ざわりとした

  • ヤスオ
    2014年08月03日 17:52 visibility47

マンションと整骨院に挟まれた
路地を左折して

線路沿いの道を歩いていた



最初に目に入ったのは

太った女が子供用のゴムスリッパを
億劫そうに拾う姿だった


10mほど先に3歳くらいの子供が
泣きながら座っていた

女は子供が落としたスリッパを
取りに戻ったらしい


青いスポーツカーが
離れた向こうから走ってきた


「ひかれるよッ!!」


子供に向かって歩きながら
母親が怒鳴る


子供は母親の方を見ながら泣き
動こうとしない


「ひかれるよって!」


車は減速をせず

左寄りにいる子供を
避けようともせずに走り寄る


「車は見えてないんだからッ!!」


母親が怒鳴る





子供は動かない




子供と母親の距離は約5メートル


私は母親のすぐ斜め後ろまで
追い付いて歩いていた



なんとなく車は


気が付いて減速するか
避けるだろうと思っていた



だから


車が自分と子供と同じくらいの距離に
減速せずに近づくまで


走り寄りもしなかった

母親も私も





そして


車が自分より子供の近くまで迫り
慌てて走りよろうとしたとき



『間に合わない』



そう思った




そのとき



車が急ハンドルを切り


子供を


いや恐らくは


意識的に子供よりも車道側にいて

子供、つまり車に向かって
走り寄ろうとした『私』を避けた
(母親は道路の端にいた)



そして何事もなく
私の横を通り過ぎた





母親が子供に
怒りながら迫ったとき


『叩くな』


そう願った


悪いのは

動かない子供ではなく
怒鳴るだけで何もしなかった

あんただ



もし叩いていたら
私が母親に怒鳴っていたかもしれない



もしスポーツカーの運転手が
「危ないだろ!」と怒りに戻って来たら

「子供が見えていたか!」と
怒鳴り返していたかもしれない




しかし実際にはどちらもなく
粟立った肌の感触を残して


日常の空気が戻った









家に帰ってから着替え


体を動かそうと公園に出た

しかし


体のだるさを感じて


軽くジョギングしただけで

家に戻った



外はまだ明るい


これからシャワーを浴びたら

また外に出て



やることがある

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