矛と盾(USオープン その3)

  • マル
    2010年09月08日 21:41 visibility522

矛と盾はどちらが強いのか。

今日はベルダスコとフェレールの対戦でした。
攻撃的なテニスをするベルダスコ。
守備的なテニスをするフェレール。

ともにスペインの選手でありながら、極めて対照的です。

(念のため。
 フェレー「ル」です。
 全仏で優勝しているイケメンではありません(あれはフェレー「ロ」)。
 「ル」の方もイケメンですが、試合後半になると汗で髪がザンバラになり、
 さながら「落ち武者」みたいになります。
 なお、ジャパンオープンにも来たことがあります。)

***
このマッチのスタッツにも、この二人の対照性が如実に表れています。
ウィナーは
 ベルダスコ 73
 フェレール 38

サービスエースも
 ベルダスコ 16
 フェレール 7

アンフォーストエラーは
 ベルダスコ 89
 フェレール 49

ダブルフォルトは
 ベルダスコ 11
 フェレール 5

でした。

熱しやすい性格である点や、ムラッ気がある点など、
プレースタイル以外はかなり似ているのも、
このカードの面白いところです。

***
下馬評でも真っ二つに割れていました。

ある人は、攻撃的なベルダスコが勝つと言い、
またある人は、ベルダスコは不調だし、安定感のあるフェレールが勝つと言っていました。

どちらも当を得たものであり、
結局は「どちらに転んでもおかしくない」対戦であるということで、
とても楽しみな試合でした。
(なお、私の予想は、
 ベルダスコは直前期まで不調が続いているためフェレールが勝つ、というものでした。)

***
では、実際の試合はどうなったのかというと、
と て つ も な い 熱 戦 で し た 。

正に期待した通り。
今年のUSオープンのベストマッチといっても良いのではないでしょうか。

もちろん、これまで1セットも落としていないフェデラーの華麗なテニスや、
ハードコート上でも盤石な試合運びをみせるようになったナダル、
ネットプレーヤーとオールラウンダーの綺麗な対照が見れたロドラvsベルディッヒ戦、
フランス勢同士、質の高いショットの打ちあいとなったモンフィスvsガスケ戦など、
良い試合は沢山あります。

しかし、この試合は、それらとは一線を画すものでした。
まさにガチンコ対決。
意地と意地の張り合い。
それも、両者ともに良い仕上がりの中での対戦。

この意味で、同じくフルセット戦うことになった
錦織vsチリッチ戦などとは比べ物にならない、質の高い対戦でした。

(ちなみに、錦織vsチリッチ戦は、チリッチの背中の様子が明らかにおかしく、また体調不良であって、
 最後の方、チリッチは
 「早くとどめをさしてくれ…(ヽ´ω`)」
 という状態で、
 それにもかかわらず錦織選手がミスをしつづける、というある種の拷問ともいえる内容でした。

 私も錦織選手は好きなのですが、
 もう少しいい内容を期待していただけに、残念でした。)

***
さて、この矛と盾の闘い、
第1セット・第2セットは「盾」が優勢でした。

1stサーブが6割を切るベルダスコに対し、フェレールはそれぞれ64%、79%を確保。
1stサーブからのポイント取得率も81%、62%と高い数字を出しています。
レシーブからのポイントも、4割を超えていました(ベルダスコは3割程度)。
アンフォーストエラーも、9本、14本と、ベルダスコの16本、24本を大きく下回っています。

数字だけでなく、実際のゲーム展開も、
コート狭しと走り回り、深くボールをコントロールするフェレールに対し、
ベルダスコは攻め急いでの自滅が多く見られました。

まさに、「盾」の面目躍如、といったところでした。

結局、フェレールが7-5、7-6(8)で取ります。

セットにかかった時間(それぞれ51分、71分)を見ても、
どれだけ激しいラリーの応酬であったか想像できると思います。

***
さて、第3セット。
昔のベルダスコ、調子の悪い時のベルダスコならば、ここで更にミスが増えるのですが、
今日は違いました。

一見、あきらめたとも思えるような転調。
これまでの火が出るような攻めから一転、ギアを落としてのコントロールショットに変わります。
そしてそれが的確。
フェレールを走らせ続けます。
これが当たりました。

