
オリンピックの舞台裏 知られざる巨額マネー
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紗代光
2012年08月09日 17:31 visibility121
営利団体でないIOCはなぜ収入を極大化しようとするのでしょうか?
小川氏:やはりオリンピックというのは、4年後や8年後だけではなく、継続して開催していかなければならない。そのために財政的な基盤をしっかり確立したいということがあると思います。
そして、もうひとつは、オリンピックは実際に開催してみない限り、どれだけのお金が掛かるかがわからないという事情もあると思います。ユベロスも自著で、天候などでコストはだいぶ変わると書いています。天候の変化で開催に支障を来すようなことがあるとしたら、お金での解決が可能ならば糸目をつけずに投入する。
あとはテロ対策です。さまざまな事態を想定して、できるだけ潤沢な資金を用意しておきたいのではないでしょうか。その他に、96年のアトランタ大会から2000年のシドニー大会の間に、ISLというスポーツマーケティングの代理店で働いていたマーケティングの専門家をIOC内部に引き抜いたことも大きいと思います。
――IOCに拮抗するもうひとつの世界的なスポーツ組織と言えば、国際サッカー連盟FIFAですが、両者の違いとは?
小川氏:一番大きな違いは、FIFA主催の大会ではテレビの中継画面にスポンサーの看板が映ります。世界的な大会でこうしたことを採用したのは、1978年のサッカーW杯アルゼンチン大会が最初です。その他にも、82年のサッカーW杯スペイン大会、欧州選手権、欧州チャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)、カップウイナーズカップをすべてセットにし、これらの試合で広告宣伝を行う権利を販売しました。そのような長期間のパッケージで権利を売り始めたのもFIFAです。現在では、IOCも放映権をセットで販売しています。
しかし、オリンピックの中継画面には、選手が使っている製品以外の企業名は一切映っていない。オリンピック会場での一切の企業宣伝活動は禁止されているのです。選手が使っている製品についても、企業のロゴマークの大きさなどが制限されている。そのことが一番の大きな違いです。
――それでもオリンピックの公式スポンサーになるために約16億円以上の協賛金を出す企業がありますね。
小川氏:オリンピックの価値をどうお金に変えられるのかということをIOC委員はよくわかっていなかった。しかし、マーケティングの専門家から見ると、オリンピックというのは、世界中に知られていて非常にイメージが良い。競技ではドーピングのような不正には厳しい検査基準がありますし、古代からの伝統を引き継いでいる。プロスポーツのビッグイベントとはまた違うイメージの良さがあります。そのイメージそのものが商品価値を生み出すのです。
会場に広告は出せませんが、印刷媒体、テレビコマーシャル、街頭の看板などでオリンピックの公式スポンサーであることを宣伝できる。オリンピック運動を支援しているということだけで、オリンピックに対して世界中の人たちがもっている好感を、企業にも持つようになるのです。
オリンピック以外の世界的なスポーツイベントでは企業名がしっかりと露出し、いかに長く映るかということが商業的な価値を高めている。しかし、オリンピックでは会場内で商業活動ができないことで、他のスポーツイベントとの差別化が図られ、商業価値を生み出すことができるのです。
――会場内の非商業化が、逆に商業的価値を生み出すのですね。現在、ロンドン五輪が開催されていますが、商業的に注目すべき点はありますか?
小川氏:通常、オリンピックの財政に関する報告書が出てくるのは大会の翌年ですので、どういう財政事情であったかというのはそれを見てみないとわかりません。しかし、今回のロンドン五輪では、余程のことがない限り赤字にはならないでしょう。なぜならば、放映権料をバンクーバー五輪とロンドン五輪をセットにして販売しました。その販売価格が、北京五輪を上回っているからです。また、スポンサー収入についても北京に比べ下がるということは考えづらい。そのことを考えると収入は北京を上回る。
支出に関しても、ロンドン五輪の組織委員会が北京五輪を視察した際に、北京ほど豪華な運営や施設をつくらないと断言しています。競技施設は地元の負担にならないようなつくり方をするでしょう。
たとえば、水泳競技が行われる会場は、観客席が翼のようになっており、五輪の時には1万人収容できるようになっている。しかし、五輪後には、その翼を外し、観客席を大幅に減らすことができるつくりとなっています。これはできるだけ無理のない規模の施設として残せるように設計段階から考えてのことです。競技施設の建設に関しては、ロンドン五輪では競技から野球とソフトボールがなくなったので、その分の施設を新設する必要もありません。ですから、収支はよほど不測の事態がない限り赤字にはならないのではないでしょうか。
北京までは、五輪に関わる経費が右肩上がりに増えていたのですが、今回のロンドン五輪でようやく下がると思います。
小川勝(おがわ・まさる)
1959年生まれ。スポーツライター。青山学院大学理工学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。プロ野球、北米4大スポーツ、オリンピック取材などを担当し、編集委員に。2002年に独立。著者に『10秒の壁――「人類最速」をめぐる百年の物語』(集英社)、『イチローは「天才」ではない』(角川oneテーマ21)、『幻の東京カッブス』(毎日新聞社)などがある。
小川氏:やはりオリンピックというのは、4年後や8年後だけではなく、継続して開催していかなければならない。そのために財政的な基盤をしっかり確立したいということがあると思います。
そして、もうひとつは、オリンピックは実際に開催してみない限り、どれだけのお金が掛かるかがわからないという事情もあると思います。ユベロスも自著で、天候などでコストはだいぶ変わると書いています。天候の変化で開催に支障を来すようなことがあるとしたら、お金での解決が可能ならば糸目をつけずに投入する。
あとはテロ対策です。さまざまな事態を想定して、できるだけ潤沢な資金を用意しておきたいのではないでしょうか。その他に、96年のアトランタ大会から2000年のシドニー大会の間に、ISLというスポーツマーケティングの代理店で働いていたマーケティングの専門家をIOC内部に引き抜いたことも大きいと思います。
――IOCに拮抗するもうひとつの世界的なスポーツ組織と言えば、国際サッカー連盟FIFAですが、両者の違いとは?
