EURO2020、第3日。ショーの演出家オランダ、クロアチアのクールダウン法、オーストリアのワンマン 木村浩嗣 | 在スペイン・ジャーナリスト 6/14(月) 21:04

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    2021年06月15日 00:08 visibility60

ベルギーは退屈だが強い。オランダは面白く強いが脆い。2-0になった時の対応が対照的だった。安全なパスの山を築きベルギーは何も起こらせない。オランダは3点目を取りに行って追いつかれ大慌て――。

 

どっちの勝率が高いか? 多分ベルギーだろう。どっちが見てて面白いか? そりゃあオランダだ。

 

■オランダ対ウクライナ

オランダが生んだヨハン・クライフは「1-0で勝つより5-4で勝つ方を選ぶ」と言った。同じ1点差ならゴールが多い方が良い、という意味だ。

 

3-2勝利は祖国の天才の言葉を継ぐ、オランダらしいもの、サッカーファンがオランダと聞いて期待するものだった、と言える。

 

オランダ対ウクライナは文句なく、今大会のベストマッチだ。

 

とはいえ、監督フランク・デ・ブールが“2-0じゃあ面白くないから一旦追いつかせ、最後にうっちゃってみせましょう”なんてシナリオを書いたわけがない。“このまま攻め続けて終わらせよう”と思っていたら、同点にされた。

 

ショーを目指したわけではなく、勝利への最短距離を目指したら面白くなってしまった。勝ちにいったという点では、ベルギーのロベルト・マルティネス監督と同じである。手法、フィロソフィーが違うだけで。

 

切った交代のカード5枚のうち3枚がDFだった。ファン・ダイク(ケガで招集外)とデ・リフト(負傷中)を欠き、一番不安に思っているのが守備ラインということだろう。

 

■勝つからショーも楽しめる

監督クライフは別世界の人だったから、ショーにも気を遣っていたかもしれない。

 

失点したら敵地チームのファンが喜び、大量得点&大量失点なら両チームのファンが喜び、中立のファンも大歓迎だ。何しろゴールはサッカーの華。ゴールショーはワクワク、ドキドキである。

 

が、1-0の勝ちと4-5の負けのどっちを選ぶか?と問われれば、監督クライフだって1-0を選んでいたろう。観戦者クライフなら4-5負けを選ぶかもしれないが。

 

勝たないと喜べない。勝利という大前提にショーは乗っかっている。面白ければ勝敗は二の次ではない(そう思っているのは私のような中立的な観戦者だけ)。勝つのは面白い。内容が面白ければもっと面白い。

 

監督クライフは1-0に満足せず2-0、3-0を目指していたと思う。リスクを負って攻めることで失点した結果、5-4となっても1-0よりは良い、というだけで。

 

期せずして、ゴールショーの演出家となってしまったデ・ブール監督のオランダが勝って良かった。勝利によって彼の「攻め続ける」というフィロソフィーは強化され、次からも期せずして演出家になってくれるかもしれないから。

 

■イングランド対クロアチア

監督としてはこういう試合が一番参考になる。

 

怒涛のラッシュを仕掛け10分までに3回のチャンスを作った若いイングランドを、モドリッチらお馴染みの顔がそろうベテランのクロアチアがどう止めるか? 暑そう(気温27度)で多分疲労によっても足が止まるが、その前に失点しかねない。

 

クロアチアの勢いストップ策は以下のようなものだった。

 

①相手のCBにはボールを持たせる。彼ら2人とGK以外の選手には1対1以上のマークを付ける。これでロングボールを蹴る方へ誘導する。

 

②マークの仕方は、奪うためのマークではなく、決定的なパスの出し手にさせないためのマーク。具体的には、背中に張り付き前を向かせず、バックパスを出す方へ誘導する。

 

③前線の選手が中盤へ、中盤の選手が最終ライン近くに下がってもついて行き、マークを剥がさない。

 

④ボールを奪っても急いでカウンターを狙わない。横パス、バックパスなどでマイボールの時間を長くする。

 

以上すべては試合のリズムを落とすのが狙い。イングランドの選手にもボールにも走らせない。足を止めて横や後ろへ向かってボールをこねてもらう。リズムダウンに加担するために自分たちも急いで攻めない。

 

■受け身のプレス、しっかりマーク

CB、GKをフリーにし、彼らへのバックパスを追わないことで、単純に8人対10人の数的有利(味方GKはマークに参加しないので)ができる。相手の危険なパスコースを消せる一方で、バックパスや後ろを向いてパスを受けることは許す。ここで相手を追い越してインターセプトを狙うことは、奪い返してカウンターに出るためには有効だが、マークを外され一気にピンチを招く恐れもある。

 

そういうリスクを負わないのがリズムダウン狙いの原則である。

 

受け身のプレスで構わない。肝心なのはスペース的にも人的にもギャップ(空き)を作らないこと。リズムダウンのためには何も起こさせず、何も起こさないのがベストだ。

 

これは見事に成功した。

 

20分を過ぎる頃にはリズムの落ちたゲームになり、あれだけ猛威を振るったフォーデン、スターリング、フィリップス、マウントが消えた。後半もクロアチアペースで始まった。が、そんな時にフィリップスのドリブルにコバシッチがインターセプト狙いで飛び込んで空振り。マークが外れてギャップが生まれ、そこをスターリングに使われて失点してしまった……。

 

■オーストリア対北マケドニア

オーストリアという中堅国で傑出するワールドクラス、アラバをどこでどう使うかが注目だったが、フランコ・フォーダ監督は3バックの真ん中で使ってきた。昔のベッケンバウアーやクーマンのように後ろからゲームを作らせようというのだ。

 

とはいえ、アラバの貢献はボール出し時に必ずサビツァーを探し、なぜだかフリーの彼にパスを通す、という以上のものではなかった。アラバ=サビツァーのホットラインはできていた。だが、そのラインから外れる仕事をしたのは、1対1で残り20分を切ってからだ。

 

3バックの左CBにポジションチェンジしボールを持って上がり、左サイドからのラストパスを狙い始めた。最初に上がった時は危うく相手のカウンターを喰いそうになった。2回目に上がった時は、GKが飛び出せない位置への曲がりながらFWへ向かって来る絶妙のクロスで、勝ち越し点のアシストをした。

 

ボール出しだけではもったいない。アラバはもっとボールを触れるところ、例えばセントラルMFでサイドチェンジや前線への配球、ボールキープに貢献させてはどうか、とは誰でも思う。あとは、3バックにして左サイドの高い位置で使う手もある。

 

ワンマンチームなのだからワンマンの力を引き出せるかがチームの出来に直結する。これはウェールズにおけるベイル、スイスにおけるシャキリも同じだ。

 

北マケドニアはバルディ、エルマスというボール扱いを見ているだけでも楽しい中盤を持つ好チーム。今大会は3位でも決勝トーナメントに上がるチャンスがあるということで引き分けも重要だが、そんな駆け引きのない清々しさで負けてしまったが、それも良しである。

 

 

木村浩嗣

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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