
味の素スタジアムで開催された「Enije(エニジェ)チャリティーフットサルイベントin味スタ!2025」。2025年11月22日に5回目を迎えた同イベントは、その収益がガーナで学校を建設するプロジェクトにあてられます。主催者である一般社団法人Enije 代表の矢野デイビットさんは、日本人の父とガーナ人の母を持ち、6歳で日本へ。25歳の時にガーナで出会った少年との経験から、誰にも守ってもらえない子どもたちの自立支援活動に取り組んでいます。イベントの舞台裏と、活動への思いをうかがいました。(取材日:2025年12月19日)
――2015年に始まったEnijeチャリティーフットサルイベントも、今回で5回を迎えました。11月22日のイベントを振り返っていかがですか。
熱血リーグとジュニアリーグ、ミックスリーグと3つの部門を作って開催されました。
もっとたくさんのチームを集めたかったのが正直な感想ですが、チャリティーフットサルイベントの雰囲気はすごく良かったです。
午前中が熱血リーグという高校生以上の男性、中級以上の女性も対象にした本気の勝負が好きな方たちに集まっていただきました。また、小学生を対象にしたジュニアリーグは、初めて立ち上げた部門になります。味スタでフットサルをやりたい子どもたちや、我が子を近くで応援できるという親御さんの体験も作りたかったんです。午後のミックスリーグは男性も女性も気軽に参加できるエンジョイで募集しました。
――イベントはどれぐらい前から準備されたのでしょうか。
準備は半年前ぐらいから始めています。ただ、イベントに携わるメンバーは他に仕事をしている方がほとんどなので、メインで動き始めたのは僕のほか1,2名から。開催3ヶ月前、1ヶ月前と近づくにつれて、どんどん携わるメンバーが増えていきました。
――どんなメンバーが携わって、イベントを運営されているのですか。
運営は、僕を含めたコアメンバーがいて、数ヶ月前からコミットしてくれるメンバー、前日と当日のメンバー、当日のメンバーという4つの構成になっています。コアメンバーは僕を含めて数人になります。
ウェブで参加募集のページを制作してくれるメンバーがいたり、大会で着てもらうシャツやビブスの制作など必要な備品を準備するメンバーがいたり。ボランティアの方のご協力もたくさんいただいており、審判や運営、受付などチャリティーイベントを開催する上で欠かせない力です。
今回で5回目の開催になりますが、2015年の1回目から足掛け10年やっているため、携わるメンバーもこの間、ライフステージが変わっています。結婚されたり、お子さんが生まれたりするなど、それぞれ状況が変わっているのでイベントを続けていく難しさも感じますし、苦労はありながらも継続してイベントができる嬉しさもありますね。
――そもそもどんなきっかけから、チャリティーフットサルイベントを開催しようと思ったのでしょうか。
もともと僕はアフリカのアーティストを呼んだり、いろいろな国のフードを作れる人を呼んだりして、チャリティーパーティーを開いていたんです。参加する皆さんに豊かな時間を過ごしてもらった対価がチャリティーになるという思いからです。
そんな中、僕は高校までサッカーをやっていたのですが、意気投合して食事やサッカーをする仲になった友人たちから、「チャリティフットサル大会を一緒に企画しない?チーム集めも運営も場所探しも僕らがやるから、デイビットは当日来て自分の思いを話すだけでいいよ」と言ってくれたんです!それまで、僕はイベントの場所探しから準備、集客、運営まで、一人でやっていたので、こんなことが現実に起きるのかと驚いたんです。
でも本当にイベントを開催してくれて、3年ぐらい続けていると1回の開催で20~30チームぐらい集まるようになってきたんです。そこで、僕はもっと大きな会場でやれるんじゃないかって思うようになって。僕はいつも"もっともっと"と上を目指すタイプです。今まで年間5回、6回のイベントを1回の規模にできれば、チャリティーとして協力してくれる人やお金も集まりやすくなるかもしれない。そろそろ挑戦する時だと思って、味の素スタジアムをお借りして開催に至りました。
――チャリティーで集まったお金は、全てガーナの学校建設にあてているのでしょうか。
イベントの運営費や事務経費などを除いて、すべてガーナでの学校の建設費にあてています。これまで現地の中学校建設に貢献してきました。
――矢野さんは、25歳のときにガーナに行かれて、ご自分と似たストリートチルドレンの少年と出会い、いまのガーナでの学校建設や子どもたちの自立支援活動につながっているそうですね。なぜ、そのとき、ガーナに行ったのでしょうか。
日本に来て以来、初めてガーナに行ったのは22歳でした。その次のタイミングは25歳のときです。お仕事の依頼をいただき、ガーナに行くことになったのです。
