「真摯に受け止める」という言葉と、Jリーグの不勉強。

  • けん坊
    2008年05月30日 06:20 visibility73

我那覇選手の問題に関するスポーツ仲裁裁判所(CAS)の裁定について、Jリーグは「真摯に受け止める」という言葉とは裏腹に「ドーピング違反か否かの判断がされていないとか、将来に禍根を残す」とかコメントしているようですが、このことについては、Jリーグが大きな間違いをしていることが明らかです。

根拠につきましては「川崎フロンターレ・ドーピング事件を検証して、日本に正しいアンチドーピングが実現することを願う会」のHPより抜粋させていただきたいと思います。(同会HPより)
http://sportsassist.main.jp/antidope/after1/index.htm

(以下、引用)
《JリーグNEWS RELEASE2008年5月28日》


Jリーグは2008年5月28日に出したNEWS RELEASEにおいて、
『焦点となった静脈内注入が、正当な医療行為か否か、すなわちドーピング違反であったか否かについて明らかにして欲しいと、当事者の双方が望んでいた。にも関わらず、裁定では、それが判定されることはなく、残念でもあり困惑している。』
とコメントしています。
このコメントには多くの人が困惑するでしょう。
『WADA規程3.1 立証責任および証拠基準』で示されているように、本件の治療行為がドーピング違反であったと立証するのはCASの責任ではなく、Jリーグの果たすべき責任だったことに注目してください。Jリーグがその責任を果たすことができなかったために、本件治療が正当な医療行為とCASにおいて認定されたのは当然の帰結なのです。
JリーグはCAS裁定が示す事実に目をそむけることなく、本件治療は正当な医療行為であったとCASが認定したことを真摯に受け止め、我那覇選手への謝罪はもちろんですが、前川崎チームドクターへの謝罪、川崎フロンターレへの謝罪も行なってください。
過去の過ちを改めて再出発することによって初めて、今回のCAS裁定が、今後の選手たちへの治療に生かされ、日本に正しいアンチ・ドーピングが実現することに繋がると私達は思います。

《立証責任および証拠基準》


WADA規程3.1 立証責任および証拠基準
によれば、
『アンチ・ドーピング規則違反を立証する責任は、アンチ・ドーピング機関(本件の場合はJリーグ)が負うものとする。証拠基準は、アンチ・ドーピング機関が聴聞機関(パネル)に対して主張の重要性を納得できる程度にアンチ・ドーピング規則違反を立証できたか否かを基準とする。この証拠基準の内容は、単に可能性を推量する程度では不十分であるが、「合理的疑い」の範囲を超える程度に証明される必要はない。』
と記載されています。
ドーピング違反かどうかを立証するのはCASの仕事ではありません。
CASに対して、我那覇選手の受けた治療がドーピング違反であることを立証する責任はJリーグが負っていました。
我那覇選手の受けた治療がドーピング違反であるとCASに対してJリーグが立証できれば、我那覇選手の受けた治療は正当な医療行為ではなく、ドーピング違反であるとCASが認定します。
逆に、JリーグがCASに対して本件がドーピング違反であることを立証できない場合、我那覇選手の受けた治療はドーピング違反とはみなされず、正当な医療行為と認定されます。
CASは本事件においてJリーグが主張したこと(ヘルスメイトはカルテではない、後藤医師の記述は医学的証拠としては認められない、我那覇選手に脱水はなかった、我那覇選手に点滴は必要なかった等々)をことごとく退け、以下のように我那覇選手側の主張を明確に認めています。
『本件の医療行為は、医師によって、医師のプロとしての[専門的な]診断に基き、治療の一環として選手に対して治療を行い、これと同時に適切な医療記録が医師によって作成されたものであることが、明らかである。(42項より)』
JリーグはCASに対して、ドーピング違反の立証責任を果たすことはできず、逆に我那覇選手側は、本件治療は2007年WADA規程における正当な医療行為だったとCASを納得させることに成功しました。
『本パネルは、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)2007年規程に照らすと、本件静脈内注入は、以上すべての本件の具体的な状況の下で、正当な医療行為に該当することを認める心証を持つことができる。(47項)』


