時に発泡酒をおもふ

僕の家では昔から「キリンラガー」ビールが愛されていた。


今と違ってまだ、サザエさんにでてくるサブちゃんみたいな酒屋の人が、各家庭の無くなった頃を見計らって、なかば押し売りのような形

で新しいビールを置いていく時代だった。

 頼んでもいないのに、いざ持ってこられると無碍に断ることもできず、苦笑いを浮かべながら代金を支払っていた母の

顔が今でも記憶に残っている。

 親父が毎晩仕事から帰ってきて風呂上がりに「くいっ」とやって、「カ〜っ!」と意味のわからない雄たけびを揚げるのを

不思議に思ってみていたが、今ではその意味が誰よりもよくわかるくらい僕も無事、ビール愛好家に育った訳だ。

 

 僕がビールを嗜好しだしたのは今から20年も前の事で、ビール情勢はキリンからアサヒ、すなわち「スーパードライ」に

時代が変わりつつある時だったのだが、僕のなかのビールはやはりキリンなわけで、あの苦さがたまらない。それは今でも変わらない。

 「キレ」を売り文句に掲げたスーパードライを僕の舌はうまいと受け付けなかった。

 

 それからややしばらくアサヒの天下は続き、本来キリンの特徴であり長所でもあった「苦み」が敬遠される中、酒税法の改正により

各メーカーとも発泡酒の開発に取り組む時代が到来した。

 僕の記憶が確かならば、確かサントリーのHOP'SというSMAPの中居君がCMを務めたものが発泡酒の起源ではなかったかと思う。

創世期の発泡酒というものは、今現在出回っているような完成度の高いものではなく、麦芽の割合を抑えホップでなんとなくビール風に仕上げた

なんちゃって度が高い妙な味がしたのを覚えている。

 それでもドライな味に慣れた国民は、文句をいいながらもそれを受け入れた。安いからだろう。

 

 いつしか時代はかわり、第3のビールというカテゴリーまで生まれ、現在に至っている。

 かく云う僕も、不況の波には抗えず、ビール:発泡酒=3:7で飲む日常が続いている。

 

味覚のおかしくなった日本人の中には、ビールと発泡酒の違いがわからず、なんでもいい、という人もいるのだろうが、キリン党の自分としては

できれば毎日ビールが飲みたい。

 

 酒造メーカー各社も発泡酒の開発に重きを置き、売り場ではビールより発泡酒の方がはるかにスペースを取っている。

 

「いかに偽物を本物らしくみせるか、そんな競い合いの時代だ」と三島由紀夫が将来を憂いた言葉を残したそうだが、ビール情勢をみただけでも

その意味に深くうなずいてしまう今日このごろである。

 

 ふとTVをみると、田村正和が「ビールと間違えました」と言い、ダウンタウンの浜田とレッドソックスの松坂が、いかにも旨そうに

それらを飲み干している。

 

 僕は疑問に思う。そもそも彼らは発泡酒なんぞ飲むのだろうか?と。

 

 TVCMにタレントの起用は不可欠というセオリーが、こと発泡酒の場合においては通用しないのではないのだろうか。

 年棒30億円のメジャーリーガーや、ドラマ出演一本につき何千万も稼ぐ人間が発泡酒を飲むとは僕には思えない。

 

 ああいうのをみていると、本当にTVは信用できんなぁとあらためて訝しくなるお年頃の僕である。

 

 先日、紅白初出場を果たしたバンド、ファンキーモンキーベイビーズが「お父さん」に対する応援歌の中で「第3のビールで乾杯〜」と歌っていた。

 

 彼らは正しいな、と僕は思う。

 

 所詮、発泡酒や第3のビールというものはその程度のレベルの飲み物なのだ。

 

 実際に飲んでいる庶民はそれを十分に分かった上で、仕方なくのんでいるだけで、先に挙げた有名人に誘発されて飲んでいるわけではないのだ。

 広告業界のクリエイター達ももう少し考えたほうがいいのではないかと思う。

 

 いっそのこと、一発屋と呼ばれる落ち目のお笑い芸人を起用して

 

「俺にはこれで充分です!」

 

 というようなコピーで売り出すほうが理にかなっているし、同情票のもと、ヒットにつながる予感すらする。

 

 僕的には、波田陽区やテツ&トモ、あたりが適任かと思われる。

 

  起用された彼らはそのギャラで発泡酒ではなく、ビールを飲むんだろうけど・・・

 

ひがみやねたみを発泡酒にぶつけて、アラフォーの僕はまた今夜も発泡酒のタブを当たり前のように開けて飲み干すのだ。

 

 そして、散々理屈をこねて、頭ではわかっていても、

 決して旨くないその味に「旨い!」とひとこと付け加えてしまうのは、僕が単に呑み助だからだろう・・・嗚呼、無常

 

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