EURO2020の8強が決定!ベルギーvsイタリアなど、好カード目白押しの準々決勝を展望する。 河治良幸 | スポーツジャーナリスト

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    2021年07月01日 23:03 visibility146

欧州の精鋭24か国が参加したEURO2020も決勝トーナメントの1回戦が終わり、ついにベスト8が出そろった。直近のEURO・W杯優勝3か国が揃い、”死の組”と呼ばれたF組のフランス、ドイツ、ポルトガルが全て姿を消す一方で、伝統の堅守に多彩な攻撃を加えたイタリアや地元ウェンブリーで快進撃を続けたイングランドなどが欧州王者を目指す。

 

準々決勝の組み合わせから優勝争いを展望する。

 

スイスvsスペイン

 

フランスをPK戦の末に制して勝ち上がってきたスイスはペトコヴィッチ監督が2014年から継続して率いる。シャチリを筆頭に10年来年、代表に定着している選手が多く、主力では新しくても2107年が代表デビューと、クラブチーム顔負けの成熟したチームワークで堅実さと勢いが噛み合っている。

 

前線から勝負強さのセフェロヴィッチ、仕掛け人のシャチリ、司令塔ジャカ 、機動力に優れるDFアカンジ、守護神ゾマーとセンターラインが安定し、そこにカメルーン生まれの爆発的なFWエンボロ、圧倒的な運動量を誇るボランチのフロイラーなどがチームに活力を与える。

 

スペインはセルヒオ・ラモスが怪我の影響で外れ、主軸のブスケッツが新型コロナウイルスの陽性で出遅れるなど、困難がある中でも、代表では初の大舞台となる選手が多いチームをルイス・エンリケ監督がまとめ、スウェーデン、ポーランドに引き分けるなど苦しみながらも勝ち上がってきた。

 

ラウンド16のクロアチア戦では、なかなか得点できずに大きな批判を浴びていたモラタが延長戦で決勝ゴールを決め、フェラン・トーレスや東京五輪のメンバーにも選ばれたオヤルサバルなど、フレッシュなタレントも活躍する形で、大会の中でさらに成長する可能性を秘める。組織的な安定度ではスペインを上回るスイスに勝利できれば、2大会ぶりのEURO制覇へチームは大きく自信を掴むはず。

 

スペインは帰ってきたブスケッツを軸に70%前後のボール保持率を記録する可能性が高い。スイスも典型的な堅守速攻のチームではないが、ボールを持たないことにあまりストレスを感じず、ジャカの正確なパスからシャチリのドリブル、セフェロヴィッチのポストプレーなどで効率よくボール前まで運べる。

 

ただし、ジャカは累積警告により準々決勝は出場できない。”スイスのポグバ”にも例えられるザカリアあたりが代役か。ボール奪取力の高いエジミウソンも候補だ。何れにしても、ジャカと全く同じ役割を果たせる選手はいないため、短い攻撃時間でセフェロヴィッチに当てていくか、シンプルなサイドアタックなどを押し出すかもしれない。

 

スペインはバックラインの背後をいかに突かせないかが問われるが、クロアチア戦で途中からエリック・ガルシアに代わり奮闘した大型センターバックのパウ・トーレスが、ラポルテの相棒として起用されるか。クロアチア戦で痛恨のミスから立ち直り、ビッグセーブを連発したウナイ・シモンの働きも期待される。

 

注目のマッチアップはアカンジとモラタだが、モラタの場合は相手のディフェンスを制してもゴールネットを揺らせるかというもう1つの壁がある。その意味では”最後の砦”となるゾマーを破れるかどうか。

 

ベルギーvsイタリア

 

FIFAランキング1位でライバルが羨むやレントを揃えるベルギーと、ロシアW杯の予選敗退から立て直しに成功したイタリア。前回王者ポルトガルや大本命の呼び声高かったフランス、強豪ドイツが敗退した今、事実上の決勝カードという見方もあるかもしれない。

 

ただ、現在のチーム状態を見るとイタリアの方が優位にある。

 

ベルギーは良くも悪くも”デ・ブライネのチーム”で、彼がいるといないでは組み立てから崩しまでサッカーの質が大きく変わる。その大黒柱がポルトガル戦の後方タックルにより足を痛めてしまった。メディカルチェックの結果、幸い大事には至らなかった様だが、イタリア戦での完全復帰は難しいことをマルティネス監督も示唆している。

 

さらにレアル・マドリーでフィットネスを崩していたところから、復調気配にあったエデン・アザールも同じくクロアチア戦でハムストリングを痛め、イタリア戦は欠場する可能性が高い。そうした状況で期待されるのは展開力に優れるティーレマンスとチャンスメイカーのトルガン・アザール。大型FWルカクが君臨する前線に良質なパスを供給できるか。

 

また本来のコンビネーションプレーがなかなか期待できない状況で、メルテンスやカラスコのドリブルからのミドルシュートやムニエの右からの高速クロスなど、よりシンプルな形で個人能力を発揮できるかどうかがベルギーの勝機につながるかもしれない。ただし、2シャドーを担う二人がいない状況で、マルティネス監督が配置を変えてくる可能性もある。

 

