
球児からの手紙
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ペル
2008年08月27日 09:00 visibility3007
エースナンバーを背負ってマウンドに立てるのはたった一人。
チーム内での熾烈な戦いがある一方、
強い絆も生まれる。
光星学院 小林君から下沖君へのメッセージ
7/4 マイタウン青森より
下沖へ
もうすぐ夏の大会が始まるけど調子はどうですか。オレは、まあまあです。
今年はぜったいに甲子園に行こう。エースとしてがんばってな。オレもこの位置で全力でがんばるから。
初めて会った時もやけど、すごいピッチャーが同じチームにいて、ライバルでうれしかった。下沖にまけへんように練習するから、下沖も、がんばってな。
その2人を、光星学院の金沢成奉監督(41)は「抜群のライバル関係」と呼ぶ。
「まじめで優しい小林と、やんちゃ坊主の下沖。対照的な2人だけど、どちらも相手の方が上、と思っている雰囲気があります」
光星学院の2年生投手小林寛くんと、下沖勇樹くん。ともに右投げで球速は140キロ超。小林くんは大阪府守口市で生まれ育った。その小林くんが光星に来たのは、下沖くんが光星に行くと聞いたからだ。
06年7月。中学3年だった小林くんは、地元の硬式野球チーム「守口シニア」で背番号1をつけていた。もの心ついたころから、将来の夢はプロ野球選手。「大観衆に見られているのに、淡々と投げたり、熱くなったり」するプロの姿にあこがれた。
中3の夏、大阪桐蔭や奈良の智弁学園など10校ほどから勧誘がきた。光星は、そのうちの1校だった。小林くんはその中で光星を選んだ。
彼の心をとらえたのは「日本一の投手」、福岡中(岩手県二戸市)のエースだった下沖くんだった。この年、福岡中は全国中学校軟式野球大会で優勝している。下沖くんの球速は、最速138キロを記録していた。
下沖くんが進学するのが光星だった。小林くんは「日本一になった投手って、どんなんやろ。見てみたい」。そう強く思った。
八戸に行きたい、という息子の希望を聞いた父親の進さん(49)は振り返る。「15歳が決めたんやから、寂しいといって止めたらあかん」。進さんは、そう思って息子の進学を後押しした。
小林くんは、地元では常にエース。「寛は天狗(てんぐ)になってる」とも感じていた進さんは「天狗の鼻」がひっこむことも期待した。
だが、小林くんは「負けられへん。エースは俺(おれ)が取ったる」。そう心に決めて、大阪を後にしたのだ。
入学前、初めて下沖くんの投球を見た。球が速い。光星には1学年上にも、本間康司くんや後村健太くんら速球投手がいた。午前6時半の点呼から始まる寮生活。練習は午後8時まで続く。
入学当時、金沢監督の目には下沖くんの方が小林くんをより強く意識しているように見えた。下沖くんは中学まで軟球を使っていたため、硬球は重く感じたという。
中学から硬球を投げていた小林くんらを見て「エース取れるかな」と不安だった。
入学1カ月後の公式戦で下沖くんはベンチ入りした。小林くんは応援席。
小林くんから、父へのメールにこうあった。〈背番号無しのユニホームで応援したのは初めてやった〉
父は返信した。〈応援してくれる人の気持ちがわかったやろ? 背番号がない苦しみが分かってよかったやん〉
昨秋の新人戦。背番号1をつけたのは下沖くんだった。下沖くんも背番号1へのこだわりは強い。「光星の1番は中学の1番とは違う。いちどもらった番号だから、取られたくない」と話す。
今年5月24日、春季県大会の準決勝。青森山田戦で小林くんが先発した。
1回裏。打者8人を出して4点を奪われた。小林くんは1死を取っただけでマウンドを降りた。3点差で負けた。「野球、やめようかな」。ふとそんな考えも浮かんだ。
3位決定戦。下沖くんが9回を投げきって勝った。「悔しかった」と小林くん。もう一度、エースを目指してみようと思った。
2人の気合が入る。2人の球を受ける捕手の東川彰吾くん(3年)は「2人とも、春の青森山田戦あたりから頼りになるようになった」。
6月13日、山形県であった春季東北大会の初戦。福島県の郡山商戦で、背番号11をつけた小林くんが先発した。
6回裏。2死満塁を背負うと、東川くんが言った。「おまえの球は打たれへんから大丈夫や!」
次打者を三振にとり、7回コールドで勝った。小林くんはこう話す。「点を取られる気がしなかった。初めての感覚だった。まだ超えてはいないけど、ずっと追いかけていた下沖の背中が、見えてきた気がする」
下沖へ
将来、プロへ行くと思うけど、オレもプロを目指してるから、そのときは対戦したいな。今年の夏は、光星を全国区にしよな。これからもよろしく。
今年の青森大会は決勝でその夢は途切れた。
しかし、小林君、下沖君はまだ2年生。
全国に2人が登場するチャンスはまだある。
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- 事務局に通報しました。
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