【日本代表】「札幌大惨事」。韓国代表が感じたザックジャパンの成長と強さ


日本のエースであることを証明した香川 [写真]=足立雅史


 


(webスポルティーバ)


 真夏の札幌ドームは結構な蒸し暑さだった。ハーフタイムに記者室で水分補給していると、韓国メディアの記者から声をかけられた。

「いやー、内田はかなりキレていますね。彼のところから韓国はやられまくっている」
 
 試合後、韓国の各メディアは「3ゴールで済んだのが幸い」(イーデイリー)「札幌の屈辱」(スポーツソウル)「札幌大惨事」(中央日報)と書き立てた。パク・チソン代表復帰待望論までもが飛び出した。

 8月10日、札幌ドームでの日韓戦の結果は、韓国にとって衝撃的なものだった。フル代表で日本に3ゴール差をつけられての敗戦は37年ぶりなのだという。試合後のパク・チュヨンの言葉もまた、ショックの大きさを物語っている。

「(韓国代表)選手たちは、非常に苦しい精神状態にある。反省が必要だ。今日の敗戦は、ワールドカップ3次予選にとってのいい薬にしていくしかない」

■なぜ、こんな結果になったのか。韓国が見たザックジャパンとは――。
 
 W杯南ア大会後に就任したチョ・グァンレ監督の志向するスタイルは「スペインのようなパスサッカー」。チョ自身「似たスタイル」と認める日本との対決でその完成度を測りたかったが、結果は無残なものになった。

 まず、この日の韓国はアジアカップでザックジャパンをPK戦まで追い詰めたチームとはメンバー構成が異なった。

 ボランチのキ・ソンヨンが「2列目に負傷者が相次ぎ、アジアカップ時のコンビネーションが発揮できなかった」と試合を振り返った通り、4-2-3-1の「3」で実績を残してきたイ・チョンヨン(ボルトン)を負傷で欠き、チ・ドンウォン(サンダーランド)は移籍直後のため招集が見送られた。

 右サイドでイ・チョンヨンの代役となるはずだったソン・フンミン(ハンブルガーSV)までもが体調不良で選考外に。さらにチョ・グァンレ監督が信頼を置くCBホン・ジョンホが一連のKリーグ八百長事件の捜査対象となったため、招集を見送られた。
 
 このため、チーム全体の守備に大きな問題が生じた。チョ監督下では出場機会の少ないイ・グノ(ガンバ大阪)、中央が本職のク・ジャチョル(ボルフスブルク)が入った2列目の両サイドでプレッシングがあまり機能しなかった。

 結果、やや高い位置に入ったダブルボランチの一角、イ・ヨンレが攻守の切り替えの局面で多く顔を出し、日本の中盤に対抗するプランが狂うことになる。 

 10日のゲームはチョの就任後、3度目の日本戦だった。過去の2戦でチョは「中盤対策」を日本戦のポイントに挙げてきた。

 昨年10月、今年の2月の対戦ではいずれもアンカーを置き、日本のパスワークの遮断と、できるだけ高い位置からの攻撃スタートを狙った。

 最初の対戦では本来CBのチョ・ヨンヒョンを先発で起用。しかし本人は「松井、本田を捕まえきれなかった」と失敗を認めた。アジアカップでは試合途中からやはりCBのホン・ジョンホをアンカーで投入し、試合のペースを立て直したが、結局敗れた。
  
 10日の試合では、日本戦向けの特別なシフトは敷かなかった。ダブルボランチの一角キ・ソンヨンがやや低い位置に入ったものの、キは本来プレイメーカータイプなので通常通りのシフトで挑んだのだ。サイドからのプレッシングの指示も通常通りのものだ。

■単純に「日本のチーム完成度が上回った」

 しかし、この布陣は日本の前では通用しなかった。香川真司が「ドームの蒸し暑さのせいか、韓国は体が重いように感じた」と話したような影響はあっただろう。ただ、より明確な理由は、単純に「日本のチーム完成度が上回った」ということだった。 

「アジアカップで見せた、パスを回しつつサイドから縦の突破を狙うプレイがより成熟していた。決定力が上がり、全体的になめらかになったという印象。パスがよくつながるから、選手が自由に動き回れる。結果、運動量も増えている」 
 
 試合後、途中出場したキム・ボギョン(セレッソ大阪)は「なめらか」という独特の言い回しを使った。
 
「遠藤を筆頭として、パス能力が全体的に本当に高い。そこに、スペースへ入り込むのが上手い選手、香川などが絡んでくると止めるのが大変になる」 

 試合後、岡崎慎司が「今の日本の攻撃のよさは、”スイッチ”を入れられる選手が複数いること」と話していたが、韓国は日本の攻撃陣に完全にかきまわされたのだった。
 
 サイドから日本の侵入を許したかと思えば、ワンボランチの形になったキ・ソンヨンの周囲のスペースを好きなように使われた。

 インターネット媒体「OSEN」は「内田、完璧な右サイド支配で勝利を牽引」との見出しを打っていたが、キム・ボギョンは、日本の攻撃についてこうも話していた。

「パス回しからサイドに展開する。そんな明確な狙いがあるように感じる」

■3度目の韓国戦から見える日本の成長ポイント

 南ア前の2010年5月24日、埼玉スタジアムで日本は韓国に1-3と敗れている。

 この試合を見た、のちの代表監督チョ・グァンレは「攻撃に入る際に、無駄なパスが多いと感じた」と話していた。

 “無駄なパス”から”明確な狙い”へ。

 韓国の見る日本代表は、真逆の評価へと変わっている。

 狙いがはっきりとしたパス展開の精度アップ。

 この点が、ザックジャパン3度目の韓国戦から見える日本の成長ポイントだ。

 10日の試合後、完敗を認めたキ・ソンヨンは「韓国も日本も、主導権を握られたゲームをどう展開するのかが課題」と言っていた。

 3次予選が終わった頃、一度、ザックジャパンと強豪国とのマッチアップを見てみたい。

吉崎エイジーニョ●取材・文  text by Yosizaki Eijinho










































































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