金本だけが信じ続けたホームランバッターへの道

  • 李紗
    2012年10月01日 11:09 visibility170

――広島入団後の数年は結果が出なかったが?

 プロの中では体も大きくないし、技術もないので「逆方向に打て!」とか「合わせていけ!」と言われていたと思います。でも、金本は「ホームランを打ちたい」という明確な目標がありました。そのギャップに苦しんでいたんだと思います。

 確か2年目のシーズンに話をした時に「今年ダメなら辞めますよ」と言っていました。僕は正直、金本がプロに来るとも思っていなかったですし、ホームランバッターは西武でキヨ(清原和博)、秋山(幸二)さん、デストラーデを見ていましたから、金本が長距離打者になるのは厳しいんじゃないかと思っていました。おそらく、周りの方もそう思っていたはずです。でも、金本だけは自分の道を信じ続けました。この信念が彼をホームランバッターに成長させたんだと思います。

 そういう意味ではプロ向きな性格だったと言えると思います。頑固で、自分の筋を通して、向上心を持ち続ける。自分の「ホームランバッターになりたい」という思いを認めさせるために打って結果を残す、打つために体を鍛える、という流れがここで確立されました。

――ストイックにトレーニングを続けることができるのは?

 ストイックに鍛える時期はありましたけど、基本的にはストレスと感じていなかったんだと思います。鍛えて結果が出るのが好きで、追い込むのが好き。それが自分の力になると信じているから。
 実際にはお酒を飲む日もありますし、僕らと笑い話をして盛り上がることもあります。そうした息抜きがうまかったですね。バランスに優れていたと思います。

■冗談を交えつつも先輩を立ててくれる「かねもっちゃん」――大塚さんにとって金本選手はどういう存在ですか?

 先輩であることを自慢させてもらったり、後輩ですけどアドバイスをもらって「やっぱアニキやな~」と思わされたり……実際には4兄弟の末っ子なんですけど。
 僕にとってはいつまでもかわいい後輩の「かねもっちゃん」ですね。この年齢になると1、2歳の年の差は気にならなくなるんですが、冗談を交えつつもしっかり先輩を立ててくれる優しい男です。

 大学時代、寮の部屋が同じで、僕が「部屋長」だったので、金本は僕のことを「社長」と呼んできたんですよ。当時は牛丼をおごるぐらいしかできませんでしたが、今もこうして仲良くやれているのはうれしいですね。

 解説者になってからも僕らの番組に出てもらったり、インタビューに答えてもらったりして……。もちろん、ほかの選手もみんな親切にしてくれたんですが、特に金本とキヨには助けられました。

 あと、取材に行くとほかのチームの若い選手に金本のことを本当によく聞かれました。「金本さんはどういうトレーニングをしているんですか?」と。ナカジ(中島裕之/埼玉西武)とかにもそういう質問をされて、僕が間に入って金本に答えてもらったりしました。


■阪神を戦う集団に変えた男の引退を温かく見守ってほしい
2006年4月、904試合連続フルイニング出場を果たし、記念のプレートを掲げる阪神・金本知憲=大阪ドーム

――引退を発表してから連絡はとられましたか?

 会見などがあるので忙しいと思って「お疲れさま」とメールをしました。そうしたら「事後報告になってすいません……でも、やっぱり謝りません」と返信がきました。そんな感じのかわいい後輩のままですね。

――ここ数年は厳しかったと会見で話していましたが?

 右肩のケガもあって投げられず、フルパワーでプレーできませんでしたから、厳しかったと思います。痛烈なヤジや、傷つけられるような言葉が金本に投げかけられる状況もありました。
 でも、阪神ファンの方々に覚えていてもらいたいのは、選手の意識部分において、戦う集団に変えていったのは金本だということです。もちろん、星野(仙一)さんや島野(育夫)さんのお力もありましたが、一緒にプレーする中で選手を変えていったのは金本だと思います。
 優勝にも導いたその男が、引退を決断したわけですから温かく見守ってほしいです。

 野球界にはいろいろな記録がありますけど、絶対に破られない記録はこの連続フルイニング出場だと思います。10年以上、全ての試合に休むことなく出続けるというのは体力的にも精神的にもタフでなければできません。野球界では特に尊敬される記録です。僕は同じ時代に生きて、この記録を見ることができて幸せだったと思います。

――まだシーズンは残っていますが、将来的に期待することは?

 まずはゆっくり体を休めてほしいです。ず~っと体のことを気にかけて、鍛え続けてきましたから、そこから少し離れて休んでもらいたいです。
 そして、将来的にはやはり監督をする姿が見たいと思います。あれだけの実績も残してきましたし、どんなチームをつくるか興味もありますから、野球界のために指導者になってもらいたい

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