守備力について その2(巨人)

  • DIME
    2008年03月18日 10:40 visibility818

えっらく書くのに長く時間がかかってしまいました、下書きはあったんですけどどうもまとまらなくて。
これは開幕前までに書いておかないといけない(今年の巨人に関係がある)ことなのでまだ納得する出来ではないんですけど、一応公開します。
たぶんこれからまた手を加えると思いますがご容赦ください。

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その1では、1つの指標としてRFという指標があると言うことを示しました。
この詳細に関しては私より詳しい方がネット上にもたくさんいらっしゃいますのでそちらに譲るとして、ここではその1で触れた「守備の目的は何か」という命題を突き詰めて考えてみたいと思います。

それを考えるに当たって、そもそも野球とはどういう競技であるのかという定義が取っ掛かりになります。
最近第六版が発売された広辞苑ですが、手元には新版はないので旧版で野球を調べてみると以下のようにかかれています。

【野球】
 九人ずつの二組が、各九回ずつ交互に攻防の位置について得点を争うもの。
 (一部抜粋)

ここに書かれている通り、野球とは「得点を争うもの(競技)」です。
という事は守備をするときの本質的命題は、「相手の得点(以降、失点)を防ぐこと」であるということがわかります。
理論上は、たとえどれだけ守備側の能動的活動によってアウトが取れなかろうとも、最終的に失点が防げていればそれで問題は無いのです。
ただし野球のルール上、守備側が能動的にアウトを取らずに失点を防ぐと言うのは非現実的であるので、この2つの意味は事実上はほぼ同義であるとみなせます、特にプロレベルにおいては。草野球レベルだとまた違ってくるでしょうけどね。
なのでその1では、「守備の目的は何か」に対して「アウトを取ること」だと書いたわけです。で、今回はより本質的と言うことで「失点を防ぐこと」で考えていきます。


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で、じゃあ失点をもたらす要素は何であるかということを考えるため、要素を分解していきます。
ほんとは邪道ですが、わかりやすさ優先で、失点(X)を人的要素と非人的要素の2つに分類して考えて見ます。

X、失点の要素
 1、人的要素
 2、非人的要素


で、じゃあ人的要素には何があるかと考えた時、フィールド上に居るのは、攻撃側選手、守備側選手、そして審判員、この3者が人的要素となります。付け加えて「観客」が要素となった事例がなかったわけではないのですが(フェンス内側でキャッチするとか)それはほとんど例外事項と考えていいでしょう。
 
1、人的要素
 1ー1、攻撃側選手
 1−2、守備側選手
 1−3、審判員
 (1−4、観客)


次に非人的要素に何があるかと言うと、運、パークファクター、天候、などの要素が挙げられるでしょう。ほんとはちゃんと挙げきらないといけないのですがここでは関係ないので省きます。


2、非人的要素
 2−1、運
 2−2、パークファクター
 2−3、天候


これらのうち、守備側の能動的活動でどうにかできる事というのは、当たり前ですが、「1−2」だけです。本拠地を変えてしまうとかいう荒業などは置いておくとして。
この1−2を更に分解すると当然9人の選手ということになります。もちろんDHは守備しないのでDH制であっても直接的には関係してはきません。


1−2、守備側選手
 1−2−A、投手
 1−2−B、捕手
 1−2−C、一塁手
 1−2−D、二塁手
 1−2−E、三塁手
 1−2−F、遊撃手
 1−2−G、左翼手
 1−2−H、中堅手
 1−2−I、右翼手


以上のように分解できます。


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さて、ではその失点ですが、それらをあらわす指標として、「チーム単位での失点」、そして登板した「投手単位(つまり失点時にが登板していた投手別)での失点」(防御率或いは失点率)があります、残念ながら野手単位での失点というのはほとんど見かけません、捕手のを見かける程度でしょうか。
この時、自責点と言うのは失策に拠る失点を除外しているわけですが、個人的にはその除外については主観的選択の結果であることを免れないものなので除外するのは本来適していないと思っていますけど、今回はどっちでもいいです。
またイニング途中での交代があった場合、その投手のみによる結果として失点が付くわけではない(前の投手が出した走者を、後の投手が返してしまう)場合も有りますが、それらの要素が全体に影響する割合は比較的小さいためここでは無視します。

