2014年W杯アジア3次予選 北朝鮮代表-日本代表 後編
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おかき
2011年11月21日 12:31 visibility240
FIFAアンセムと共に両チームが入場してくる。北朝鮮のサポーターはまだ騒いでいる。きっとサッカーがどういうものなのか、あまり知らない人が多いこと
が推測される。ところである。アウェイの日本代表の国歌「君が代」が流れると、徐々にブーイングが始まりその内場内に流れている音すら聞こえない位の大き
さになった。観客席にいた自分ですら、スピーカーからの音声がやや小さい事を差し引いても全く聞こえなかった。この時、私は怒りというよりも何だか悲し
かった。国歌が流れている間位静かに出来ないものかという悲しさではなく、情報を選択出来る環境にないことへの悲しさだった。
こ
の日の午前から昼にかけて平壌市内を観光していると、外国人向けのツアーとは言え平壌市民とそれなりに顔を合わせていて、例えばチュチェ思想塔や戦勝記念
塔では結婚式が行われており、日本人が皆拍手で迎えるというとんでもないシチュエーションでも平壌の人たちはそれにはにかみながらも一緒の写真に納まった
りしている状況に接していると、常に反日感情をむき出しで生活しているとは感じられない。中国や韓国にも行った身としては、目の奥に反日感情を持ちつつ表
面上打算的に付き合っているのとは全然異質なもの感じた。政治的、国家的なものに触れた途端スイッチが入るというか、そこに煽る誰かによって引っ張られて
いると言ってもいいのかも知れない。
そもそも日本と北朝鮮には現在も国交がない。太平洋戦争の問題、拉致の問題など多くの問題があって彼
らがブーイングしたくなる気持ちも理解できる。逆に日本では「スポーツと政治は別」といい続けているが、果たしてそれは「正しい」のか。○○党というのぼ
りを持ってスタジアムに来る輩は論外だが、例えばなぜ高校野球で沖縄県の代表が優勝すると、「本土」のチームそのそれとは違った感覚があるのだろうか。な
ぜ日本が韓国に勝つと他の国に勝つよりも、優越感を感じるのだろうか。人の根底には政治的背景やイデオロギーがあり、その上にあるスポーツという舞台で戦
うからその一端が出てきてしまうのだろうと思っている。
とは言え、試合はずっと日本代表へのブーイングが続いた。日本がボールを持てば
ブーイング、北朝鮮の選手がボールを持てば常に手拍子や歌が流れる。北朝鮮の選手がファウルをし、FKが日本の与えられてもブーイング。それが90分
360度それだから、人工芝への対応やメンバー総入れ替えもあり中々自分たちらしいサッカーが出来ていない上に、それに輪をかけて北朝鮮からの激しい応援
に選手が精神的に消耗しているように見えた。
もうひとつの戦いは観客席でも起こっていた。日本人サポーター席を監視している兵士が、常に
「座れ」と指示を出してくるのである。そもそも兵士がいるから特に左側は殆ど見えないのであるが、またその兵士の後ろの貴賓席の人間のマナーも悪く椅子が
足りないから階段で立ち見する人間が増えるばかりだった。その人間が増えるから余計に日本人は立ちながら見ようとする。
外務省の人間も、日本人を試合前に席に座らせると貴賓席で観戦しはじめる始末。一応最前列の通路には人間は何人かいたが、何もしないで黙認している状況。国交がないから何も出来ないというよりも、何もしていない。これで何の為の職員なのか不満のたまる観戦だ。
当初は「ニッポン」コールですら手で制止されていて、年齢がいった勲章を多く付けた兵士が、下の兵士を「それ位許してやれ」といった形で、徐々に許容されていった。
私といえば、そういう兵士とは目線を合わさず実力行使されない程度に立って見ていた。目線を合わせてしまうと力関係を人間は意識しやすいので、目を合わせず無視しつつ身振り手振りを感じて、実力で排除しようとしたら座るというささやかな抵抗をしていた。
前半途中からは、バックスタンドでマスゲームが開始。ピンク地に黄色の文字がチカチカする。チョソン・イギョラ(朝鮮勝て)と読むと試合後にガイドに聞いた。
後
半5分均衡が破れる。FKのロングボールの競り合いでこぼれた浮き球のボールをパク・ナムチョルに決められる。西川の手の先にボールが転がりゴールネット
を揺らしたのが兵士と兵士の隙間からよく見えた。ドーンという衝撃は、失点ではなく北朝鮮の観客の喜びの大きさだった。
じゃぁそこからより一層応援が激しくなるかと言えば、そうでもない。多分だが、自分も慣れてきた。元々アウェイの地でブーイングされる事は前提だったし、四方どこ見ても味方がいない事もわかっていた話。45分いれば同じコールも何度もあるし、自分もメロディに慣れてくる。
そ
うなると残りの40分は退屈に感じてしまった。北朝鮮の選手が退場になったが、それでも北朝鮮はボールを大きく蹴りこむサッカーを続けているし、日本は
3-4-3という選手に馴染んでいないサッカーを続けている。こんなかみ合わないサッカーではただひたすらに退屈である。
そのまま試合終了の笛が鳴る。日本はまたしても平壌で勝利を収める事が出来なかった。北朝鮮の選手は、まるで何かの大会に優勝した様に強く抱きしめあい喜びを分ち合っていた。北朝鮮の観客も勝利したことで歓喜の歌が始まった。すぐに家路につく観客もいる。
日本人にもすぐにスタジアムを出る様に指示がある。だが、私はすぐに出るつもりはサラサラなかった。選手たちが挨拶に来るのを知っていたから。長谷部が最初に来る。兵士と距離にについて揉めているが、進んでも良い位置まで来ると挨拶をして控え室に下がっていく。
個
人的な感想を言えば、日本人は応援で一枚になれなかったなぁと。試合の為に来たという人もいるし、応援ではなく観戦という人もいる。それどころか試合は二
の次で北朝鮮が楽しみと試合は殆ど見てない老人もいた。これで一枚になるのは難しい。どれが良いというよりも、皆が同じ感覚でいないのが残念だった。負け
た瞬間、日本にいる人に申し訳ない気持ちで一杯になった。
選手も控え室に下がり、スタジアムを出ようと階段を下りたところ、外務省の職員
は持ち込んだ携帯電話でスタジアムの写真を撮っている。それはどうなんだ?と怒りがどんどん出てきた。入国時の手荷物検査の話にしても、情報はサポーター
がホテルに行って、「初めて知りました。そうなんですか」という外務省の職員。これで何が邦人保護なのか残念なことばかりだった。
スタジ
アムを出るともう既に日は落ちており、真っ暗に近い状態だった。入ってきた道を戻るが、兵士がこちらを向いて列を作っている。バスに戻る前にメディアの人
間に捕まりコメントをしていたら、バスに向かって投石があったらしい。周りの方が暗いから一旦車内の照明を落としてバスが駐車場を出るが、再点灯までは結
構な時間があった。誰が乗っているかわからせないようにしていたのだろう。
まとめると、ブーイングこそあったが殺されそうになるとか危な
い目に遭うということはなかった。確かに兵士が抑止力になっている部分はあったが、投石こそあれ暴動なんかはなかった。逆に勝利していた時の方が大変かな
とは感じた。気持ちを煽るなら負けている方が動かしやすい。そういう意味で、入国を除けば世界一統制の取れた応援を見たアウェイゲームだったという結論か
なと、自分は感じている。
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- 事務局に通報しました。
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