第3セットこそ、1stサービスの率も49%と低く、エラーも23本と多いのですが、
大事なところでのポイント取得率が上がりました。

5本あったブレークピンチをすべてしのぎ、
逆に1本しかなかったブレークポイントを獲ります。

レシーブポイントも39%まで上げてきましたし、
逆にフェレールのレシーブポイントを36%まで落としました。

フェレールがネットに2回しかでてこなくなり、しかもそれをすべて落としているのは、
ベルダスコのショットが深く、左右に振るものであったことを如実に示していると思います。
(第1、第2セットはそれぞれ7回、9回ネットに出られており、
 しかも1本以外全部ポイントを獲られていました。)


この「転調」で調子をつかんだベルダスコ、
第4セットもこの戦法で行きました。

1stサーブの確率は70%まであがり、ポイント取得率も86%もありました。
フェレールのレシーブポイント取得率は20%まで落ちます。

一方、相手の堅実かつ攻撃的なプレーに押されたフェレールは、
サービスが入らなくなり、ポイント取得率も下がります。
自分が一方的に走らされ、打たされていることに対する不満もつのっているようでした。

結局、フェレールの方がサービスの回数が倍にもかかわらず(フェレール40回、ベルダスコ20回)、
2ブレークされてしまいます。
フェレールはブレークポイントすら握れませんでした。
総ポイント数も26に対しベルダスコは34と、大きく離されてしまいます。

そのようなわけで、第3、第4セットは「冷静になった矛」に軍配が上がりました。
プレー時間もそれぞれ48分、39分と大分短くなっています。

***
そして運命の第5セット。
(なお、ウインブルドンと違い、6オールからはタイブレです。)

このセットは本当に見ごたえがありました。
冷静と情熱のはざま、というか、
ホットなハートと、クールなヘッド。
両者が十分にその持ち味を発揮したと思います。


フェレールはガタガタだったサービスを立て直し、
この試合最多の3本のサービスエースを叩きだします。(ベルダスコはこのセット2本でした)。
その代わり、ダブルフォルトもこの試合最多タイの2本ありました。
どれだけフェレールが攻撃的にサービスを打ったかを示していると思います。

1stサービスのポイント取得率も69%まで急上昇、
2ndサービスでも53%のポイントを取得します。
レシーブポイントでも、33%までポイント取得率を回復しました。
「攻撃的な盾」の恐ろしいところです。

一方、ベルダスコは、「冷静な矛」で対抗します。
1stサーブこそ54%しか入りませんでしたが、
エース2本、ダブルフォルトなし、
1stサーブからのポイント取得率76%という盤石さ。
2ndサービスでも56%ポイントを獲っています。

ネットにも果敢に出ていきます。
フェレールの4回に対し、9回ネットにアプローチ、うち8回でポイントを獲っています。
何度も華麗なボレーを決めていました。


結局、このセットは1ブレークずつでタイブレークに突入し、
最初はフェレールが先行したものの、ベルダスコが獲りました。
(この間、用事で度々席を外していたため見れなかったのが悔やまれるところです…!)
最後のポイントは、この試合のベストショットともいえるポール回し気味のランニングショットでした。

トータルポイントでは2ポイントしか違わず(フェレール39、ベルダスコ41)、どれだけ熱戦だったのかが伺えます。

試合を通してもトータルポイントはフェレール188、ベルダスコ196と、接戦でした。

***
この熱戦を見て、どちらかというと「矛」タイプの私としては、
「攻める時こそ、冷静に!」
との鉄則を改めて銘記しました。

頑強な「盾」に対しても、攻め続ければ勝つことができる。

ただし、頭だけは冷静に、
それでいてテンションは下げず、試合を投げず、
最も堅実な手の中で、最も攻撃的な手を打つ。
「攻撃的」というのは、何も派手なショットを打つことではない。

そのことを改めて思い知らせてくれる試合でした。


この試合は本当にテニスの醍醐味が詰まった試合でした。
攻めるテニス、守るテニス、
攻めるもどかしさと、守る難しさ。
テンションが爆発しそうになるのを抑えての戦い、
自己のコントロールの重要性…
この試合には、それらの要素がぎっしり入っていました。

ストローク主体の試合をされる方ならば誰が見ても面白い試合だと思います。

また、現在フォアハンドが迷子の私には、ベルダスコの「ギアチェンジ」も参考になりました。
(打点さん、早く帰ってきてください…( T¥T) )

負けたフェレールは本当に残念でしたが、とても良い試合でした。
「とても良い試合」という言葉が陳腐に聞こえるくらい、いい試合でした。

これは保存版だなっと ( ☆_☆)キュピーン

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