茫然自失の中の光明

  • 2007年06月24日 22:55 visibility87


【なでしこリーグdivision1第7節】
浦和レッズレディース 0−3 日テレベレーザ
得点:(ベレーザ)澤2、大野1

<浦和レッズレディース(4−4−2)>
FW:窪田 北本
MF:岩倉 柳田 主将高橋 安藤
DF:西口 矢野 田代 土橋
GK:山郷姉さん


6月の梅雨の曇天模様の空。誰にも冷たく等しく降る雨。

私は、鴻巣陸上競技場の芝より濃い緑のユニフォームのチームの小気味良いパス回しを、ただ茫然自失と眺めていた。完全なる思考停止状態で。

耳の奥深くずっと遠くで、赤いチームのサポーターの「pride of urawa reds」の野太い歌声が虚しく響いた。
この試合、彼女たちは全く為す術がなかった。攻撃の形にすらほとんどならなかった。

ああ、一度は縮まったかに見えたベレーザとの差は、逆に開いてさえいるのか・・・


私の心が虚しさでいっぱいに満たされた・・・。


もともとベレーザがLリーグの中でも別格の試合運びをすることは周知のことだった。澤を中心とするワンタッチでのパス回しは、まるでバルセロナみたいなのだ。
しかし今シーズンはそんなベレーザも調子を落したのか、この試合の直前の順位は浦和2位、ベレーザ4位だった。戦力を大量補強し、穴のなくなった浦和。調子を落し気味のベレーザ。永井良和監督の言葉を借りるまでもなく、互角に戦えるはずだ、と高を括っていた。

しかし。

いざ試合が始まってみると、やっぱりモノが違う、と認めざるを得ない。
代表FW永里のポストプレーは見事だったし、大野のドリブルは切れていた。左利きのボランチ伊藤の読みは冴えていたし、右SBの近賀のスピードにのったまま勢いを殺さないトラップには溜め息すら出た。

とりわけ、澤は凄かった。有形無形にプレーに絡む。2得点1アシスト。
なかでも2点目のアシストは圧巻だった。

浦和が中盤で攻撃を仕掛けるため全体が上がり出す瞬間、守備をせずにスッと浦和のディフェンスラインとボランチ2人の間隙に入り込む。いいのかな守備しなくてと思った瞬間、ベレーザのボランチの選手がうまく身体を入れてパスカットし、そのボールがそのまま澤へのパスになったのだ。澤はそれをノールックのダイレクトパスで最前線の大野へスルーパスを通し、あとは大野が飛び出すGK山郷を速いシュートで射抜くだけだった。

このプレー、澤には、「この浦和の攻撃の流れならうちのボランチが止められる」と確信できていたに違いない。相手の攻撃の流れが読めていたからこそ、守備もそこそこにスッと前に出れたのだろう思う。
トップ下に位置しながら、ゲームの流れを読み、必要に応じて前後左右にポジショニングを変える。攻撃に守備に獅子奮迅の活躍。
「女中田」なんて失礼だ。
彼女がベレーザでやってる仕事は、中田がチームでやっていた仕事以上の価値がある。

対する浦和はいったい何本シュートが打てたんだろう。2、3本打ったかもしれないけど、ゴールのにおいを感じさせるスリリングなものは残念ながら皆無だったように思う。

雨でぬかるんだピッチの上を、終始ベレーザのパス回しを泥だらけで追いかけ回して消耗し、頼みのエース安藤もゲームメーカー柳田も攻撃のためにボールタッチできないのがもどかしくてしょうがない。FWの北本と窪田の飛び出し期待で、ベレーザディフェンスラインの裏に、よ〜いドンのパスを出すぐらいしか攻め手がないのが歯がゆくてしかたない。
偶発的なゴールしか期待できないなんて。
彼我の差がまだこんなにあったなんて。



そんな試合展開だった。


最後の15分。茫然としてる間に試合は終わっていた。
選手が神妙な顔つきでサポ席の前に挨拶に来る。申し訳なさそうに。その気持ちは十分に伝わってくる。うら若き乙女たちが、白いサッカーパンツを泥と芝で汚し、上げた前髪が雨でほつれて、見ていて痛々しかった。
それでも私は文句の一つでも言ってやりたいところだったし、ブーイングの一つでも浴びせてやりたかった。こっちだって1000円払って試合をわざわざ見に来ている訳だし、女の子だからって甘やかすのが優しさとは思わないから。プロとして成長して欲しいという親心があるから。

でも結局、私はそれするのをやめた。
鴻巣陸上競技場の多くのサポーターから「次は頑張れよ!」とか「アウェイでは絶対に勝てよ」とか叱咤激励の言葉が飛び交い、温かい拍手が沸き起こったからだ。

ああ、女子もまだ大丈夫だ、と思った。


J2落ちした男子チームが、駒場の浦和サポから「we are reds!」の大合唱を受けた時と同じ感覚になったのだ。逆境のときこそ支え励ましてくれる人たちがいる幸福。

これで彼女たちは、また上を向いて走り始めることができる。
いつかベレーザを追い越すことができる。

今日の男子チームの成功はあの日あの時から始まった、と思うから。

彼女たちの闘う姿は鴻巣の観客に間違いなく共感を呼んでいたんだ、と思ったら幾分心が晴れた気持ちになった。
それは、試合後も相変わらずの曇天模様の空に、一瞬垣間見えた光明に思えた。



































































サポーターに挨拶に来る選手たち。多くの激励と拍手に選手たちも何も感じないはずがない!



若林エリ選手。試合後のサインカード配布。笑顔が素敵。

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