地方に独立マイナーリーグは出来るのか?

  • DIME
    2007年01月29日 20:30 visibility177

 

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四国アイランドリーグの状況。

 

まずマイナーリーグを検討するに当たってもっとも参考になるのは四国アイランドリーグ(以下四国IL)だと思います。

よくアメリカでのマイナーリーグを参考にする場合が多い(特に楽観論を語りたがる場合) のですが、その場合当然「国家」が違い、同時に「文化・慣習・制度」が違ってきます。私はその点にこそ日本でマイナーリーグを考える場合の大きな問題点が含まれていると考えています(このあたりについては後述)。そういうチームを取り巻く「前提条件」が違ってくる以上あんまり参考になりません。

簡単に言えば、日本の法制度下で日本人相手に商売をしている四国ILこそ一番現実性があり参考に値するだろうということです。

 

んじゃ四国ILの収支について考えてみたいと思います。本来ならば決算書類などが見られれば良かったのですが、見当たらなかったのでニュースなどからしかわかりませんでした。

多くの方がご存知のとおり、1年目の四国ILは3億円超の赤字でした。2年目に関しても1.5億ほどの赤字を見込んでいます。

また初年度のリーグ支出は、当初の見込みで6億7000万円、実際には6億5804万円であったと報道されています。また売上高は3億5617万円で、他の報道を見る限りそのうち2億5000万ほどがスポンサー契約によりまかなわれているようです。 

 

ここでのリーグの支出を具体的に以下の2つに分類します。

  1、選手・コーチ他の人件費(参稼報酬)

  2、その他(職員人件費、売上原価、一般管理費他)

    ※以下1番を便宜的に「人件費」と称します

思いっきり力技な分類ですがそれには理由があります。

地方リーグ構想を考えるときに一般的に、「選手年俸は“上”に負担してもらい、それ以外の部分で独立採算を目指す」という主張が多いからです。

何故かといえばこれはアメリカのマイナーリーグで一般的な手法で、例えば昨年行われていたハワイ・ウィンターリーグでもこの方式だったからです、悪く言えば猿真似ですね。

ちなみに先にも述べましたが、「前提条件」の違いも考えずに猿真似で済むと思ってるなんて下中の下です。どこに問題があるかは余裕があれば書いておきます。

ただこの人件費を除外してそれ以外の部分で独立採算をはかるという考え自体は、逆に言えば選手(=試合のクオリティ)に関わらずに採算が考えられるわけで、非常に有意義な考え方です。

 

では具体的に人件費はいくらだったのでしょうか。ここが大きいほど採算ラインは低くなりますからだいぶ甘めに計算してみます。

まず初年度の選手の人件費は月給12万円とシーズン中のみ追加で食費10万円だったようです。(翌年度以降はもっと減らされてるみたいですがとりあえず上記の支出に準じるためこれで計算します)シーズンは6ヶ月として1名あたり204万円となります。途中解雇などもあったので一概には言えませんが、 約100名の選手で2.04億円となります。

ちなみに確か選手の宿舎などもリーグが借りていたはずですが、これらは運営管理費に相当して考えるべき内容だと思いますので除外(=そこまで上が面倒見ると想定するのは微妙なので)します。

監督・コーチに関しては1チーム3名で12名と臨時でたのむ巡回コーチが若干名。これは相場がわからないので何ともいえませんが仮に月給35万で12人と契約しても5040万かかりますから数千万にはなるはずです。

あとリーグ立ち上げ費用がかかっているはずです。これも実際にどれぐらいかかるかはわかりませんが、学生時代にベンチャーの起業手伝ったときの経験からすれば億には届かないけれど数千万単位で必要でしょう。

傘下に置くとしても独立採算で動くためにはある程度人材が必要なはずですので、選手・コーチ以外の関係者にかかる人件費はリーグ運営に必要なお金として計算します。

以上から非常に大雑把な計算ですが、四国ILクラスのリーグを独立リーグでなくNPB傘下のマイナーリーグでかつ独立採算にさせるためには3〜4億円が必要になります。1チームあたり1億円弱というところでしょうか。

 

かなり強引な数値化ですが別に論文かいてるつもりもなくただの日記ですのでご容赦ください。

 


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イースタンリーグの動員力

 