本題に戻って、この2つの指標は前記の要素のうちどこを表現しているでしょうか。
「チーム単位での失点」は、最終的な結果ですから当然失点(X)です、では「投手単位での失点」とは(1−2−A)なのか。これが残念ながら違うわけです。
実際はその投手が登板していたときの失点というのは、投手が一人で野球をしているわけでは有りませんからその失点の全てが(1−2−A)によるものだとはなりません、他の要素全てを含んでいます。
ただし、それら他の要素というのは試行回数を重ねることで一定の“経験的確率”から導かれる値に収斂していきます。特殊な状況(例えば06年、日ハム・中嶋捕手のようにその要素が投手の要素に基づく場合、或いは抑え投手と守備固め野手のように結果的に起用される機会が近しくなる場合)ではそうでない可能性もありますが、全体に占める特殊な状況の割合は小さなモノですから全体に与える影響は無視できる程度でしかありません。
なのである程度マクロで見れるだけの試行回数(=イニング数)を重ねられた場合には、実質的に他の要素は平均化して無視する事ができ、残った(1−2−A)部分における有意差によって投手単位での失点は表現されているとみなすことが出来るわけです、だからこそ防御率或いは失点率はその投手の指標として使用できうるといえます。

それをちょっと別の観点から考えて見ましょう。
ここで、もし仮に「(1−2−A)の要素」と「その他全ての要素」、この双方が失点(X)に占める割合、これが「その他全ての要素」の方が非常に大きいと仮定してみたらどうでしょうか。
このときは当然ですが、「その他全ての要素」に最終的な結果は引っ張られますので、(1−2−A)の要素、つまり投手の要素の違いによって、防御率や失点率には有意差がほとんど発生しないはずです。
ところが実際は、守備側選手がほぼ等しくなる(=その他の要素がより収斂しやすい)同じチームの投手同士でさえ、防御率や失点率には有意差が大きく発生しています。そしてその有意差は投手能力の差として一般的に語られています。
そこから導かれることは何か、逆に失点(X)に占める(1−2−A)の割合が非常に大きなものであると推測できると言うことです。
我々が経験則的に防御率或いは失点率をその投手の出来不出来を評価する根拠としている事は、それだけ失点全体に占める投手の要素が大きいと言うことを経験則的に無意識にみなしているわけです。

具体的に言った方がわかりやすいでしょうからX=100だったとして説明します。
仮に、(1−2−A)がそのうち10、(その他)が90を占めていて(その他)はだいたい75に収斂する、この場合投手が8でも83、投手が4でも79ですから、単純計算で2倍の能力差がある投手同士でも4%の差異しか無い(83−79=4)と言うことになります。
そういう状態であるとどうなるかといえば、投手が失点全体に与える影響は非常に軽微ですから、その他の要素が一定である場合、具体的には同じ野手が同じ球場で守っている場合などには、投手に関わらず失点は近似します。
実際の野球はそうでしょうか?どんな投手が投げたとしてもそのチームの防御率(失点率)は似通ってくる、なんてことになります?ならないですよね。
むしろ逆でしょ、同じ野手が守っていて同じ球場でやっていたとしても、投手が違えば大きく差が出る、それが現実ですよね。
それはつまりどういう事なのか。(1−2−A)の要素がXに占める割合が大きいことを示していることに他なりません。


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結局、今レンジファクターをはじめ、守備力と言うことを客観的に評価しようと試みられているのは、私が強引に「一定の“経験的確率”から導かれる値に収斂する」とみなしている部分をそうみなさずに全ての要素を1つ1つ分解することを試みているわけです。
それについて私は、そこを数値化したとして、「チームの勝利」或いはその前段階である「チームの失点を防ぐ事」にどれだけの影響があるのか疑問を感じます。
もちろん客観的に数値化できる事そのものは重要なことです、主観的であるのか客観的であるのかで言えば客観的であることの方が望ましい事は太陽が東から昇ってくることぐらい疑いようの無いことです。
そういう意味で私の暴力的な考え方は決して正しくありません、本来ならばもっと着実に歩んでいかなければいけない。でも私が興味があるのは歩みそのものじゃないんです。
客観化できる事を追求するのは正しいと思います、私はそういう客観化することに興味があるわけではないだけで。
私がセイバーメトリクス等のデータを知識としてもっているのは巨人の勝利の為、巨人の活動が勝利に近しいのかを判断する基準が欲しい為でしかありません、データを弄ることそのものに楽しみを見出しているわけではないです。