小川氏:一番大きな違いは、FIFA主催の大会ではテレビの中継画面にスポンサーの看板が映ります。世界的な大会でこうしたことを採用したのは、1978年のサッカーW杯アルゼンチン大会が最初です。その他にも、82年のサッカーW杯スペイン大会、欧州選手権、欧州チャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)、カップウイナーズカップをすべてセットにし、これらの試合で広告宣伝を行う権利を販売しました。そのような長期間のパッケージで権利を売り始めたのもFIFAです。現在では、IOCも放映権をセットで販売しています。
しかし、オリンピックの中継画面には、選手が使っている製品以外の企業名は一切映っていない。オリンピック会場での一切の企業宣伝活動は禁止されているのです。選手が使っている製品についても、企業のロゴマークの大きさなどが制限されている。そのことが一番の大きな違いです。
――それでもオリンピックの公式スポンサーになるために約16億円以上の協賛金を出す企業がありますね。
小川氏:オリンピックの価値をどうお金に変えられるのかということをIOC委員はよくわかっていなかった。しかし、マーケティングの専門家から見ると、オリンピックというのは、世界中に知られていて非常にイメージが良い。競技ではドーピングのような不正には厳しい検査基準がありますし、古代からの伝統を引き継いでいる。プロスポーツのビッグイベントとはまた違うイメージの良さがあります。そのイメージそのものが商品価値を生み出すのです。
会場に広告は出せませんが、印刷媒体、テレビコマーシャル、街頭の看板などでオリンピックの公式スポンサーであることを宣伝できる。オリンピック運動を支援しているということだけで、オリンピックに対して世界中の人たちがもっている好感を、企業にも持つようになるのです。
オリンピック以外の世界的なスポーツイベントでは企業名がしっかりと露出し、いかに長く映るかということが商業的な価値を高めている。しかし、オリンピックでは会場内で商業活動ができないことで、他のスポーツイベントとの差別化が図られ、商業価値を生み出すことができるのです。
――会場内の非商業化が、逆に商業的価値を生み出すのですね。現在、ロンドン五輪が開催されていますが、商業的に注目すべき点はありますか?
小川氏:通常、オリンピックの財政に関する報告書が出てくるのは大会の翌年ですので、どういう財政事情であったかというのはそれを見てみないとわかりません。しかし、今回のロンドン五輪では、余程のことがない限り赤字にはならないでしょう。なぜならば、放映権料をバンクーバー五輪とロンドン五輪をセットにして販売しました。その販売価格が、北京五輪を上回っているからです。また、スポンサー収入についても北京に比べ下がるということは考えづらい。そのことを考えると収入は北京を上回る。
支出に関しても、ロンドン五輪の組織委員会が北京五輪を視察した際に、北京ほど豪華な運営や施設をつくらないと断言しています。競技施設は地元の負担にならないようなつくり方をするでしょう。
たとえば、水泳競技が行われる会場は、観客席が翼のようになっており、五輪の時には1万人収容できるようになっている。しかし、五輪後には、その翼を外し、観客席を大幅に減らすことができるつくりとなっています。これはできるだけ無理のない規模の施設として残せるように設計段階から考えてのことです。競技施設の建設に関しては、ロンドン五輪では競技から野球とソフトボールがなくなったので、その分の施設を新設する必要もありません。ですから、収支はよほど不測の事態がない限り赤字にはならないのではないでしょうか。
北京までは、五輪に関わる経費が右肩上がりに増えていたのですが、今回のロンドン五輪でようやく下がると思います。
小川勝(おがわ・まさる)
1959年生まれ。スポーツライター。青山学院大学理工学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。プロ野球、北米4大スポーツ、オリンピック取材などを担当し、編集委員に。2002年に独立。著者に『10秒の壁――「人類最速」をめぐる百年の物語』(集英社)、『イチローは「天才」ではない』(角川oneテーマ21)、『幻の東京カッブス』(毎日新聞社)などがある。
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