【草野球etc】早暁に祈りを。



しんと静まり返ったオフィスの廊下。
時刻は午前5時。4ヶ月ぶりの泊まり仕事。記憶に間違いが無ければ今年は3回目。


前回は6月14日。鳥取某所の仕事。
その前は3月14日。大阪だとか福岡だとか、全国あちこち様変わりしたとき。
そして今日、10月18日は京都某所の仕事。
予め用意されたバッチファイルを実行すればいいだけなので、規模の大きさは3月も6月も、そして今回も大差はない。強いて言えば、朝5時半の業務開始に伴って確認する項目が若干増減するくらいだ。




もう少し経てば窓の外も明るくなってくるだろう。あとは業務確認が残っているのみ。ホッとすると共に、堪えていた眠気が実感として少しばかり戻ってくる。



何時間かすれば、自分が所属しているチームのメンバーが指定された場所に集まってウォーミングアップを始めるのだろう。それからまたしばらくして、チーム初の試合が始まるはずだ。


来シーズンからの加入を申し込んだ私設リーグの選考試合。非常に大事なイベントでもある。参加すべきかどうか、かなり悩んだ。
この夜のスケジュール調整をうまくやれば、仮眠の時間は2、3時間は取れたはずだ。


だけど、不測の事態が起きたとき、どうだろう?
何事もなければ、所定の午前8時40分に仕事から解放される。しかし、万一、検証に検証を重ねたプログラムが動かなかったら。どこかに不具合が生じたら。途端、対応に追われることとなる。そうなったら仕事場から「野球がありますんで」なんて言って退社することなど、例えその場に居合わせる他のメンバーが許諾したとしても、一社会人の行動としていかがなものだろうか。


そうすると、当日、来るべきはずのメンバーが来なくなる。大事な初戦でメンバーの穴が突如あいた時のチームへの影響は少なからずあるだろう。何事もなく間に合ったとしても、前日からの16時間勤務、ほぼ徹夜な状態でどれだけ自分の力を発揮することが出来るだろうか。足出纏いにならない体力の持続に正直不安を覚えずにはいられなかった。


万一のリスク等を熟考した末、10日前に今日の試合参加を諦めた。
これまで数ヶ月の間、チームのメンバーと重ねた練習の成果を試せる絶好の機会、欠席のメッセージを打ち込むのは、断腸の思いだった。
タイミングの悪さ、やり場の無い苛立ち、言葉にし難いやるせなさを、とにかくどこかにぶつけたい日々が続いた。




 

あと30分。
ここ数ヶ月周到に準備を重ねてきた仕事が、ようやく終わりを告げる。
順調に作業は進んで、想定していた作業時間は半分で済んだ。

わずかな休息のあと、来春に向けたかなり大きな仕事に取り掛からなければならない。

部屋隅の喫煙所に紫煙をくゆらせ、まだ明けぬ町並みと共に窓に映る自分の姿に向かって、「これで良かったんだよな」と言い聞かせながら。


試合が始まるころ、おそらく自分は微睡みの中にいることだろう。
どういう形になるかわからないけれど、チームの初戦が実りあるものになるよう祈りたい。


selletc

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