そうやってマクロで見たとき、巨人の過去3年間の結果を見ると、05年と比較して06年、07年と巨人の失点は大きく改善の傾向を見せています。
じゃあその間野手の守備力が良くなったのでしょうか、誰か守備に優れた選手がスタメンを占めるようになったでしょうか、そもそも守備の良い選手が加わったのなんて小坂誠と古城茂幸ぐらいでしょ。
でも、2007年の巨人は失点率で言えば6球団の中でもっとも少なかったんです。守備力が即ち失点を防ぐ能力であるというならば、2007年のセ・リーグでもっとも守備力があったのは、巨人なんです、これは厳然たる事実。

井端と二岡にどれだけ差があろうがそんなものは何でもないよって数字は教えてくれているんです。

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まず失点を防ぐ為にはどうすればいいのだろうと考えたときに、最初に行われるのは「(1−2−A)の強化」です。これが最善策だと私は考えています。
ただし、これが全てのチームにおいて必ず出来る対策かといえば決してそうではありません、むしろそれをそのまま出来るチームの方が珍しい。
その結果として、世間では次善の策となる「野手の守備力を高めることで勝利を増やすことを目論むという戦略」がよく見受けられるんです。

たとえば高校野球。高校年代で優れた投手をいつも確保することができますか?たった3歳の世代しかない中でそれを実現するのはよっぽどの名門校でもない限り不可能です
逆に、よっぽどの名門校は何故名門校たれているのか、堅い守備があるからじゃないですよ、それはもちろんあったとしてもそれ以上に、優れた資質を持った投手がいる可能性が非常に高いからです。高野連のヒステリーによってあって当然の特待生制度が不当に制限されるこれからどうなるかはわかりませんけど。
よーく見ていてください、野手の守備“だけ”で勝って来る名門校はほとんどいませんよ、むしろ守備がどれだけ良くてもエースがいないときは地方予選で“番狂わせ”が起きますよ。

たとえばプロ野球。70人枠に保留権にドラフト、必要なはずの戦略を取ることの出来ない弊害だらけです。どんだけ投手が足りない、良い投手がほしいと思ったとしても、じゃあ良い投手を取りました、っていう結果を導けるとは限らない、というかそうなれるほうが少数派です。
なので仕方がないから次善の策として「野手の守備力を高めることで勝利を増やすことを目論むという戦略」にシフトしなければいけない状況に追い込まれるのです。

優勝する球団が「野手の守備力を高めることで勝利を増やすことを目論むという戦略」をとっていることが多いのもまた当然です、最善策を選べる球団のほうが少数派だからってことではなく。
日本人ってのはどうも「二元論」とか「解答は1つ」という概念に陥りやすいんですが、別に最善を選んだら次善を選べないわけではないのですから。最善策と次善策は競合しませんからどの球団も次善もやっていないわけないじゃないですか、優先度が違うだけで。
結果論から始まる優勝球団への評価では、「守備に優れていた」事なんてのは無理矢理にでも捻り出されます、02年の阿部が高評価されたようにね。

中日などにしても決して「次善」が素晴らしいから、失点を防げているわけではありません。そうでなければ荒木・井端の二遊間があって福留、アレックスもいた2005年にだって失点が防げていなければおかしいでしょ。優れた「次善」は劣った「最善」をカバーしきれない。

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小難しく書いてきましたけど、結局言いたい事はそんな珍しいことであるとは思いません。
守備の目的はファインプレーでもないし、もっと言えばアウトを取ることでもない、失点を防ぐことです。
去年のあのスタメンで、失点率は6球団の中で一番だったってのが事実そこにあります。
その失点を防ぐことにしても別に「失点をゼロにすること」が目標じゃなくて勝つのが目標なんですから、絶対的に失点が少ない必要は無く相対的に他球団より失点が少なければいい。
去年の結果からみれば、少なくとも今の巨人において失点に与える野手の守備力の影響というのは非常に軽微か或いはそのマイナスは投手力で補えるかのどっちかしか解釈できません。あ、すみません、もう1個あった、巨人野手陣の守備力が他球団と比べて優れているか、もですね。

