KANO 海の向こうの甲子園

【映画批評】
 『KANO 1931海の向こうの甲子園』



地元の野球大会ですら一勝も上げられなかったチームが、わずか1年で甲子園へ!
戦前の高校野球。台湾代表チームの嘉義農林学校(嘉農/KANO)。
奇跡のような嘉義農林の躍進を描く。
これがまぎれもない史実だということに、改めて驚かされる。
後半の野球シーンはまるで本物のゲームを見ているような臨場感。
1931年8月21日の甲子園、第17回全国中等学校(今の高校)優勝野球大会の決勝戦の再現である。
まさに手に汗握る名試合。
ひたむきな球児たちの姿が心を揺さぶる。


この映画では、台湾の俳優をはじめ、国内ではあまり知られていない日本人俳優を多く起用している。
それが新鮮に感じられる。こんないい役者がいたのかという発見もまた快い。
 加えて、しっかり練られたプロットがあり、心に響くセリフが随所にちりばめられている。
それはまた心地よい余韻となる。
たとえば、長瀬演じる嘉農の監督近藤兵太郎の師であり松山商の監督でもある役柄の伊川東吾。
 「負けることを考えるな
  勝つことだけを考えろ!」
 渋みのある伊川の声がたまらない。
また、映画の中ほど、監督役の長瀬のセリフ
「野球は呼吸だ。
  呼吸を合わせろ!」
すでに語り尽くされた言葉ではある。だが、まさに野球というスポーツの核心を突いている。
そのことが、映画を見るうち、腑に落ちてくる。
この見事な脚本は、プロデューサーも兼ねている魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)。
2013年公開の衝撃作『セデックバレ』の制作者でもある。


なるほど野球は呼吸だ。
そして、映画もまた呼吸が決め手だろう。
この映画には、全編に熱い息吹がみなぎっている。
猛特訓を経て大きく成長し、躍動する球児たちの元気いっぱいの姿、
彼らを乗せて驀進(ばくしん)する蒸気機関車、
そして、完成した東洋一のダムから勢いよくほとばしる豊かな水!
熱い時代の熱い呼吸が平仄(ひょうそく)を合わせてビートを刻み、
見るものの心にも熱い何かを送り込んでくる。
長尺ながら、最後までスクリーンに釘付けにさせられた。
見終わったあとのすがすがしさ、そして、なんだか元気になれる。
こんな視聴体験は久しぶりだ。
 野球ファンのみならず、たくさんの方々に見ていただきたい映画である。









































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