になるんじゃないかという焦りもあった」と語る影山。では、久々に見るJ2については、どのような印象を受けたのであろうか。

「レベルが上がったと思いますね。広島でヘッドコーチをやっていた03年は、チームが初めてJ2に降格したシーズンだったんですけど、上位と下位の差が開きすぎていました。第1クールが10勝1分けの無敗だったんですが、下位のチームは軒並み(ディフェンスラインが)べた引きで、ドーンと前に蹴って早いやつが行くというやり方でした。でも最近のJ2は、ある程度の戦力差はあっても、若くて才能のある選手はどこでもいるし、指導者もしっかりゲームを作るようになっています。こういうセカンドディビジョンがある国は、世界でも珍しいと思いますよ」

 その「レベルが上がった」J2で、昇格して4年目の岡山がプレーオフを十分に狙える位置に付けている。このチームを地域リーグ時代からウォッチしてきた者としては、実に感慨深い。私はこれまで、地域リーグからJFLを駆け抜けて、Jリーグにまで到達したクラブをいくつも見てきたが、岡山はその中でもかなり安定した成長ぶりを見せている。その成長を支えているものが何かを探るのが、今回の取材の目的である。

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