僕の甲子園物語 第3話
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こじっく
2010年05月08日 22:20 visibility119
こうして、僕は勉強を教えない野球談話専門の家庭教師になったのだが、家庭教師にとって怖い怖い行事が年に何回かある。
そう、定期試験だ。
一学期中間惨敗・・・期末壊滅・・・。
僕は自分の存在価値を疑い始めた。
「僕が家庭教師でいいのだろうか?もっとS君に勉強を教えられる家庭教師って他にいるんじゃないのだろうか?S君が高校に行けなくなったらどうしよう。S君だって行きたい高校はあるに決まってるんだ。いくら野球がうまくても勉強ができないばかりに入学できなかったらどう責任とるんだ?」
僕は悶々と悩んだ・・・。
そして、決意した。
「僕はS君のモチベーションを高める家庭教師になろう!勉強を教えるだけが家庭教師の仕事じゃない!S君の勉強のモチベーションを高めることができるのは、今のところ僕が最適なはずだ!」
そう考えを方向転換したのだ。
そして、僕は図書館で高校野球の雑誌を借りて、ある選手の記事をカラーコピーしてS君にプレゼントした。
それは、松江北高校楠井一騰投手の記事だった。
そうである!センバツに出場し、なおかつ東大に入学し六大学野球で活躍した楠井投手である。
これは確かにS君の心を掴んだ!
「いいかい、勉強と野球はどちらも大事なんだ。広い日本にはこんなに高い志を持って頑張ってる先輩もおられるんだ。なあ、S君もがんばろうぜ!」
S君は頷いてくれた。そして、そこからS君の学業での快進撃が始まった!!!・・・ということは残念ながらなかった。
S君は前よりちょっと勉強をがんばってくれるようにはなったと思うから、楠井投手効果はあったと思うのだが、努力の結果はなかなか現れなかった。
しかし、僕はそれからも東大のエース松家卓弘投手(現北海道日本ハム)の記事を渡したり、S君のモチベーションアップに努力したつもりだった。
授業1回分をまるまる当時早稲田大学のエースだった和田毅投手(現ソフトバンク)のドキュメンタリービデオを見ることに費やしたこともあった。
そのときはS君のお母様が一緒に見てくださった。
「あら、仕送り、こんなに要るんですね・・・」
お母様の心を掴んだ場面は、和田投手が島根のご実家から仕送りをもらっておられる場面だった。
こんな風に、僕は「モチベーションを高める家庭教師」として精一杯やったつもりだった。
しかし、今でも忘れられない失敗があって・・・。
僕は関西学生野球リーグに所属する大学の出身だが、関西学生野球の中で最も受験が難関な大学といえば京都大学!
僕は自分が学生の頃から関西学生野球をよく見に行っていたが、自分の母校より好きだったのが京都大学だった。
だって、応援が温かい!
失礼ながら京大は弱くて、本当にピンチの連続と言う試合が多いんだけど、見に行くたびに熱心な応援の方が何人かおられて、ネット裏から
「ピッチャー、バッターだけに集中しろ!!走られてもええって!!ホームに還さへんかったらええんや!!」
とか、必死に叫んでおられるのを何回も見たんです。熱い、熱い!
こんなこと、できる?
自分の大学も含め、他の大学の応援団の応援やブラスバンドの奏でる応援歌もいい。
でも、本当に心に届く応援って何だろう?
京大って、本当に母校愛が感じられる。
だから、京大が好き。
で・・・・、僕がS君を教えている時に、何シーズンぶりかにに京大が僕の母校に勝ったことがあったんです!!
僕は喜び勇んで、S君にその新聞記事を見せた!
「どうや!すごいやろ!!」
しかし、S君は興奮する僕の顔を見て不思議そうに言った。
「先生、自分の学校が負けたのに、何で喜んでるの??」
・・・そうだよね、S君、恐らくあなたの方が正しい・・・。負けました。
(写真と記事は関係ありません)
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- 事務局に通報しました。
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