韓国はなぜオープンな戦い方で臨んだのか?

  • 2012年09月01日 04:37 visibility232

ヤングなでしこは初のベスト4に進出。あと2試合を見られることになった

 エンドを替えた後半は、両者共にゴールはなかったものの、日本の的確なディフェンスをじっくり観察することができた。特に守備面で貢献していたのが、猶本と藤田のボランチコンビ。彼女たちへの吉田監督の指示は「10番(ヨ・ミンジ)と11番(チョン・ウナ)が下がって来てボールを受けて、そこで起点になることが非常に嫌だったので、そこのコースを切りながらポジションを取れ」というものであった。

 一方、センターバックの木下は「(韓国のゴールが)入ってしまったときは、自分たちが(相手の)ターンに甘かったという認識なので、前を向かせないようにしてボランチや中盤の選手にプレスバックするという守備を話し合って、そこは徹底してできるようになった」と振り返る。後半、韓国の中盤がプレッシングを強めながら積極的に仕掛けてくる中、それでも日本のディフェンス陣は前半の失点の原因をきちんと修正し、破たんすることなく90分を終えたことは十分に評価してよいだろう。

 とはいえ、さすがの日本も時間の経過とともに疲労の色は濃くなってゆく。ベンチは、前半終了直前に高木に代えて中村ゆしかを、さらに後半16分には浜田を下げて横山久美を投入する。両サイドバックを替えるという大胆なさい配は、おそらくけがかコンディション不良によるものだろう。横山投入の際には、左MFだった田中陽をひとつ下のサイドバックに下げている。彼女は、所属するINAC神戸レオネッサでもサイドバックで起用されることが多く、吉田監督も「想定内」とは語っていたものの、さりとて積極的なポジションチェンジであったとは思えない。

 そうして考えると、2点リードされていた韓国も、やりようによっては十分に勝機があったように思えてくる。170センチ台の選手を前線に並べ、執ようにロングボールを繰り出していけば、いずれ日本のゴール前にほころびが生まれていたかもしれない。あるいは、ラフプレーぎりぎりのフィジカルを前面に押し出したプレーで、心理的に相手を圧倒するという戦い方もあっただろう。だが韓国サイドは、あくまでビルドアップとパスサッカーによるオープンな戦い方にこだわり続けた。その理由について、韓国のチョン・ソンチョン監督はこのように述べている。

「日本のサッカー界も同じ考えだと思うが、サッカーというものは1日や2日で成長するものではなく、日々の積み重ねによって発展していくものだと思っている。持続的に日々、丁寧にしっかりとサッカーしていくことで、いつしか上位にランクしていくものではないか(と考える)」

■どれだけ両国間にギャップがあっても つまり韓国は、結果よりも内容を重視したのである。いくら因縁の日韓戦とはいえ、アンダー世代の国際大会であれば、ある意味当然のことと言えよう。加えて、ロンドン五輪の3位決定戦の時のように「史上初のメダル」や「兵役免除」、さらには「光復節(日本統治からの解放を祝う祝日)直前」といったバイアスがなかったことも無視できない。いずれにせよ、韓国はオープンな戦いで日本に挑み、当然の帰結として、技術力とチームの完成度の差がそのままスコアに反映されることとなった。

 試合後、健闘むなしく敗れた韓国の選手たちに、スタンドから温かい拍手が送られた。日韓関係が非常に危うい時期に開催された、今回の日韓戦。幸い、政治的なノイズに邪魔されることなく、無事に90分を終えることができた。そして両チームの選手もスタッフも、さらには両国のジャーナリストもサポーターも、きちんとサッカーに集中していた。当たり前といえば当たり前の話だが、このところ政治の世界で「当たり前と思われていたこと」がことごとく覆される事態を見てきたので、いささか疑心暗鬼になっていた。とはいえ、スポーツはスポーツ、サッカーはサッカーである。どれだけ政治体制や国民性や歴史認識にギャップがあっても、サッカーのルールはひとつであり、だからこそ国を代表していてもオープンに戦える。そのありがたみを、図らずも痛感した日韓戦であった。

 かくして私たちは、ヤングなでしこの戦いをあと2試合、楽しめることとなった。ライバルを打ち負かしたこと以上に、彼女たちの意外性とエンターテインメント性に満ちたプレーを引き続き見られることは、実に喜ばしい。セミファイナルでの対戦相手は、ドイツとノルウェーの勝者(おそらくドイツだろう)。今まで以上にタフな試合になること必至だが、それでも選手たちに気負う様子はない。猶本は言う。

「史上初のベスト4ということですが、わたしたちは最初から優勝を狙っていますし、U-17W杯で準優勝しているので、特にうれしさとかはありません」

 その心意気やよし! こうなったらぜひとも、このままファイナルまで突き進んでほしいものだ。そしてその時は、あの国立競技場を満員にして、日本女子サッカーの歴史に新たな1ページを加えよう

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