イタリアは4試合1失点とディフェンスが安定しており、この大会を最後に代表引退を示唆しているディフェンスリーダーのキエッリーニも怪我から練習に戻っていると伝えられる。ベルギー側も守護神クルトワが背後を支え、EUROに出場する唯一のJリーガーとして奮闘するフェルマーレンを擁する3バックは堅実で、イタリアのサイドを起点とした攻撃に対しても、中央で跳ね返すシーンは多くなりそう。

 

試合展開にもよるが、準々決勝の中で最もロースコアの決着になる可能性が高い。その意味では延長戦の可能性も含めて、マルチネス監督とマンチーニ監督の両指揮官がどのタイミングで交代カードを切るかにも注目だ。

 

チェコvsデンマーク

 

優勝を占う意味では”ダークホース”の対戦かもしれないが、共にチームの雰囲気が良く、ここを勝ち上がれば勢い位に乗って頂点まで行ってもおかしくない。

 

チェコは過去の大会に比べて、聞いたら誰でもわかる様なワールドクラスはいない。しかし、ここまで4得点を記録するなどエースとしての存在感を高めているFWシック、2016年に引退したペトル・チェフに代わり、守護神としてオーラが増しているヴァツリークという前後の支柱に加えて、9番を付けた異色のボランチであるホレシュが抜群の安定感を見せている。

 

さらに攻守両面で獅子奮迅に働くソウチェクなど、派手さはないものの全員が勝利のためにハードワークできることは大きな強み。さらにベンチから誰が出てもスタンダードが下がらず、チームのバランスが非常に良い。デンマークはより個性派集団だが、やはりエリクセンが不慮の事態で離脱して以降、結束力は最高潮を維持している。

 

ラウンド16のウェールズ戦で2得点を記録したFWドルベリ、バルセロナ所属のブライトハイデ、抜群の個人技を発揮してエリクセンの穴を埋める20歳の新星ダムズゴー、左サイドから良質なクロスを供給するメーレなど、綺羅星のタレントを擁するデンマークは大方の予想を覆して92年の欧州選手権を制したチームに匹敵するか、それ以上のポテンシャルを秘めている。

 

もちろんデンマークがチームのまとまりと個性の両面を発揮できているのはボランチのホイビュアとディレイニー、最終ラインのケアなどが常に的確なバランスを構築しているから。特に3バックの中央を担うケアーは心身両面でチームをケアしており、守護神のシュマイケルと共に欠かせない存在だ。

 

デンマークのタレント力が序盤から爆発すれば大差が付く可能性もあるが、オランダ相手にも堅守から鋭いカウンターを繰り出したチェコだけに、接戦に持ち込みながらシックの勝負強さを生かして勝ち上がる可能性も十分にある。

 

ウクライナvsイングランド

 

11か国の分散開催となっている今大会だが、イングランドはグループリーグ3試合と首位通過によりドイツとのラウンド16も含めて、ここまで4試合を聖地ウェンブリーで戦ってきた。さらに準決勝と決勝もウェンブリーが会場となるため、この準々決勝がイングランドにとっ唯一の遠征となる。

 

会場になるのはローマのオリンピコ。ここまで4試合無失点のイングランドは前線にエースのケインを擁し、スターリングもドイツ戦の決勝点を含む3得点ゴールをあげるなど、チームは波に乗っている。

 

ストーンズ、マグワイア、ウォーカーが主力を担う3バックが統率とデュエルの両面で安定しており、大会前は未知数な部分も多かったフィリップスとライスの中盤コンビも質量の両面でチームを支えている。トリッピアーとショーの両ウィングバックもダイナミックな攻撃を後押ししている。

 

気になるのはスコットランド戦で、新型コロナウイルスの陽性判定が出たギルモアとハグしたことで、濃厚接触者として28日まで隔離対象だったマウントとチルウェルが復帰するかどうか。言い換えれば彼らなしでドイツ戦を乗り切ったことで、ウクライナのシェフチェンコ監督もメンバーを読みにくいかもしれない。

 

ウクライナはオランダと同居したC組の3位でギリギリの通過を果たしたが、スウェーデン戦でも見せた、ポジショナルプレーをベースとする正確なビルドアップからヤルモレンコ、ヤレムチュクの大型2トップにつなげる。キーマンは左サイドから組み立てに参加するジンチェンコで、ほとんどのチャンスは左側からもたらされる。

 

スウェーデン戦は相手が明確にブロックを敷いてきたため苦しんだが、イングランドは中盤がボックストゥボックス型の選手たちで、縦のアップダウンが非常に激しい。ウクライナ側からすると失点リスクも小さくないが、本来得意とするカウンターを繰り出すチャンスが増えることも意味する。

 

ウクライナがケインを筆頭とするイングランドの迫力ある攻撃をしのぎながら、ポゼッションとカウンターをいかに使い分けて勝機を見出すか。カウンター頼みになってしまうと強度のぶつかり合いになってしまうため、ウクライナとしてはボールを持つ時間は作っていきたいだろう。おそらくボール保持率はフィフティ・フィフティとなる中で、ゲームコントロールも鍵になってくる。

 

1得点1アシストでスウェーデン戦のMOMに輝いたジンチェンコはもちろん、大会の中で徐々に存在感を高めている10番のシャパレンコ、スウェーデン戦では途中出場で流れを呼び込んだマリノフスキー、劇的な決勝ゴールでラッキーボーイになったドフビクなどが活躍すれば勝機も出てくるだろう。

 

 

河治良幸

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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