現在の2軍の状況はどうなのか、とはいっても独立採算にしているわけじゃないので採算に関しては不明。なのでまずは興行の基礎となる観客動員数で考えて見ます。

手元のイースタンリーグガイドに過去数年分の入場者数が載っていますのでそれで確認してみます。

過去5年間トータルのイースタンリーグの動員数は延べ1531試合で180万5799人1試合平均入場者数は1179人となっています。

これ地方遠征試合+1軍本拠地試合で水増しされた試合です。2軍の本拠地主催試合だけで言えば、同1190試合、73万4790人、617人です。

 

つまりはっきり言って、イースタンリーグは四国ILよりも動員力はありません。

あちらは無料チケットを配っているという指摘もあるかもしれませんが、それを言うならイースタンなんてロッテやヤクルトなど2軍の試合は基本的に全部無料なチームがあります。無料入場者数での動員分に関してはほとんど差がないと思います。

特に楽観論を語る人に「2軍でもプロ野球なんだから動員力はある程度あるだろう」 という前提の下で話を進める考えが散見されますが、はっきりいってそういう前提で話が進めるのは非常に無理があります。実際は「プロ野球でも2軍なんだから動員力は低い」と見るべきです。

またどう考えても試合の質は四国ILより2軍のが上なわけですから(じゃなければ四国ILの選手はプロ指名されてます)、「質の高い試合をすれば客は増加する」というのも幻想に過ぎません。よく四国ILや北信越リーグの話題のときに「質の高い試合を見せられるか」というのが課題に挙げられますが、正直ある程度の質(甲子園ぐらい?)あれば十分で、質の高さだけでは客は呼べないんです。

 

なお同時に、地方では同219試合、86万7304人、3960人です(※そのほとんどが巨人対○○の試合ではありますが)。 普段あまり「プロ野球」に触れていない地方で興行を行えばある程度の需要が望めるというのもわかります。

これはあくまで「非日常(=レア)」の興行としての動員力であり、地方にチームを置いて何十試合も行っても同じ需要が望めるかといえばもちろんありえないことでしょう。

その事は「湘南シーレックス」として(あまり離れていないとは言え)1軍本拠地とは別の地域で活動しているベイスターズ2軍が他球団の2軍と比べて大きな動員力を持っているわけではない(本拠地5年平均887人) 事からもわかります。

ただ地方に潜在需要が存在するということは注目に値します。

 

余談ですが、イースタンの過去5年の地方開催試合219試合のうちほぼ半数の95試合が巨人主催試合となっています。同時にロードの試合であっても相手をすることが非常に多いです。

北陸遠征・北海道遠征(日ハム移転後は日ハム主催に変更)・大宮開催など私が生まれる前から続いているような「2軍の」伝統地方開催も数多くあります。

遠征というのは移動費を中心に非常に多額の経費がかかるものです、それだけ身銭を切っているわけです。自分たちの主催でなくてさえ(例えば北海道に日ハムの相手をしに出かけるのは非常に経費がかかるでしょう)それを行っています。

地方マイナーリーグの重要なテーマの1つとして野球の全国拡大があげられますが、巨人が他球団と比べてその必要性と大事さをどれだけ認識し、自分たちの身銭を切っているかがわかります。

こういう巨人が行ってきた地道な努力と他球団が同様のことをしてこなかったことが現在の巨人への一極集中の根底にあります。地方で人気があるのは何もテレビだけではありません。私が「他球団の努力不足」と事あるごとに言うのは具体的にはこういう部分です。 

他球団より投資をしてきた歴史は「球界の盟主」だから当たり前、にもかかわらず投資を回収するときは「球界の盟主」じゃないのだから公平に分配すべきだというのは明らかに間違っています。

公平に分配すべきならまず公平に投資を負担すべきであり、一部が率先して投資を請け負えば回収が自然に一部に集まってしまうのはむしろ正常なことでしょう。

 

 

話を戻します。

上記の内容から「プロ野球(2軍)」という看板では、それなしに比べて集客力をそう増加することが出来ないということがお分かりいただけるかと思います。

まったくないということにはないにしろ、目を見張るほどの数値が出るとも思えません。たぶん出ても1試合平均数十名程度、100に届けば御の字でしょう。

なので「プロ野球のない地方にチームを持っていけば客は来るだろう」というような考えを前提にしてマイナーリーグの採算をはじきだすのは楽観的に過ぎるというかむしろ考えなしです。

