シェフチェンコ44歳がEURO2020最年少監督…“引退後の異常な歩み”とは ウクライナの若武者とダークホース候補に

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    2021年06月13日 01:47 visibility308

コロナ禍で1年延期となったEURO2020が6月11日に開幕する。発売中のNumber1028号『レジェンドが語るEUROベストマッチ』では、別冊付録として「EURO2020出場24カ国選手名鑑」が収録されている。その中から、ダークホースとして上位進出を狙うレジェンド監督率いるウクライナをピックアップ!

 

「決勝進出が決まった後で電話をもらったよ。そういえば、どちらを応援するのか聞くのを忘れていたな……」

 

 そう話したのは、先日、ヨーロッパの最強クラブを決めるチャンピオンズリーグ決勝に挑んだマンチェスター・シティのオレクサンドル・ジンチェンコだ。

 

 ジンチェンコが気にした電話の主は、そのファイナルをスタジアムで観戦していた。

 

 ただしシティ側の席ではなく、対戦相手であるチェルシー側で。現役時代に籍を置いた古巣が9シーズンぶりにビッグイヤーを掲げる様子を、オーナーであるロマン・アブラモビッチの近くで見つめていた。

 

 その人物の名は、アンドリィ・シェフチェンコ。

 

 2シーズン在籍したチェルシーでは輝けなかったものの、ジンチェンコが逃したビッグイヤーも、バロンドールも手にしたレジェンドである。

 

 ウクライナの英雄は、同胞、あるいは先輩としてジンチェンコに連絡したわけではない。2人の間柄は監督と選手。今月からはEUROの舞台でタッグを組むことになる。

 

最年少44歳の指揮官シェフチェンコの異常な歩み

 6月3日に発売された『ナンバー』の別冊付録EURO2020選手名鑑をめくると、選手だけでなく監督も多士済々だ。そんな海千山千の顔ぶれのなかでもシェフチェンコはとりわけ異彩を放つ。

 

 出場する24チームの監督で、40代はわずか6人しかいない。そのなかで最年少なのが44歳のシェフチェンコだ。

 

 シェフチェンコを異色たらしめているのは年齢だけではない。代表チームを率いる以前の監督キャリアが「ゼロ」なのだ。数多の経験を重ねたすえの「ゴール」とも言える代表チームの監督として、この歩みは異例を通り越して異常である。

 

 5年前、ウクライナ代表がEURO 2016でグループステージ敗退に終わると、ミハイロ・フォメンコ監督は解任された。その後を受けたのが当時アシスタントコーチを務めていたシェフチェンコだ。

 

 それは、同国サッカー協会内の権力争いに巻き込まれたとも言われる船出だった。

 

ロシアW杯予選ではクロアチアと競った

 スタートでは躓いた。まず、タスクとして課された2018年ロシアワールドカップ出場は逃している。アイスランドが首位通過した予選グループで、難敵トルコを抑えたものの、勝ち点3差でクロアチアに2位を譲った。

 

 ただし、プレーオフに回って出場権をつかんだクロアチアの躍進を忘れてはいけない。その強敵を相手にしたW杯予選での経験は、ウクライナの「次」へとつながった。

 

 結果は雄弁だ。ロシアW杯後のネーションズリーグでは、見事Aリーグ昇格を果たした。翌2019年のEURO予選では、ネーションズリーグ初代王者のポルトガルを抑え無敗で首位通過を決めた。

 

 昨年はネーションズリーグでBリーグ降格を喫したが、チーム内に新型コロナウイルス感染者が出たことで不戦敗となったスイス戦が通常通り行われていれば、残留を果たした可能性は十分にある。また、初挑戦の同Aリーグで強敵スペインに唯一の土をつけたのがウクライナだったことも忘れてはいけない。

 

 シェフチェンコは、監督として何をしたのか。おそらく、引退後に経験した失敗を糧としたのだろう。

 

引退の数カ月後には国政選挙に乗り出した

 ウクライナの英雄は引退後の歩みも常軌を逸している。引退の数カ月後には母国の国政選挙に乗り出した。あえなく落選すると、次はプロゴルファー転身を試みる。残念ながら、こちらもサッカーほどの才能はなかったようだ。

 

 だが、失敗から学んだのだろう。選挙では、名参謀が欠かせない。サッカーも1人では戦えない。経験が不足しているのなら、なおさら助けが必要になる。

 

 代表監督就任にあたり、シェフチェンコは数人のコーチを招いた。

 

ミラン黄金期の“あの男”が右腕に

 中でも大きかったのが、マウロ・タソッティの存在だ。ミラン黄金期の最終ラインを支えた名手で、引退後もミランひと筋で指導歴を積んできた男である。

 

 シェフチェンコは自身よりも20歳近く年上の指導者に頭を下げて、入閣を承諾させた。タソッティの分析力と守備組織の構築は、ウクライナの躍進を大いに支えている。

 

 では、肝心の代表監督は何をしているのか。それは適切な人材のピックアップと、人心掌握である。

 

 ベースとなるのは国内リーグを牽引する2強だ。今季のウクライナ・プレミアリーグを制したディナモ・キエフ勢は、大会に臨む26人のうち最多の10枠を占める。ライバルのシャフタールからはやや少ない7人だが、アンドリー・ピアトフを主将に就けている。

 

 つまり、所属クラブで培われている連係を代表チームに流用しつつ、CLファイナリストのジンチェンコ、イタリアで価値を高め続けるルスラン・マリノフスキーといった極上の国外組をちりばめているのだ。

 

優秀な若手をまとめるカリスマ性

 優秀な若手も見逃せない。

 

 左サイドでダイナミックな走りを見せるビタリィ・ミコレンコは昨夏、イングランドのクラブが注目と盛んに報じられた。18歳のイルリャ・ザバルニイは経験も重要となるCBのポジションで、クラブのみならず代表でもすでにレギュラー格となり、すでにチェルシー行きの噂が流れている。

 

 EUROは、移籍市場直前の大事な見本市でもある。東欧のウクライナの選手にとっては、さらに大きな意味を持つことになる。

 

 そうしたタレントを、シェフチェンコのカリスマ性がまとめている。

 

 選手たちにすれば、子どもの頃からの憧れの存在。そのアイドルが、時にはともにボールを蹴る。ある日はPKを6本蹴って5本決めた。FWのアルテム・ドフビクは「試合でも30分、いやもっとプレーできるよ」と青年監督に舌を巻く。

 

今では古巣ミランの監督就任も希望している

 代表監督就任は、政界再挑戦のための「支持率回復」を見込んだ選択とも噂されたが、今となっては将来的に古巣ミランの監督就任希望を口にしている。それは、単なるリップサービスには聞こえない。

 

 いずれにしても間違いないのは、野心的な指揮官に率いられたウクライナ代表の目が、ギラついていることだ。EUROを飛躍への足掛かりとしたい。そう意気込む彼らを今大会のダークホースに挙げる向きが多いのも、大いにうなずける。

 

(「Number Ex」杉山孝 = 文)

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