踊れる娘と、その父親。

僕もダンスを始めました。


先生は娘です。



「タンタンタン、タンタンタン、クロスー、タン!はい、ここまでやってみて!」

「はい!」

思うように動かない体。

娘がやるのを見る限りでは手と足が同時に出てるように見えたものも、実は足を先に動かして手を動かす。
細かな順序が決まってる。

やりながら、どちらからかわからなくなって体が止まる。


「先生!先生!ちょ、ちょっともう一回教えて下さい」

「えー、じゃあもう一回やるよ、タンタンタン…」


簡単そうに動くし簡単そうに見える。

出来そうなのに、やってみると思うように動けない。

なんだ?これは…。


センス??

無いのか?ダンスのセンス。


それでも何度かやるうちにそれなりに形にはなっていくもんで。

それを見た先生は。
「じゃあ次ね」

「…」

「…はい、ここまで、じゃあやってみて!」

やってみてと言われて出来るわけがない。
でも、やらないわけにはいかない。


ダンスは一つ一つの決まりが多すぎる。

手にしても足にしても左右どちらから動かすとか、回る向きとか…


ポジションでざっくりと動き方や役割が決まってるだけの世界で生きてきた僕にとっては窮屈すぎる。


わからなくなって動きが止まる。

先生を呼ぶ。

教わる。

やってみる。



この繰り返し。



しばらくして、音に合わせて踊る姿(はたして踊ると言っていいのかどうか…)を娘に撮影された。

この動画に関しては門外不出と決めた。

世に出せない、貴重すぎる映像だった。




自分が苦手なことな上、好きでもないなら踊る理由は強制的しかない。

でも、僕は自ら地獄に足を踏み入れた。
(自分の踊る姿を見るのは本当に拷問)



それは僕なりに考えがあってのこと。

決してMっ気なわけではない。

まぁ、Mっ気が無いわけでもないけど。

むしろMかもしれない…。


うん、まぁ今回は娘のことを考えた上で初めてみたわけで。


1つは人に教えることによって、自分も復習できて上達に繋がるから。

もう1つは教える側の人間の気持ちを知ってほしかったから。

知れば、先生の難しさもわかるだろうし、教え子が上達していく喜びも感じてくれると思う。


その為にはダンスのダの字も踊れないようなセンスの無い人物がうってつけ。

幸い、理想の人物がものすごく近くにいたので話は早かった。





娘が僕の思惑どおりになっていくかどうかはこれからまだ先でしょう。

ただ、今は僕への指導を楽しんでくれてるように見える。


「また明日頑張ろうね」

と、言葉をくれる。

「うん、また教えて下さい先生」




毎日はちょっと…。

と、思ったかどうかは秘密です。

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