アイザックアシモフさんについて

 アシモフは,高名なSF作家・推理小説家・科学評論家・科学者(化学の准教授)です.私は,一応科学者の端くれですので,彼の基本的にポジティブな科学観には,ずいぶん励まされました.

  お勧めは,SF短編集では「われはロボット」と「ロボットの時代」,SF長編では「ファウンデーション」シリーズ(銀河帝国興亡史),推理(+SF)長編 では,「鋼鉄都市」,推理短編では「黒後家蜘蛛の会」の第3巻くらいまでです.科学評論(エッセイ)では,「存在しなかった惑星」での「空飛ぶ円盤(宇宙 人の地球への来訪)の明確かつ論理的否定」が興味深かったです.

  「われはロボット」と「ロボットの時代」は,いろいろなところに発表したロボットをテーマとした短編を集めたものですが,アシモフ自身が気に入っていると 認めているキャラクター:ロボット心理学者(!)スーザン・カルヴィンの回顧の形をとることで,生き生きとした連作短編の形になっています(逆に言えば, アシモフの執筆指針が一定であることの証拠でもありますが・・)SFといえば,何でもありのように思いますが,アシモフが名編集者キャンベルの助けを得て 考案した「ロボット3原則:1) 人に危害を与えない,2) 1)に反しない限り人間に服従,3) 1)と2)に反しない限り自分を守るべき」という縛り が彼のロボット物にはあり,1-3の原則で明瞭に区分けできない出来事に直面したロボットのジレンマ(!)やそれによって生じるトラブルや謎を「ロボット の側にたって」解決するのがスーザンということになります.

 「ファウンデーション」では, 主人公の一人であるハリ・セルダンが作り上げたとされる(架空の学問)「心理歴史学:個々の人間の活動は予測できないが,集団なら予測可能」が重要な鍵に なります.架空の学問ですが,理学屋さんでも十分納得できるリアリティーのある学問となっています.1950年代前半に3巻でいったん終わったものが, 1980年代(!)以降に4巻出ていますが,なんといっても第1巻がおもしろい.なお都合6巻目の「ファウンデーションへの序曲」は,心理歴史学をセルダ ンが考案していく過程を描いたもので,率直に言ってSFとしては退屈ですが,ひとつの学問体系を編み出す苦労がかなりリアルに描かれています.将来の研究 者を目指す人は読むべきですね.

  アシモフで何か1冊となると「鋼鉄都市」をお勧めします.1級のSFかつ1級の推理小説で,加えて「罪は許すべきか,裁くべきか」という深遠なテーマも含 む物語です.地球と人類の未来史・ロボット3原則,後のシリーズでも主人公となるベイリ(人間)とダニール(ロボット)が出てくるなど,アシモフの「おい しいところ」が一杯詰まっています.

  「黒後家蜘蛛の会」は残酷な場面がほとんど出てこない推理短編集ですね.SFの要素はありません.毎回,1つの推理課題が提出され,それを「黒後家蜘蛛の 会」のメンバーが推理合戦をして解こうとします.ところが,最後にいつも解決するのは,給仕のヘンリーという落ちです.楽しく気楽に読めます.

 

  さて,最後におまけです.上記には紹介しませんでしたが,短編集:「サリーはわが恋人」に含まれている「正義の名のもとに」には,有能な指導者でありなが らあえて汚名をきる主人公がでてきます.彼の自己犠牲は表面上はまったく報われず,私は勝手に「アシモフ(唯一)の山本周五郎的作品」と位置づけています が,その作品について,アシモフ自身が,自分の友人とともに「この作品の考え方は嫌いだ」と述べています.「(表面上は)報いのない自己犠牲」といえば, 本来,キリスト教の特徴であるはずですが,このアシモフの感想も含めて,私が見聞きするアメリカ人の最も嫌いなものであり,キリスト教の国であるはずのア メリカの大いなる矛盾だと思います.

 

  

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