 


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独立採算のための収入

 

んで誤解している人が多いのはここだと思います。リーグの収入の中心はどこにあるか。観客からの収入だけではありません。

直前に言及した動員力の部分を全否定するようですが、もし仮に動員力が1試合1000人あろうともリーグ運営が出来るかといえば微妙なんです。

 

四国ILの章で述べたように1チーム1億弱を目標にしました。とりあえず9000万円としましょう。彼らがこの運営費で開催できる主催試合は45試合ですから1試合当たりで200万円になります。平均1000人呼べたとして観客1名当たり2000円を回収しなければなりません。

入場料+球場内で落とすお金(飲食費他)で考えれば不可能ではないような数値に見えます。

ところが現在のプロ野球では球場の飲食費などは球場の所有者(例えば市町村)が持っていってしまいます。観客が落とすお金が必ずしも全てリーグに入ってくるわけじゃありません。これが非常に厄介です。

現状四国ILでも同じような状況になっているようですから、ここを何とかしない限り2000円はほとんど入場料でまかなわかえればなりません。

プロ野球の最安値チケットよりも高い値段で1000人平均で集めなきゃいけないってなれば、ちょっと楽観論も理想論も超えて妄想の域に入ってくる数値目標なのはお分かりいただけるかと思います。

 

逆にじゃあ入場者数は平均で800人、平均収入1000円を目標として考えてみると1試合あたりの観客からの収入は80万円にしかなりません。

これでは必要な金額の半分も満たせません。

 

じゃあどこで収入を得るのか。スポンサー収入ということになります。

Jリーグでもそうですが「メインスポンサー」というものはプロ野球でいう「親会社」が名前を変えただけのものに過ぎず、中身は一緒です。

Jリーグなどはプロモーション戦略によってそれが表に出ないようにやっていますが、公表されている各チームの収支資料を見れば明らかです(JリーグのHPにありますので気になる人はそちらでどうぞ、各チームごとにスポンサー契約の収支に占める割合が大きくばらつき、また収支がほぼぴったりになっていることで損失補てん契約(=プロ野球の親会社による補てんと一緒)を結んでいることがわかります)。

ただJリーグの場合だと目標としてはその先として損失補てん契約ではなく、スポンサー料があらかじめ決まった契約を目指しています。これは非常に素晴らしい考え方であり、参考にすべきです。

 

どれだけリーグ・チームとしての規模が小さかろう(=経費が少なかろう)とも観客からの収入だけで運営はできないので、別途独立リーグのチームごとにスポンサーは必須です。

「独立採算で運営すること」と「観客からの収入のみで運営すること」とはよく誤解されがちですが実態は違います。独立採算のマイナーリーグをもたらすためには観客収入だけで頑張ろうという無茶な目標付けをするべきでなく、スポンサーを探す方が賢明です。

ただ実際のところ損失補てん契約をマイナーリーグに結んでもらうのは非常に難しいと思いますので、定額スポンサー契約を目指すのが賢明であると思います。

 

実際蓋を開けてみればわからない、天候や他イベントなどにも左右されてしまう観客収入を中心としてすえるよりも、金額が一定でかつ多額をまとめて回収することができるスポンサー料金を収入の基礎にすえるほうが安定するでしょう。

ただプロ野球もそうですし社会人野球でもそうですが、メインスポンサーへの過度な依存は逆にそのスポンサーと一蓮托生であることを意味します。そちらが潰れたら終わりです。

これもまたあまり健全な状況であるとはいえないので、ここのバランス感覚は非常に重要になると思います。


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公的支援の必要性 

 

最初にアメリカのマイナーリーグはそのまま参考にはならないと書きました。その理由は色々な「違い」があるからだというのはそのとき書いたとおりです。

私はこれらの違いが一部でも解消されない限りはあちらのようにするには難しいと思います。その違いについてとりわけ一番大きい部分を書いておきたいと思います。

 

それが公的支援の有無の存在です。これは別にチームにお金を払っているということではありません。チームから取れるかもしれないお金を取らない、これも十分な支援です。

先ほど指摘したように四国ILや例えばプロ野球では横浜スタジアムもそうですが、球場から発生する利益を球場を所有する公的機関が持っていってしまいます。その状態では試合をすることによって発生する利益を効率的に回収することが出来ません。

 

