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ファンタジスタ幻想曲� −デニス・ベルカンプ編−
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学
2007年06月04日 00:08 visibility1849
98年フランスワールドカップで最も印象に残るゴールを決めたのは、オランダのデニス・ベルカンプだった。後方から蹴りこまれたロングボールをゴール右45度、インサイドでファーストタッチし、アルゼンチンのDFアジャラをツータッチ目で交わした瞬間思わず、「神だ!」と叫んでしまった。冷静にアウトサイドでファーサイドに流し込んだシュートとゴールは、もはや私にとって彼のプレーの残滓にすぎなかった。
彼を、不遇を託ったインテルから引き抜き、蘇生させたアーセナルのヴェンゲル監督の言葉を借りれば、
「上空から降りてくるボールをトラップしてから、次の動作へスムーズに移行する才能にかけては、世界で右に出る者はいない。」
パスを受ける前からシュートの最終形がイマジネートでき、そのために最も合理的なトラップを瞬時に選択できる「インテリジェンス」溢れる天才だった。
曲:ヴァンゲリス・パパサナシュー「炎のランナー」
しかし、私がベルカンプを天才と思うのはそんな個人的な特質だけからではない。なぜなら、そのような天才的な才能があればインテルに在籍した時代でも活躍できた、と思うからだ。
アヤックス時代クライフに見出され、満を持してイタリアに渡るが、2年間で52試合出場、わずか11ゴールしか上げられず、「史上最高額のガラクタ」と評された。その原因は、イタリアの守備的な戦術のためスペースがない、とか彼の内向的な性格からチームになじめなかったため、とか言われているが、私には納得がいかなかった。イングランドだって十分守備的な試合があるし、移籍したからといって急に性格が変わるわけでもない。
では、なぜアーセナルでは、水を得た魚のような活躍が出来たのだろう?
ファンタジスタは時に異端視される。どの分野のファンタジスタもそうだが、慣習に囚われない自由奔放な、人と違う突飛な言動をする。ダヴィンチしかり。コペルニクスしかり。ビートルズの歌「FOOL ON THE HILL」にあるように、天才は孤独だ。石を投げつけられちゃったりなんかする。周囲の人間はそういう異端な人間を排除しようとする。
だから、この問いに対する答えは、そんなファンタジスタに対する周囲の理解の有り無しなんだろうと思うのだ。
インテルのサッカーは個人の勝手を許さないガチガチのカテナチオ。時のイタリアはファンタジスタ不要論の真っ只中。いわばカルチョファシズム。窮屈で仕方ない。インテル時代のベルカンプはゴールを決めても笑っていた印象が私には全然ない。
一方、アーセナルではヴェンゲルの方針が浸透しているのもあるが、仲間が完全にベルカンプの攻撃の才能を信頼し、彼もそれに100%の力で応えていた。ベルカンプが最前線でボールを受けタメを作り、アンリやピレス、リュンべリ、ヴィエイラやサイドバックの動き出しを促し、効果的なパスを供給する。03/04シーズンの無敗優勝した黄金時代、アンリ・ピレス・ヴィエイラなど錚々たるメンバーがいた中で、攻撃の全権を握っていたのはベルカンプだった。周りが彼を輝かせ、彼が周りを輝かせる。自分が輝くだけでなく、周りの選手も輝かせてしまう「インテリジェンス」を持つからこそ私はベルカンプを天才だと思う。
アーセナル時代、ゴールを決め満面の笑顔の彼に、多くの選手が抱きつきに来るのを私は今でも鮮明に思い出せるのだ。
インテル時代のベルカンプ。ウルグアイ人ルベン・ソサとツートップを組むことが多かったが、ソサは「チームメイトと思っていない、ライバルとしか思えない」と発言した。
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