これは前にも書きましたが、見た目はエラーとかまずい守備で点を取られたなんてときも、投手がエラーの後を抑えていれば失点しなかったかもしれない、投手がまずい守備以下同文。
だから、今の巨人を評して守備に問題がある云々言ってる時点でナンセンスだと思いますよ。
最低限「失点に対する守備力の影響の度合いは非常に大きい」ことを証明しないと、その主張には説得力が無い。
んで、05年から比較して、06年、07年と巨人の失点率は大幅に改善されています、この事実を踏まえた上で、「失点に対する守備力の影響の度合いは非常に大きい」ことを証明するとどうなっちゃうか。
もし「失点に対する守備力の影響の度合いは非常に大きい」と仮定すると、「ここ3シーズンの巨人野手陣の守備力は非常に良くなった」という事が導かれます、って事は今のメンバーの守備に問題はないという事になる。
それでも尚、「いやいやそんなことはない、この3シーズンの野手の守備は酷いもんだった、そして今の守備力にも問題があるんだ」と主張するっていう事は、どういう主張をしているのか。
「失点に対する守備力の影響の度合いは非常に大きい」のだけれどもしかし、こと巨人のここ数年に関しては「失点に対する守備力の影響の度合いは非常に大きい」ということの例外なんだ、巨人だけは違うんだよ、だから巨人の野手の守備力が低いのはとっても問題なんだ、って主張してるってこと。
私、そういう人の相手するのは疲れるから好きじゃないんです、自己矛盾に自分で気づけない人って何を言ってもムダですから。ほら、「監督は肉を食べても良いんだ」とか言い放った人とかさ。たぶんあれ本気で自己矛盾だと思ってないですよ。
もちろん例外だという可能性もありますよ、それは否定しません、だから例外である理由を示してください。

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まぁそういう考えがあるんでね、私は絶対に守備力からスタメンなんて決めないんですよ、守備力から決めるのは投手だけ。少なくとも巨人のアイデンティティを守っているのであれば。
どんだけ拙い守備の野手であっても、圧倒的なまでの投手力を擁すればそれでカバーできるし、それでカバーするという戦略をまず採るべきなのです。
その最善策が選べないのであれば、次善として守備力から組み立てていくという戦略を採るのも納得できます。けれども、巨人が巨人軍がそれを選ぶようであれば絶対におかしいです、それはもう巨人ではありません。
巨人は目の前にある選択肢に不要な制限など付けてはいけない、改善が期待されると計算が経つ選択肢に躊躇などしてはならないのです。

もちろん守備も良くて、打撃能力もあってという選手ばかりで並べるのが一番ですよ、だから福留のときも最初の一文で終わりって言った、あれ以上書くことなんて無いでしょ。
でもそういう選手は稀ですからね、そんな選択肢ばかりが用意されるわけではない。
じゃあそうなったときにどう考えるか。「投手」という他のファクターによってカバーが出来る可能性が非常に高い「守備力」と、その選手個人の能力以外のファクターではほとんどどうしようもない「打席の中」と、そもそも同じ俎上にすら乗っていないじゃないですか。
他でカバーできない、或いは他でカバーしきれないとされてはじめて私は守備力を考慮します。例えば中田翔などは「他でカバーしきれない」と勘案してしかるべきだと思います、でも基本的にプロに指名される時点で「他でカバーしきれない」という徳俵を割ってる選手なんてほとんどいません。
プロとして最低限の守備力は持ち合わせている。今のところの私の頭の中ではその時点で「守備力」はもう合格点です。あればプラスしますあったほうが良いのはもちろんです、でも無いことでマイナスもしない。
もうちょっとRFなりなんなりの指標が信頼できるレベルにまで達してくれればこの考えは改めるつもりだし、本来は改めるべき考えだと思っているのですが、今のところまだそれらは考慮してしかるべきところまではたどり着いていないように思われます、っていうかそう簡単にたどり着けるかどうかすら怪しいですが。DIPSの壁は厚いよ。


ほんとはもうちょっと一般的なことを書くはずだったんですけど、どうしても仕上がらなかったのでとりあえず巨人仕様っていう事で、一般化するのは宿題にしておきます。

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