斎藤佑樹が選んだ6球目


 第88回大会は『ハンカチ王子』こと早稲田実の斎藤佑樹(現早稲田大)投手が強烈的なインパクトを与えた大会でした。

 決勝戦の相手は駒大苫小牧、2年連続で甲子園を制しており、3連覇を狙って世代最強の田中将大投手(楽天)を率いて勝ち上がってきました。

 戦前の予想は3連覇を狙う駒大苫小牧。快進撃で勝ち上がってきた早稲田実もここまでか、という記事が新聞には目立ちました。

 しかし戦いが始まると両チームとも息詰まる接戦…8回に1点ずつ得点を加えただけで1−1で延長15回まで回を進めました。この回で終わらなければ再試合…

 そして延長15回表、簡単にツーアウトをとった斎藤佑樹投手は駒大苫小牧4番の本間篤志選手を打席にむかえます。ここで誰もが目を疑う投球をするのです…

 初球…ストレート。なんと電光掲示板には『147km/h』の文字が…ここまで斎藤佑樹投手が投げた球数は173球。8月20日の炎天下の中、3時間半にも及んでいたこの延長15回にこの球速を投げるのです。

 フォームが安定している、崩れていない、というのが要因だと私は考えています。気力や体力だけでは語ることができません。彼はそこまで考えてピッチングしていたと思います。終盤でも球速が落ちないためにはどうすればいいか…

 続く2球目は143キロ、3球目は147キロ…3球ともボールになりましたが、このボールが無駄なボールではないことが後々分かります。

 ノースリーとなった4球目以降も更にストレートを投げ抜きます。146キロ、ストライク。次の5球目は低めにいきますが、審判の手は挙がり2ストライク3ボールの振るカウント。もちろんこの球もストレート。

 スタンドはこの投球に見惚れながらも拍手が沸き起こる異常な事態となっていました。そして次の6球目の前に、斎藤佑樹投手の素晴らしさが分かる行動があるのです。

 5球目を投げ終わった後、打者本間選手が目を逸らしている隙に捕手白川選手にボールの握りを見せたのです。見ていないときに…

 白川選手もこれにもちろん気付きます。彼と斎藤佑樹投手との関係も語れば長くなるようなドラマがある仲ですから。

 サイン交換はもちろん1発で決まり、6球目を投じます。内角低めのボールに本間選手のバットは空を切ります…斎藤佑樹投手が投げたボールはそう、『フォーク』だったのです。

 あの歓声の中、どう考えても6球連続ストレート勝負、という雰囲気だと彼は分かっていました。分かっていたからこそ彼は『フォーク』を投げたのだと思います。

 『それまでのストレートと全く同じペースで投げていたんです。間合いも、フォームも。もし、サインが長引いたりしたら疑われるかもしれない』

 このことがあったから、白川選手にこっそりと握りを見せたのです。斎藤佑樹という投手がどれだけ考えて、どれだけ分析して投げているかが分かる話です。

 『歓声が伝わってきていたので乗せられそうになりましたけど、あそこで乗ったらダメ。基本は抑えることですから。魅せるところは魅せても』

 彼は必ずプロで活躍すると私は期待しています。これだけしっかりと考えて投げているのです、高校生で…大学1年から早稲田大で活躍しているのもうなずけます。もだまだ成長するでしょう。もちろん3年後プロに入ってからも…

 再試合でも斎藤佑樹投手が9回を118球投げ抜き、早稲田実業は初優勝を飾りました。斎藤佑樹という投手が、いや人間がどのような人間なのか、分かる気がした出来事でした。

<参考>
週刊甲子園の夏03(朝日新聞出版)<!-- __entry_body_end__ -->







































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