チームの守備力向上は、攻撃力の向上につながる

 日本のメディアは、パスやドリブル、シュートなどのテクニックを取り上げてファンの心をつかみます。地域の少年サッカークラブを見ても、攻撃的な能力の育成に力を入れているところが多いです。その結果、守備が疎かになっていたり、最低限の守備能力を育成しているチームが多いのではないでしょうか。日本には守備能力が高い選手が少ないと言われています。地域のクラブや各年代の大会を見ていても、攻撃ばかりがクローズアップされます。世界トップレベルのヨーロッパクラブや代表は、守備の意識や能力・精度が高いです。

 

日本はここ数年、攻撃のレベルアップに励み、ヨーロッパのスタイルを導入してきました。それでも、未だにヨーロッパのクラブや代表と差があるのはなぜでしょうか。アルゼンチンでプレーしていた時に聞いたのですが、守備のレベルに差があることが原因の1つではないかという話をされました。

 

守備のレベルが低い状況では、当然攻撃も成功しやすいです。ドリブル突破やパス回しなど、守備がゆるい状況では簡単です。守備のレベルが低い状況でどれだけ攻撃のトレーニングを行おうと、攻撃のレベルアップにはなりません。どれだけ優れたテクニックをトレーニングで見せていても、実際の試合で相手の守備のレベルが高くなると、自分たちのサッカーができなくなってしまうそうです。

 

スペインとアルゼンチンで様々なクラブを見てきましたが、チーム作りにおいて何よりもまず必要なのは、「守備時のアグレッシブさ」だという答えをもらいました。【アグレッシブ】とは、「積極的」「攻撃的」と訳することができます。つまり、守備を積極的・攻撃的に行うことが大切なのです。

 

攻撃的な守備とは、「前に出て行く守備」「激しい守備」のことです。常に選手たちの「本気・全力」のプレーが、守備時には必要です。どれだけ選手のレベルが低くても、守備時に、意識してアグレッシブなプレーをし続ければ、必ず時間とともに「守備の力」も「攻撃の力」もついてくるそうです。


私が訪れたスペインやアルゼンチンでは、プロクラブの選手だけではなく、地域クラブの選手や幼少期の選手、さらには遊びで行われている公園のサッカーでさえ、タックルやスライディングの激しいプレーが見られました。異国でサッカーをプレーしたことがある人なら、日本ではあまり見られないような激しいプレーを受けたことがあるのではないでしょうか。プレーするどの選手に聞いても、「相手に抜かれるのは恥だ」とか、「遊びでも負けるなんて我慢できない」とか、「ボールを回されると腹が立つ」とか、そういった声が聞けました。守備がアグレッシブな状況だからこそ、ヨーロッパや南米では攻撃のタレントが生まれるのだろうな、と感じました。


2009年からスペインのバルセロナでポゼッションフットボールを形成したグアルディオラ監督でさえ、チームに合流した当初、チーム内での振る舞いが悪く、守備に無関心なロナウジーニョ、デコ、エトーの3人を戦力外としました。エトーはその後チームに残留し、振る舞いを改善し、守備にも励む素晴らしいプレーを見せました。そういうところから考えても、「攻撃的なチームを作る」「攻撃のレベルアップを図る」ためには、守備を大切にすることが重要なのでしょう。


グアルディオラ時代のバルセロナは、自分たちがボールをポゼッションしている時は、選手は走らずにボールを走らせます。しかし相手ボールになった瞬間、選手たちは一気に激しいプレッシングを見せ、相手ボールを奪いました。高い位置から激しいプレッシングを見せるのは、自陣でボールを奪うよりも、敵陣でボールを奪う方が攻撃に転じやすいからです。しかしその分、ディフェンスラインの後ろに広大なスペースができますが、この広大なスペースはゴールキーパーとセンターバックが意識してケアすることによって守備を組織しています。


もしも、あの時のバルセロナが守備に無関心なチームだったなら、あれほど自分たちがボールを保持し続け、芸術的で攻撃的なフットボールを展開することはできなかったと思います。ボールポゼッションが7割を超えるのは、自分たちがボールを保持し続けるテクニックやパス回しができるからだけではなく、相手のボールを素早く奪い返す守備力があったからこそ可能となった結果です。


私がスペインで学んだのは、攻撃だけを考えたチームに、強いチームはないということです。どれだけボールを大切にする攻撃的なチームであっても、まず何よりも守備の時のアグレッシブさが求められます。「自分たちが攻撃し続けるために、相手のボールをいち早く奪う」、「ボールが無ければ、ゴールは生まれない。だからこそ相手にボールを持たせず、自分たちがボールを持ち続ける」という考えです。より攻撃的なチームを作るために、こういった意識を持つことが必要不可欠なのです。

 

攻撃的なチームで勝利することが、何よりも「フットボールを楽しむ」ことにつながると、私は信じています。

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