アスレチックスのGM:ビリービーンについて(その1)(12/22,203503,野球16,総合42)

松井がアスレチックスに入団したので,セイバーメトリクスを球団経営に取り入れたビリービーンGMを描いた「マネーボール」(マイケル・ルイス著)を読んだ.非常に面白かったので内容を感想を交えて紹介する.

・ビリービーンは抜群の身体能力を持つ将来を嘱望される野球選手だった.どのスカウトも絶賛し,ドラフト一位でMLBに入ったが,あまりに才能に恵まれていたので,壁にぶつかったときの対処法を知らず選手としては成功しなかった.精神的に弱かった訳である.実は,その兆候は,高校3年生の時の(アマチュア最後の)成績にも表れていたが,彼の抜群の身体能力を見ていたスカウトはその結果を無視したわけである.
 ビリービーンは,後にGMとして,MLBで初めてセイバーメトリクスを本格的に取り入れた球団経営を行って成功する訳だが,その背景にはこのような自分の経験があったためだと思う.彼は,数字(成績)を徹底的に重視し,従来のスカウト(ほとんどが元選手たち)の言う所のあいまいな「選手としての魅力,才能」を無視し,スカウトを一新してしまった.

・ビリービーンは,スカウトが「この選手は抜群の才能がある.精神的に弱い部分はあるが,それはプロ入り後に克服できる」というような話を信用しなかった.まあ,そうですね.巨人にも才能はあるが,精神的に弱い選手が何人もいていっこうにその部分が改善されませんな.しかし,斎藤雅みたいに,藤田マジックで気の弱さを克服して巨人の大エースになった人がいることも事実である.これは,ビリービーンにとっては「統計上の揺らぎ,例外」で片付けるのだろう.

・アスレチックスは,レギュラーシーズン(長期戦)では高い勝率を誇るが,ポストシーズン(短期戦)での結果は必ずしもふるわない.これを,短期戦では統計上の揺らぎが大きすぎるせいで仕方がないととらえるが,ビリービーンの無視している部分の中に根本的な要因があるためなのかは議論の分かれる所だろう.まあ,彼自身は「ポストシーズンに出場させるまでが私の責任」という趣旨のことを言っているが.ただ,この彼の言葉と,楽天のフロントの誰かが,「リーグ優勝ではなく,CS出場を目標とすれば効率的な球団経営ができる」という趣旨の話をしたのとが私には重なるように思う.このフロントがビリービーンに影響されたのか,「経営効率」を考えれば同じ発想に至るのかはわからない.

・ビリービーンは,最小の投資効率で最大の効果(勝ち星)を得るために,セイバーメトリクスだけでなく,ありとあらゆる手段を使う.マネーボールの中では,彼が,他の球団のGMと電話でやりとりをしながら,自軍に有利なトレードを次々と成功させていく様子が生き生きと描かれていて,それを読む限りは,出資金0で,ライバル球団に岩隈を入団させなかった今回の出来事など朝飯前という気がする.ビリービーンに扱える資金は限られており,むしろ,それをいかに有効に使うかを楽しんでいるような所すらある.今回の,岩隈・楽天との交渉は,少ない金額で岩隈が取れたらラッキー,岩隈が取れなくても出資金0でライバル球団の補強を阻止できるからラッキー(つまりどちらに転んでも損はない)とビリービーンは判断していたのだろう.ビリービーンのやり方は,MLBでは有名になってしまって,MLBのGMは簡単にはだまされなくなったが,日本の球団は簡単にしてやられたという所か.



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