慌ただしい速球
-
髙橋耕平
2023年07月01日 22:18 visibility131
虚ろなホルンは警告する。
生まれるのに忙しくない男は、
死ぬのに忙しくなるのだと。
―ボブ・ディラン
私が最初に野球に興味をもったのは、小学生の頃だが、それはすべてYくんという野球少年と出会ったことに理由がある。
当時私の家の周りは同級生の児童が少なく、通学路が一緒の子が少なかったのだが、その少ない児童の一人がYくんだった。小学校に入学してから知り合った私たちだがそれがあってすぐに一緒に登校することになる。
Yくんは背も低く、骨と皮のような体格の私に比べ、小学生ながらいかにもたくましい体つきをしており、一年生の時からPL学園に入って巨人に入団するという夢を公言していた。その頃は私は野球のやの字も知らず、むしろサッカーの川口能活に憧れていたくらいで、しかも基本的にスポーツ自体、何やら妙に興奮する人間が多いのがイヤで、限られた選手以外はあまり好きではなかった。そのため彼と野球の話をすることはなかったのだが、中学年になり、彼が少年野球チームに入ると、私もそのチームに誘われるようになった。
野球少年以外も話題にする「イチロー」という選手ですらよく知らない私は正直乗り気ではなかったのだが、一応誘われたし、親に野球ゲームを買ってもらって、それが面白かったらはじめようかな、なんて風に考えていた。
それで、パワプロクンポケットという携帯ゲームを買ってもらって一からルールを覚えたわけだが、
それでハマった。
面白い。「ゲーム」として無茶苦茶よく出来てる。
そう感じた私は実際の野球もはじめようかなと思ったりもしたのだが、
それを母にいうと反対された。
中学受験が控えているから、
怪我をするようなことはするなと言われたのだ。
元々土日を潰して少年野球をやるというのに少し躊躇いのあった私は、そこからそう強弁もせずに結局少年野球には入らなかったのだが、そこから近所のノミ市で知らないおばちゃんに十円で売ってもらったミズノの中古のグローブを携え、近くの公園に壁当てをしに行くようになった。また父にキャッチボールに付き合ってもらうこともあった。
余談だが、私のコウヘイという名は、昔の甲子園のスター島本講平選手から取っており、それを付けたのは母なのだが、その母に野球をやることを反対されるとは人生の皮肉だ。
実は母の中学時代の同級生が、
地元の超強豪校の野球部に入り、
一年生から活躍して地元の新聞に載るということがあったそうなのだが、その同級生はその新聞が出回った翌日、キャッチボール中に横から先輩に頭にボールを当てられ、深刻な障害を負ってしまったらしい。
それもあって母は野球部や体育会系にあまりよい印象を持っていなかった。
まあ、それは置いておくとして、
壁当てをはじめた私だが、
リトルリーグ、シニアリーグは硬球という情報は入っていたので、
同級生との差が広がっていくのが嫌だった私は硬球を使って公園の金網のフェンスにボールを投げつけていた。
しかし、手が人一倍小さい私には、硬球が握れるはずもなく、
コントロールが出来ない。
当時野茂英雄選手や佐々木主浩選手の全盛期でフォークを投げたいとも思ったのだが、
ストレートもまともに投げられない私にはそれは到底無理な話だった。
話は変わるが本格派ピッチャーはストレートだけで勝負するという風潮がまだ若干あった当時、変化球を投げるにしても、一つか二つだけというのが「粋」だった。
私はその一つを選ぶにしても、
遅い球はカッコよくない、
それにやはり決め球は落ちる球がいいんだ、と考えた私は、
フォークを諦めたあとは、
縦のスライダーに挑戦することにした。
それは当時大塚晶則選手が近鉄で活躍しており、その影響を受けていたのがある。
それからプロの変化球の握りがズラッと載っている本を見ながら、
大塚選手や岩隈久志選手の縦スラの握りを試したりしていたのだが、慣れてくると段々上手くボールを握れるようになり、
スライダーも何となく曲がるようになった。
これでオレも本格派を目指せる。そう思った矢先だったが、
結局難病にかかってしまい、
中学でも野球部に入ることが出来ず、甲子園を目指すことも叶わなかった。
それから病名が判明し(それまでが長かった)、手術を受けるなどし、現在まで徐々に回復していっているのだが、
その中で私は野球がまたやりたくなり、友人とキャッチボールや壁当てを再開することとした。
投げる球はやはり、ストレートと縦スライダー。
