中田英寿 『日本の王が倒れこんだ日』

  • uco
    2006年06月25日 09:13 visibility2898

 

 

日本×ブラジル

 

1−4で敗北、そして日本の予選敗退が決まった。

 

他の選手とユニフォームを交換した後、

日本の王、中田英寿はピッチの上に仰向けに倒れこんだ。

 

目は隠され、数分間、彼は動かなかった。

 

 

涙が、

悔しさが、

止められないようだった。

 

自分が求めた”日本代表”の姿が、彼の目には見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ベルマーレ平塚(当時)から、イタリア・セリエAのペルージャへ移籍したヒデは、

強豪ユベントス戦でゴールを決めるなど、その存在をアピールしてきた。

 

何度か移籍を繰り返したが、不振を騒がれ、下らない質問しかしない上に、

事を大げさに、まるで真実のように報道する日本のマスコミが嫌いなヒデは、

その前での口数は少なく、完全に心を閉ざしていた。

 

ファンに対しては、自身のホームページで、「ここで僕が書くこと以外は信じないで。」

「何かあったら僕から言うから、わざわざマスコミの報道し関して質問しないで。」と

何度も何度も繰り返した。

 

 

試合においても、感情をあらわにするのは海外でだけであった。

 

 

日本人の選手であるのに、日本人の選手でないような、そんな壁を感じた。

 

 

 

 

しかし日本にとって欠かせない王であるヒデは、代表として召集される。

そんな中、譲らない性格からか、完璧主義だからか、求めるものが他の選手よりも高いからか、

日本代表選手の中に、溶け込めない状況がうまれてしまったようだ。

 

 

どうしたらいい。

 

 

きっと彼にもあせりはあっただろう。

 

 

うまくいかない。

勝ちたいだけのに。

 

 

 

俺は日本代表にいらないかもしれない。

俺がいない方がうまくいくんじゃないかな。

 

 

彼の口からそんな弱気な言葉をきくとは、思わなかった。

聞きたくなかった。

 

 

いつも自分をしっかり持ち、前を見据え、闘っていた

彼だからこそ、その”弱音”は、とても大きな意味があった。

 

 

 

 

だけどわたしは心の中で

「ヒデ、そんなこと言わないで。そんなわけないから、頑張って。」と思うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

そんな中、W杯が近づき、日本代表は変わっていった。

選手同士での話し合いの場が設けられたときいたし、練習の雰囲気も良いときいた。

 

 

 

テレビでヒデの笑顔も見れた。

 

 

 

そしてW杯開幕。

 

初戦のオーストラリア戦から、すでに日本の体力不足が指摘された。

事前に「日本は暑さに強い。走りきれる。」と言っていただけに、それは重いものだった。

 

 

日本のサッカーは走って、はやいパスまわしだ。

プレスにいかなければボールは取れない。

 

味方への批判だととられても、勝つために彼は、伝えなければいけなかった。

 

 

そして予選最終戦。

王者ブラジルとの戦い。

 

2点差以上での勝利が求められ、”奇跡”の再来を望まれた。

 

 

ヒデは、試合前、自身のホームページで全てを込めて闘うことを宣言した。

最後にならないように。

 

引退宣言か、と言われたが、定かではない。

 

だが、ヒデが全力で走り回り、勝つために必死だったことは、その試合を見ればわかる。

 

この3試合を通しての彼の運動量や攻守かまわず出ていく姿勢はこれまでになく

すさまじいものだと感じた。

 

 

紛れもなく、彼は本気だった。

 

 

 

 

 

しかし無情にも、試合終了の時間は来る。

 

 

大きなものを持って臨んだ一戦。

 

 

ヒデが想いをこらえきれずに倒れこむのは初めてだった。

 

 

 

 

 

その心には何が残ったのか。

 

 

 

無念か。

 

悔しさか。

 

情けなさか。

 

 

はたまた

 

 

 

未来か。

 

 

 

 

 

 

 

わたしたちには、足があるから。

彼には、鍛えた足があるから。

 

 

 

倒れても、起き上がるための強い足があるから。

 

 

 

日本の王は、

 

仲間を、わたしたちを導くために、

 

 

 

 

 

その足でまた立ち上がる。

 

 

「いくぞ」と

 

その背中で語る。

 

 

 

 

そして、また走り出す。

 

 

 

行く末がまだ見えなくても。

 

全力で。

 

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