3週間の滞在期間中では、現地でガーナ人や日本人の友だちもでき、帰国前には送別会を開いてくれたのですが、その食事に行く中で、僕の顔にそっくりなストリートチルドレンの少年と出会ったんです。僕は生まれて6歳で日本に来る前にガーナで盗賊に襲われて、命からがら日本に逃げてきて、児童養護施設で18歳までの10年間生活をしているので、孤独な人生を歩んでいました。だから、その子どもを見たときに他人事には思えなくて。きっと神様はこういった子どもたちと出会うこの日のために孤独ということの意味を僕に教えてくれたんだと思いました。そんな子どもたちのためにできることを考えて、やっていく人生に挑んでみようと思って、いまのガーナでの学校建設や子どもたちの自立支援を始めたんです。
――2018年にミッションであった中学校の自立支援が達成されたため活動を一度止められました。教育支援は終わりがないと思いましたが、どういった経緯だったのでしょうか。
いくつか理由があるのですが、このプロジェクトを始めたときから、目標が“自分たちがいらなくなる活動にしよう”と決めていたんです。僕らは支援団体ではなく、自立支援団体であり、子どもたちが心身とも独り立ちできるように、もしくは技術的・能力的に独り立ちできる、社会で生きていける人間の形成をゴールにしようと思っていました。
ですから、ガーナで学校を作る段階から、パートナーシップを組んでいた学校と話し合う中で、ただ学校を作るのではなく、子どもたちの人生を変える力や情熱を持ってやっていこうと伝えていました。おかげさまで、学校ができた後2018年にガーナのイースタン州という日本で言えば埼玉県や神奈川県のような地域で最も優秀な中学校として政府に3度表彰されたんですよ。
そうなれば、僕らが言うことは無いんです。先生たちの情熱が見えてくるし、学校について熱心にディベートする様子も見えました。本当の完成ではないかもしれないけど、もう僕らの役割は終わったねと、パートナーシップ先に伝えて支援を止めたんです。
――ただ、2024年よりガーナに子どもに対する自立支援活動を再開されました。
再開の理由はいろいろとあるのですが、ずっと児童養護施設を作りたいという夢がありました。いまガーナでは法律が変わって新たに児童養護施設を作れないのですが、自分が活動をやることになった理由は、誰にも守ってもらえない道で生きる子どもたちに出会ったからなんですよね。
ですから、そんな子たちが入れる私立学校を作って勉強に明るい子たちからストリートチルドレン、ガーナ内の児童養護施設、ガーナの周辺国の児童養護施設の子どもたちまでが入って来られるようにしたいと思っています。僕は児童養護施設の中で生活していたのですが、社会に出るとみんながその環境を知らないということを痛感しています。富裕層から貧困層までいろいろな社会的背景のある子たちが一緒に生活する場所が、人間形成に大事だと思っていますので、ガーナでその環境を作りたいと思います。ガーナNo.1の学校を目指します。
――これからの私立学校を作っていくのが活動の大きな方向性なんですね。
そうですね。今はそのために私の周りでスポーツ、芸術、学業などに長けている方たちを探しています。子どもたちが豊かなものに触れられることが大事ですから、僕という一人の人間だけで、全てを網羅して与えることはできないと気がつきました。素晴らしいものを構築してきた方がたくさんいるので、みんなで協力し、本当にいいものを子どもたちに与えていけるよう、僕はリーダーシップを発揮して実現していきたいと思います。
――チャリティーイベントの展望はありますか。
今年、もっとたくさんの方に参加してほしかった思いがあるからこそ、来年は大成功したいという思いが芽生えています。もう次回に向けてこの1ヶ月間、動いています!
また、味スタ開催のようなイベントを2つ、3つぐらい作りたいと思っていますし、全国展開の準備を2026年はしていきたいと考えています。ただ内容はフットサル、サッカーということではなく、もしかしたら運動会や、スポーツを超えてみんなが楽しめるアフリカンフェスかもしれません。
僕らがチャリティーイベントを開催している理念は、参加する自分自身が楽しめるコンテンツを作って、お金を払って体験いただき、本人がハッピーになる対価がガーナにいる知らない子どもたちの未来を作っていくことに繋がっていく。そんなみんながハッピーになるものを作りたいんです。
――イベントでボランティアの方が活躍されている様子を、LaBOLAのEnije公式コミュニティ内のブログで書かれていました。今後、どんな方に参加してほしいでしょうか。
やはりイベントではどんな方でも大きな力です。当日の参加のみの方でも、大きな施設での運営となれば、かなり助かります。現場でお願いすることに対して、前向きに取り組んでくれる方にボランティアへお集まりいただけると嬉しいですね。
矢野デイビット
ミュージシャン、一般社団法人Enije代表。日本人の父とガーナ人の母を持ち、ガーナで生まれ6歳より日本へ。25歳の時、ガーナで自分とそっくりな顔をしたストリートチルドレンと出会った経験を機にEnijeを設立し、ガーナでの学校建設など自立支援活動に取り組む。味の素スタジアムでのチャリティフットサルイベントは2015年より開催。明星大学で客員講師も務める。