ボールは軟式だが、滑らないで投げられる軟式のありがたさよ、手もあの頃よりは大きくなって、
球が抜けることもほとんど無くなった。
そこで私はスライダーをどこまで磨けるかに挑戦してみることにした。
出来るだけ曲がりが遅く、キュッと曲がるスライダーが投げたい。
ただ、まあ、子供の頃沢山練習したせいか、スライダーのコツは何となく分かっていた。
リリースする直前までストレートを投げる意識で投げればいい。
頭の中で
「ストレート、ストレート、ストレート…、(ここだ!)スライダー!」
と思いながら投げる。
最初からスライダーの意識で投げはじめると、手首を捻ることがリリース前に意識にハッキリと上ってしまうため腕を振り切る前に手首を捻ってしまい、腕の振りが鈍る。そうするとボールに加わる回転は弱まるし、また投球までのプロセスを省いてしまうことによって、単純にリリースポイントからプレートまでの距離が遠ざかり、体感速度も遅くなるし、曲がりはじめは早くなり、そして腕も横振りになりやすくなることで、
最初からなんとなく曲がってるので、、球をストレートに擬装することが出来にくく、スライダーなのが打者からバレバレになってしまう。
なので、握りもなるべくストレートに近づけたい。
逆U、つまり縫い目の∩の部分の斜め右上に指を掛け捻っていたのを、どんどん頂点よりにズラしていく、ストレートからスライダーに意識を切り替えるのも本当にリリースのギリギリまで遅らせる。
それをやっていったら妙なことが起こった。
―失敗した。
最後手首を捻ることが出来ず、
中指だけ下に押し込むような、擦りつけるような形になってしまった…。
球は真っ直ぐ壁当て用の壁まで飛んでいく。
スピードはストレートと変わらないが、回転は左右にふらつくような変な回転だ。
(これでも曲がるんだろうか…)
いや、全然曲がる雰囲気はない。
しかしその奇妙な回転の球が壁に当たろうとした、その瞬間である。
球は電池が切れたように突然ポーンと真下に落下した。
私は狐に摘ままれたような気持ちになったが、
あれは凄い球だった。高めの位置から一瞬でワンバウンドして落ちた。フォークや、縦スラともまた違う落ち方だったのだ。
今のがまた投げられれば凄いんじゃないか?
そう思って投げてみるが、
握りを調整しても、意識を変えてみてもあの球のようにいかない。
その内疲れてしまったので、
とりあえずその日は家に帰ることとした。
あの球は何だったんだろう。
その日から、そのことばかりを考えて日常を過ごす日々がはじまったのだが、
何せまだ難病に冒された身体である、気持ちよく投げられる日は多くない。
そして、その後首と腰の手術をしてからというものの、(特に)投げる動作に問題が出てしまい、
相当なリハビリを積まなければボールを投げられないという事態になってしまった。
なので悶々としたまま、
頭で、短期記憶が壊滅的になり、
学習障害が出ているというハンデを背負いながら、この回らない頭で、その球について分析をした。
するとあることに気がついた。
頂点に近いところを握って、リリース時の指が離れはじめ、いやもう離れようとしているところで、中指のみを下に押し込むとすると、ある一ヶ所だけ、ボールがひっくり返るところがある。
つまり、トップスピン方向にクルッと旋回するポイントがあるのである。
その旋回する力を与えたときの回転の仕方というのは、あの時に見た奇妙なスライダーの投げ損ないの回転にそっくりだった。
今はボールに上手く慣性力が付与出来ない肩の状態なので、
挑戦することも出来ないのだが、
現在の私は、仮説としてあのボールはその旋回によって生まれたものだと考えている。
そうすると新種だ。
新変化球のはずだ。
私はオタク気質なので、
昔から石の名前とか、元素の名前だとか、何か発見とか発明とかして名前をつけるのが夢だった。
名前をつけたい。
自分の考えた変化球に自分で名前をつけるなど、この上なくダサい行為だが、ダサくなるより、名前をつけたい気持ちの方が大きかった。(まあ実際この球が有名になることがあるとして、この名前が使われるかどうかは別問題だが…。)
それになるべくつけるならオーセンティックなアメリカ式の命名法で名付けたい。
―速球に近い球速帯だったから、
ファストボールと呼んだ方がいいな。
Switching Fastball,
Flipping Fastball,
うーん…、どうだろう。
旋回を和英辞典で引いてみると何が出てくるのかな?
ふーん、spin,whirl...
