巨人の前半戦を振り返るー捕手・野手編

  巨人のチーム打率は.250で2位(昨年はシーズン全体で.243で4位)である。出塁率も.316で2位(昨年は.298で4位) で長打率は.357で2位(昨年は.354で阪神と並んで1位)、OPS(出塁率+長打率)は.673で2位(昨年は.652で3位)である。1試合当たりの本塁打は0.63で2位(昨年は0.75で1位)。これらの結果としての得点は1試合あたり3.49で2位(去年は3.27で3位)。ちなみに、チーム打率・出塁率・長打率・OPS・本塁打・得点で1位なのはすべてヤクルトである。昨年に比べて、長打率と本塁打を除いてすべて順位を上げている。また、数値をみればわかるように、本塁打を除いてすべて昨年より成績が向上している。このように、打撃が向上し(前回の日記で示したように)投手力も向上したので、チームの成績も上がったというわかりやすい結果になっている。巨人ほどではないが、昨年に比べて得点力が向上し失点が減ったのは広島でそれが今年の広島の躍進を数値でも裏付けている。逆に、ヤクルトは得点力が向上したものの、それ以上に失点が増えて成績が伸び悩んでいるし、阪神は、セリーグの球団で唯一、(上述の)すべての打撃成績が悪化したので、チーム防御率は横ばいながら下位に低迷している。当たり前のことだが、長いシーズンを戦う上では、投打のバランスが大切ということを改めて示している。

 さて、長打率の数値が横ばいなのに(昨年とは.003しか変わっていないのに)、得点との相関が高いと言われるOPSを押し上げているのは出塁率の向上(.018向上)である。この.018の内、打率の寄与は.007だから向上分の4割にすぎない。残りの6割は安打ではなく四死球ということになる。四死球の中でも、敬遠四球と死球を除いた四球(つまり打者の選球によって勝ち取った四球)は、巨人の場合、1試合あたり2.88(4位)だが中日の3.05(1位)やヤクルトの2.95(2位)と0.1~0.2程度の差しかない。昨年は2.24(最下位)で、中日の2.94(2位)ヤクルトの2.99(1位)とは0.7以上の差があった。実は、昨年、1試合平均2.9以上の四球を選んでいたのは、優勝した中日と2位ヤクルトのみであり、他の4チームはすべて2.4以下であった。チーム打撃成績で、上位2チームと下位4チームとで最も差があったのが四球数で、「飛ばない統一球で勝つためには四球を選ぶこと」が明瞭となったのである。各チームのスコアラーも当然のことながらそれに気付いたようで、昨年の下位4チームは、いずれも今年になって四球数を改善させているが、最も改善させたのが巨人である。DIMEさんが以前から指摘しているが、巨人は四球に対する意識が低く昨年も上述のように最下位であった。調子の悪いときの亀井・藤村・松本哲に代表されるように、「積極的に打ちに行け」=「何でもかんでも打ちに行け」と勘違いしている打者が多く、また、監督やコーチもそのように指導してきたためと考えられる。昨年、中日・ヤクルトに敗れた事でようやく四球の大切さを認識したのであろう。

 他方、上記の数値とファンとしての感覚のズレを感じる人も多いだろう。今年は効果的な本塁打が出て、それで勝っているのだというイメージがあるからである。私自身そうだったし、当然のことながら、今年の本塁打の数(1試合あたりの数)は、昨年のそれより多いと思っていた。しかしながら、実際は、去年の数より下回っている。この感覚の違いは、3-4月の状況と5月以降の状況の差によると思われる。今年の、打率・本塁打・打点・防御率・(打点-防御率)の月ごとの推移は以下の通りである。

          試合 打率  本塁打 本/試合 打点 点/試合 防御率 打点-防御率
3・4月    24    231    8        0.33      60     2.5      2.19        0.3
5月        23    251    18      0.78      74     3.2      1.62        1.6
6月        20    273    17      0.85      78     3.9      2.98        0.9
7月        15    245    9        0.60      57     3.8      2.15        1.7

通算       82    250   52       0.63     269     3.3     2.21         1.1

 3・4月は、打率も低く本塁打も少なく結果として打点も少なかった。ここには載せていないが、失策数も他の月に比べて二倍以上多い20個であり、まさに「打てず守れず」「頑張っているのは投手だけ(防御率は2.19で悪くない)」という状況であった。
 5月から(正確には4月末から)その状況は一変する。打率も本塁打も増え、得点も増えた。特に、本塁打は、3・4月の1試合あたり0.3本から、5月以降は2~3倍の数値になっている。それで挙げた得点を、投手陣が守って勝つ試合が増えたので、「本塁打で勝った」イメージが強くなり、「今年は本塁打が多い」という感覚になったのだと思う。実は、3・4月を除いた5月以降の本塁打率(1試合あたり0.76本)でも、ようやく昨年と同程度(0.75本)であり、昨年に比べて本塁打が特に増えている訳ではない。ファンは、勝った試合の本塁打は覚えているが、負けた試合の本塁打は忘れてしまうということだろう。

 4月末からチーム打撃が向上した事については、1)全般に春先は投手優位であること、2)橋上戦略コーチの評価が定まるのに時間がかかったこと、3)画一的な打撃フォームの押しつけをやめたこと(坂本は、いつからか「すり足打法」をやめている)、4)キャンプで教えられた統一球対策を実戦に適用できるまでに時間がかかったこと、5)適切な打順配置「長野1番、坂本3番、村田4番、阿部5番」に落ち着くのに時間がかかった事といった複数の理由が考えられるが真相は不明である。エドガーの加入が大きかった事は事実だが、彼が活躍し出すのは6月以降なので、4月末以降のチーム打撃向上の説明にはならない。監督・コーチの指導方法に関する事柄が含まれているので、球団から正しい情報が流されることもないだろう。個人的には3の理由であってほしいと思っている。

 整理すると去年と今年では、打率も改善したがそれ以上に四球数の改善が大きく、それが得点率の向上に最も貢献していると考えられること(セイバーメトリクスの教える通りということか)。それについては、明らかにチームの意思統一が図られているといいうこと。今年の5月以降では、打率・本塁打率ともに向上し、それがチームの快進撃の一因となったが、その理由は不明ということである。

おまけその1
 昨年の3位以下のチームはいずれも四球数が改善しているが、改善率が最も低く、1試合当たりの四球数が2.4以下にとどまっている唯一のチームがDeNAである(他はすべて2.7以上)。これは、横浜→DeNA、尾花監督→中畑監督ということで、昨年と状況が大きく変わってしまったために、昨年の成績に関する反省が十分伝えられていないせいかもしれない。

おまけその2
 阪神も巨人に次ぐ四球数の改善(2011年:2.33→2012年:2.90で、0.57改善)を行っているが、打率や長打率が極端に下がった(2011年:打率.255、長打率.354で共に1位→2012年:打率.236長打率.311で共に最下位)。結果的に出塁率は低下し(2011年:.307で2位→2012年:.305で4位)、OPSは大きく下がってしまった(2011年:.661で1位→2012年:.613で最下位)。四球を選ぼうという意識が強すぎると、バットを強く振れなくなるのかもしれない。四球を選べばよいというものでもなさそうである。評論家:山本浩二さんが、「まずバットを強く振らなくてはならない。」とよく言うけれど、こんな数値をみるとそのシンプルな解説に説得力を感じてしまう。

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