EURO2020第11日。今はむしろ神がかりなデンマーク、ベルギーは最低限、強いオーストリア発見 木村浩嗣 | 在スペイン・ジャーナリスト 6/22(火) 22:38

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    2021年06月23日 23:06 visibility163

アクシデントがチームを一つにし不運を乗り越えたことで、今はむしろ神がかりに見えるデンマーク。ベルギーは省エネでぎりぎりノルマをクリア。オーストリアは最高の選手を最大限に活用してブレイクした。

 

神はいるのだ――。

ロシアから信じられないバックパスをもらったポウルセンが空のゴールのネットを揺らした時、そう思った。

といっても、棚ボタで勝ち上がったわけではない。逆境の中で懸命に戦うデンマークがあまりに尊かったので、サッカーの神様がほんの少し背中を押しただけ。これまで運がなかった分ちょっと運を返してもらっただけだ。

今大会の彼らの運、不運の収支は大幅な赤字であり、決勝トーナメントに逆転進出できたとすれば、それは彼らとファンの信じる力に支えられた、正当なサッカー的メリットによるものだ。

 

つまり、公正に言って、デンマークはこのグループでベルギーの次に強かった。ロシア、フィンランドを寄せ付けないレベルにあった。

シュート数23本対1本。初戦フィンランドに敗れたのはサッカー以外の要因のせいだ。PKの笛が吹かれ、ホイビェアがゴールを見ている時外すような気がした。果たしてボールは力なくGKの手に収まった。そういう悪い流れだった。

次のベルギー戦では前半から猛ラッシュを掛けた。優勝候補との一戦は、回復した病床の仲間を励まし自分たちのサッカーを取り戻す絶好の機会だった。内容から言えば大差がついてもいい前半を1点に終わり、後半ベルギーのタレントに追いつかれ勝ち越される。過大なモチベーションによるオーバーペースも仇になった。

だが、選手が入れ替わって刷新されたチームは残り20分間で5回のチャンスを作った。今から考えればあれが逆転の予兆だったのだ。

■デンマーク、底力で先制

2戦を終えて作ったゴールチャンス数25回は全チーム中最多だった。だが、ゴールは1で勝ち点ゼロ。最終節大差で勝利しフィンランドが敗れることが、2位抜けの条件だった。

ロシアは手強い相手だ。ベルギー戦はミスで自滅したが、次戦はフィンランドを圧倒した。内容の割にゴールが少ないのはスイスと同じ。3バックで守りが安定し、王様ジュバの左右にゴロビン、ミランチュクのタレントが控える攻撃陣は強力だ。

 

大歓声を味方に付けるデンマークは予想通りラッシュに出た。が、ベルギー戦ほどではなく、これもまた予想通り15分ほどで圧力が下がってロシアのカウンターに脅かされ始めた。17分、20分の立て続けにチャンスを作られ、大勝狙いで前に出るしかないデンマークは、最悪引き分けでも良かったロシアのカウンターの絶好の餌食になるかに見えた。

だが、ここからもう一度デンマークが盛り返す。ギアをもう二段上げて猛ラッシュ。どこにそんな余力が残っていたのか不思議である。そして、圧倒的な優勢の必然の帰結として先制点が入る。

後半、ロシアが盛り返しデンマークは耐える時間が続く。フィンランド対ベルギーは0-0のまま。そんな緊張状態でのあのバックパスのプレゼントだったのだ。

■ラッシュで暗雲を吹き飛ばす

が、これでもまだデンマークには不運の影がちらついた。

65分、ゴールへ向かっていたデンマークの選手がつかまれ倒される。ロシアDFクドリャショフはすでに1枚カードをもらっていたが、主審テュルパンは2枚目を出さなかった。これは、VARの介入は最低限で軽微なコンタクトやハンドを取らない好ジャッジが続いている今大会、最も不可解なジャッジだった。

さらに、66分にベルギーのゴールの朗報が届いたと思ったらオフサイドで取り消され、67分にロシア側に微妙なPKが与えられる。これをジュバに決められて2-1。退場のはずが退場でなく、VARの映像を見てもゴールに見えたゴールがオフサイドで、直後にPKの笛が吹かれる。またも悪い予感が漂い始めた。

しかし、デンマークは三度目のラッシュを掛け、ロシアの反撃ムードを走力と運動量で抑え込む。そこにベルギー先制の報が入り、クリステンセンが暗雲を吹き飛ばすかのような強烈なシュートを突き刺して3点目。ルカクの2点目とデンマークの4点目はほぼ同時で、パルケン・スタジアムの歓喜は一気に爆発することになる――。

 

今のデンマークはむしろ神がかりのような気がする。エリクセンのアクシデントはチームとファンを一つにした。彼のために全身全霊を尽くすという目標ができた。そんな彼らにサッカーの神も心を動かされた、ということだろう。

■フィンランド対ベルギー 最低限クリア

ロシア対デンマークを見ている間、裏カードのフィンランド対ベルギーが気になって仕方がなかった。最終的に引き分けでデンマークの努力が無駄になっても勝負事だから仕方がない。だが、彼らはデンマークの熱量に値する試合をしているのだろうか?

見てみると、これが本当に同じサッカーだろうか?と疑うほどインテンシティが低い試合だった。確かにベルギーは勝った。引き分けで両者勝ち上がり、という予定調和を受け入れなかった。だが、勝っただけ。内容的にはクリアすべき最低線ぎりぎり、ボーダーラインの試合だった。

 

しかし、どっちも攻める必要がない、というのは退屈なものだ! パス回しはゆっくりで、ゆっくり上がり、ボールを失っても形だけのプレスですぐに後退。これを両チームがやっている。

実はベルギーは同じことをロシアW杯でもやっている(その試合についてはここに書いた)。あの時やる気満々だったのは先発アピールをしたかったヤヌザイだけだったが、昨日の試合でも一番目立っていたのはやはり先発アピールのドク、次に得点を稼ぐことにこだわるルカクだった。

■ウクライナ対オーストリア “アラバシステム”

オーストリアのベストゲームだった。2位になるには勝つしかないオーストリアが、引き分けでもOKで、ただでさえ試合の入り方が悪いウクライナを楽に上回った。

やはりカギになったのはアラバ、次に存在自体がアグレッシブな問題児アルナウトビッチだった。

アラバは一見左SBだったが、しばしば左ウインガーでもあった。状況によって自由に上がり、自由に下がった。その穴を埋めるバランサー役グリリチュがこの試合の影のMVP。積極的なプレスを率いたのがアルナウトビッチで、大きな展開でゲームを作りセットプレーのキックでフィニッシュをお膳立てするのがアラバ――レアル・マドリーとドイツ代表におけるクロースと同じだ――、サビツァーとバウムガルトナーがフィニッシャーで、逆サイドのドリブル突破をライナーが担当する。

こう並べると、アラバを中心に要所には人材がいる。この日の顔ぶれ、並び(4バック)、役割分担が次の試合のスタンダードになるだろう。

点差は1点だが、内容は圧倒的だった。

 

シュート数5本対18本、CK数4本対9本という数字にウクライナの成すすべなさが出ている。追いつけば2位抜けなのに、残り15分間で歩いている選手がいた。ヤルモレンコ、ジンチェンコ、ミコレンコを中心にタレントはいてもチームになっていない。シェフチェンコ監督の進退も含め、大改革が必要ではないか。

 

※残り1試合、北マケドニア対オランダについてはこちらに掲載される予定なので、興味があればぜひ。

 

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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