具体的に言えば球場での弁当がおいしくないと苦情が出ても、その売上げがチームに入らないようではチームとしては自分たちの資源を投入してまで(=職員の時間や労力を使ってまで) 美味しくしようとは思いませんから(直接的にはただ働きになる)、結果的に弁当がおいしくなることはなく、球場に来る魅力が失われます。

球場のトイレをきれいにして欲しい、近代化して欲しいと要望されても球場に関しては「借り物」でしかないのでチームの一存で清掃依頼先を変更したり、工事をすることは出来ません。結果的にこれも球場にくる魅力を失います。

もし球場から発生する利益の全てをチーム側が得る事が出来るのであればチームは思い切った活動が出来ます。例えば入場料を低く設定することで客を多く呼び、その分は球場内の収入で回収するということができます。

ディズニーランドでの飲食物持込制限などを想像していただければわかるかと思います。TDLは人気の割には他パークとくらべて入場料が高くありません。それは客を多く呼び込む→待ち時間の増加→園内滞在時間の増加→園内での消費増大を狙っているからだと思われます。

昨年行われていたハワイウィンターリーグでも、HPをみたところ入場料は4〜6ドルほどでした。これもやはり入場料を低くして球場内で回収していたのだろうと思われます。

また同時にそもそも球場を貸すお金が非常に低く抑えられています。これも大きな支援です。このような公的支援があればこそ、採算分岐点が低くなり黒字化を達成しやすくなります。 

 

そういう公的支援を受けやすくするためのもう1つの大きな問題が「人」です。 

上記のような公的支援にしろ親会社からの補てんにしろ、多くの人がチームを経営するのにどれだけお金がかかるものかという事への理解が足りないと思います。

地域の公共財としての価値を球団に求めるのであれば、公共財として優遇措置をすることは認めるべきです。

アメリカやヨーロッパでは上記のような間接的支援が行われています、だからこそスポーツが文化として発展しています。

リーグや球団に対してもっと公共財としての自覚を持つべきだというのであるならば、そもそもまずその地方の人たちが公共財に対する支援をすることから始めるべきです。

お金は出さないけどそこから生み出される価値は持ち出していきますというのは、私はもっとも嫌いです。

 

あえて言えばある意味地域の公共団体というのはチームに対するスポンサーです。

まずその地域の公共団体が「第一のスポンサー」としてチームに対して、直接的にお金を払うという形ではありませんが実質的にお金を出すことが必要なんです。

その“最強”のスポンサーが必ず欠けた状態から出発しなければならない日本の現状は非常にハンディキャップを背負っている事になります。

 


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とりあえず私は現在の日本のスポーツを取り巻く環境では、地方に独立採算でマイナーリーグを置くのは難しいと思います。人件費が余計にかかるので独立リーグはもっと難しいです。 

スポンサー収入への依存度を高めれば(実際四国ILの初年度依存は相当なもの)可能だとは思いますが、それはスポンサーを限定することになり(高いお金を出せる企業はそうそうない)非常にリスキーな経営となるでしょうからあまり望ましいとは思いません。

 

地方にまで「プロ野球」を拡げて、健全な経営組織として機能していくためにはまずは公的支援の拡充から必要だろうというのが私の考えです。

そしてそればっかりはどうこう言ってもどうなるものでもなし、逆にそれを待たずして無理に茨の道に飛び込んで成功でもしようものなら野球に限らずスポーツ全般にとって欧米並みにスポーツが文化として発展することを阻害しかねません。

だから私は公共の支援が行われない状況で安易に地方へ分散させていこうとする事はあまり賛同できません。

またこれは別の話にもなりますが、現在の公共機関のお金の使い道に関してもあまりよろしくないと思いますのでそちらの意味からも「スポーツには金を使う必要がない」と思ってしまうような方向には進んでほしくありません。

 

おまけ

 

四国ILに関して1つ言いたいのは入場料収入一律にするのは改善した方がいいということ。

野球観戦というのを非日常のエンターテイメントと位置づけるのであれば、たくさんお金を払ってでもパーっと豪華にしたい人も、少ないお金で何試合も見たい人もいる。

一律1000円とかにしていれば、ほんとは1000円以上払ってくれたかもしれない潜在需要を自ら捨ていているわけで非常にもったいない。

まぁこの辺はまたいずれ入場料について書ける時に。

 

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