さらに、CASは、Jリーグの手続きと運用が極めてずさんだったことを指摘した上で、我那覇選手のケースは、Jリーグの規程の中でいかなる制裁も科されるべき事案ではなく、ドーピング違反だったかどうか判断する必要すらないと結論づけました。
ドーピング違反に該当しないことは明らか過ぎて議論する必要すらないということです。
『本パネルは、本件において、証拠及び両当事者の互いの主張並びに証人の証言を詳細に評価した結果、我那覇選手に対しいかなる制裁も科されるべき事案でないことから、違反があったかどうかについて判断する必要すらないとの結論に達した。我那覇選手の行為は、いかなる制裁も科されるに値しない。(48項)』


これらすべての事項の検討の結果、CASは、我那覇選手に対してJリーグが決定した処分の取り消しを命じました。
Jリーグが、CASを納得させるレベルでドーピング違反の立証をできず、我那覇選手側が正当な医療行為であったとCASを納得させるだけの反証に成功したことによって、我那覇選手の受けた治療は正当な医療行為であると認定され、処分が取り消されたのです。
上記WADA規程における証拠基準によれば、
『証拠基準の内容は、単に可能性を推量する程度では不十分であるが、「合理的疑い」の範囲を超える程度に証明される必要はない』
のであって、
『本パネルは、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)2007年規程に照らすと、本件静脈内注入は、以上すべての本件の具体的な状況の下で、正当な医療行為に該当することを認める心証を持つことができる。(47項)』
(CAS判断の根幹をなすこの部分の英文をJリーグは誤訳しています)
とCASが記載したことは、本件治療をCASが正当な医療行為であると認めたことを示しています。
(引用、終わり)

つまり「この件の<立証責任>は、ドーピングだと主張するJリーグにある。」ということが規程上、明らかです。立証責任のあるものが立証に失敗しているのだから違反の認定がないのも当たり前なのです。

Jリーグは、これだけ大きな問題にしておきながら、仲裁手続きについてのルールすら学ぼうとしていなかっということです。不勉強も甚だしいです。仲裁手続きへのJリーグの対応は、あまりにも杜撰なものであったといわざるを得ません。

さらに、問題は続きます。川崎フロンターレに科され、納められた制裁金の返還問題です。
本来であれば、法定利息を付した上で返還すべきものではないかと思えるこの件についても、Jリーグは「返還する気がない」ということのようです。

さらに、元チームドクターの後藤秀隆氏の名誉回復の問題です。
上記のようにJリーグは「立証責任が果たせていないのにドーピングだったと主張し続けるという」完全に法を無視した態度をとり続けています。

今までのJリーグの対応を見る限りは、上記の2者も「多額の費用と多くの時間を費やして、法的手続きによって当たり前のことを証明しなければならない」と、いうことになる可能性もありそうです。

我那覇選手が決意してから、この問題についてはボクなりに関心を寄せてきました。
全選手・全クラブに共通する問題ではないかと思いましたし、またこういったことをきっかけにJリーグが
もっと素晴らしい組織に生まれ変わることが出来るチャンスではないかと思ったからです。

日本サッカー協会、Jリーグ、クラブ、選手、チームドクター、スタッフ、サポーター、観客、ファン、そしてこれからサッカーに関わる人たちにとって、あらゆる距離や関係を見直す良い機会ではないかと思ったりしましたが、今となっては、少しJリーグに期待しすぎていたような気がしています。

まずは、後藤元ドクターの名誉回復を早期に実現してもらいたいと思います。
そして、川崎フロンターレに科した制裁金の返還も当たり前のことかと思います。

その後、二度と同じことが起こらないようにするにはどうしたら良いかを考える必要があると思います。
そのためには「一旦、Jリーグを解体するしかないのかな」と、思ったりしています。

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