そう言えばつむじ風はwhirlwindたったな…
―そうしてwhirlを辞書で引いてみると、
https://eow.alc.co.jp/search?q=whirl
https://www.etymonline.com/jp/word/whirl
旋回、目まぐるしい
…ピッタリじゃないか。
リリース直前に旋回するし、
その手の動きは目まぐるしい。
Whirling Fastball、
旋回する速球、または慌ただしい速球。
ダブルミーニングだ。
まあ、単語のニュアンスというのは現地で生活したことのない私には分からないことなので、
ネイティブスピーカーにとってその解釈が妥当かどうかはよく分からないのだが、
結構気に入っている名前だ。
Whirling Fastball、
あるいは略してWhirler。
ワーラー、ホワーラー、
日本語にするとあまり語呂はよくない。
ただ英語だとかなりイケてる響きなんじゃないか?
三振を取ったときWhirler!とアナウンサーが叫べば盛り上がる気がする。なんて。
さて、そんな妄想も呼ぶ新変化球騒動だったが(一人しか騒いでいない)、実際それがプロなどの高いレベルの世界で通用するかはいささか疑問がある。
理由はやはりその回転だ。
上で出した野茂英雄選手は、
メジャーリーグだとフォークも回転を見てから打てるバッターが多いため、回転を少なくする球であるフォークに、わざと少し回転をかけるように投げ、バッターに見破られないようにしていたと言っていた。
それならば、上で説明したようなWhirlerのあからさまに奇妙な回転はすぐに見破られてしまうだろう。
折角見つけた球がもしバッター相手に通用しなかったら悲しいのだが、
今のところ、見通しは微妙なのであった。
ちなみに、私は野球部には入らなかったものの、まだ多少病気が悪くなかったころに、バレーボール部に入部しており、
そこで半幽霊部員をやっていた。
そこで編み出したサーブがあるので、ついでに書いておく。
まず正面に立って打つ方と逆の手でボールを高く上げる。そのときの回転は、無回転か、トップスピン(どうせ打ったら無回転になる)。
足をほぼ動かさずにテニスのサーブのように腕を引き、サーブを打つために上から腕を振る。手の頂点がボールに当たるようにして、さらにボールに体重を乗せるような打ち方をすると、ボールはまず速いスピードで高いところを真っ直ぐ進み、相手コートの中で斜めにストンと落ちる。
つまり落ちる変化球サーブだ。
そんなサーブ今までもあるだろうと思っていたが、軽くネットや初心者向けのバレーの教則本を見る限りでは、
速くて落ちるサーブというのは無いみたいだった。(実際は詳しくないのでわからない。)
原理でいうと、手の平とボールを「正面」衝突させる腕の動きと手の平の形を作ることで、
無回転で真っ直ぐ進むボールがなり、フォークボールとほぼ同じ原理で落ちるようになったということだろうと思う。
バレーボールの動きにはその正面衝突の動きが少ないため、
あまりメジャーなサーブの打ち方ではなかったんだろう。
ちなみにそのサーブを考えた理由は、バレー部としては致命的なことに、当時私は今以上に足に欠陥を抱えており、ジャンプが出来なかった。
アタックもブロックも出来ないのだが、サーブも、高いレベルでは必須となるジャンプサーブが打てなかった。
なので、ジャンプ力を使わない、足を極力使わないもので、強力なサーブを探す必要があったのだ。
そこで目をつけたのが、テニスのサーブ。ジャンプしないし。
あとドカベンのわびすけの両投げのときのグーッと足を踏ん張るフォームにも影響を受けた。
何となく体重が乗りそうな感じがしたから。
まあ、これも怪我の功名といえるのかもしれないが、
実戦で役に立つことはなかった。
ただでさえぎこちない動きなのに、本番でボールの落ちるタイミングと腕の頂点を合わせるなどという高度な芸当は出来なかったのである。
お後がよろしいようで?
さてそういえばそのサーブの名前はどうしよう。すでにあるサーブだったら勇み足だけど。
岩石落としとか、どうだろう。
昔はじめてWWEでenzuigiri(延髄斬り)と聞いたときは感動したし。
外国人がganseki-otoshiとか言ったら面白いような気がする。いやまず日本人に受け入れられないな…。
っておっと、こんなに長い文章を書いてしまったのか!
そろそろ終わりにします。
もうほぼネタ切れです。
あとはこれまでに書いた文章の校正や画像の追加が出来ればいいと思っていますが、
まあ、気が向いたらという感じです。
…というアレな感じにもかかわらず、読んで下さった皆様には本当に感謝です!
また会う日まで、ごきげんよう!
- 事務局に通報しました。
chat コメント 件