アスレチックスのGM:ビリービーンについて(その2)

引き続き,ビーンGMについて,主に「マネーボール」(マイケル・ルイス著)の情報を元に,感想を交えて紹介する.

・ビーンGMは高卒選手を獲得したがらない。高卒選手は大卒選手に比べて実戦の記録が少ないから,数字(統計)で実力を判定することが難しいからだろう。高卒選手を獲得して,自分でふるいにかける作業を「効率」の観点から拒否しているともいえる。ビーン自身が「有望高卒選手で失敗した例」であることも影響しているだろう。オリックス(旧阪急ブレーブス)が,1995年頃から,高卒よりも,大卒・社会人卒の選手をドラフトで重点的に指名するようになったのも同じ事情のように思う。でも,数少ない高卒選手の中で,T-岡田のような選手が出てくるから面白い。なお,MLBではドラフトで数十名の選手を獲得して,7段階もあるマイナーリーグで「訓練」するので日本とは事情が異なることには留意する必要がある。

・ビーンGMは,投手の球の速さを重要視しない。その投手の記録を見てアウトを取れる投手を評価する。逆にいうと,「球が遅い」というだけで(本来の実力より)評価が低い投手をドラフトで巧みに獲得する。あるいは,「球が速い」というだけで(本来の実力より)評価が高い投手を使ってトレードで獲得する。この点は「速い球大好き」の巨人の現場やフロントに学んで欲しい所である。

・よく知られているようにビーンGMは出塁率を重要視する。選手の選球眼を重要視する。過去の経験から,「選球眼」は天性の才能ではないかとすら思っている。選球眼が良く四球を選べる打者は,投手にそれだけ球数を投げさせて疲れさせるから得点獲得へ大きく貢献するからである。一般には,出塁率が同じでも打率が低い打者の評価は低い。ビーンGMはそのような打者を見つけては,安い予算で獲得する。松井秀を獲得したのもそのためだろう。松井はMLBの8年間で,常に出塁率は3割5分を越えていて平均で3割7分である。ちなみに,巨人は,打率は2割6分ながら出塁率は3割4分のエドガーを1年目で切ってしまった。ビーンGMなら残しておいたような気がする。

・その他,ビーンGMが評価しない数字や戦術は以下の通りである。セーブ,盗塁,犠打,ヒットエンドラン。例えば,ビーンGMはクローザーを重要視していない。平均より少し上のレベルの投手でつとまると思っている。むしろ,7-8回を投げる投手の方が大事だと思っている。

・ビーンGMは,若い選手を格安で獲得して育成し,その選手がFA権を得るまでは低い給料で使い続け,FA権を取得したらさっさと他球団へ売って,補償措置としてのドラフト上位指名権を獲得して新たに若手有望選手を獲得する。あるいは,高評価をくれた球団にトレードで譲渡して,その球団の若手有望選手を複数獲得したり金銭を獲得する。このようにして,少ない予算で強いチームを維持し続けている。ここでポイントは,ビーンGMの評価基準(セイバーメトリクス)と他球団の評価基準が食い違っていて,かつ,ビーンGMの評価基準の方が正しくないとこの状況は維持されないということである。本当の価値が100円のものを50円で買い,100円であることを皆にわからせてから100円で売れば利益がでるからである。ビーンGMの成功によって,セイバーメトリクスを取り入れるMLBの球団が徐々に増え始め,アスレチックスは強さの維持が困難になり路線変更をし始めたようである。ビーンGMの正しさが皆に理解されるようになって,アスレチックスが苦戦するというのは皮肉な結果といえるだろう。

・日米でいろいろ事情が異なるにせよ,日本の球団はビーンGMに学ばなければならない。なぜなら,MLBが日本選手をたやすく獲得できるようになった以上,日本のどのチームも資金力ではMLBに太刀打ちできず,「アスレチックス的立場」にならざるを得ないからである。
 オリックスがイチローを売ったのも,西武が松坂を売ったのも,阪神が井川を売ったのも,楽天が岩隈を売ろうとしたのも,日ハムがダルを売ろうとしているのも同じことだろう。FAで選手を出した時は,米国でのドラフト指名権か3Aの若手有望選手を獲得できるようにすれば,「ビーンGM流ビジネス」が日本の球団も可能になり,ポスティングシステムも不要になると思うがどうだろうか?


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