受け継いでいくこと。伝えていくこと
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ケン#39
2007年08月17日 14:25 visibility111
夏の甲子園大会も、全チームが初戦を終え、半数の
チームが彼らの夏の終わりを迎えた。
これで、甲子園に残った十数校を除き、全国のほとんどの
チームで、新しい主将・副将のもと、2年・1年の
新チームが彼らの時代をスタートさせたことになる。
ボクは、高1の時、この時期になって、ようやくチームの
一員として迎え入れられた気がしていた。
ボクのいた高校には、毎年繰り返される、あるセレモニー
/儀式みたいなものがあった。
入学してから1、2週間ほどたった頃だろうか。ある日の
昼休み、ボクら1年は、全員、部室に呼び出された。
ボクらは、それまでキャッチボールと素振り、あとはただ
ひたすら走らされてばっかりだったので、なんとなく、何か
新しいことが始まるんじゃないかという期待感から、半ば
ワクワクしながら、部室に入って行った。
部室の中に入ると空気が一変した。2年生全員が、腕組
みをし、厳つい顔つきで並んで座っている。予想していた
雰囲気と真逆だ。当時のことだ、中ランや短ランにボンタン
をはいた強面の先輩たちがこっちを睨んでいる。中には、
昼休みなのに、なぜか学帽を目深に被っている先輩も
いる。そんな姿がさらに緊張感をあおる。
そこでボクらは、初めて、「喝」を入れられた。
あまりにもおっそろしかったので、なんで喝を入れられたの
かなんて憶えていないけれど、それまで静かに低く抑えた
トーンで説教していた先輩が、少しの沈黙をおいて、突然
テーブルを拳でぶっ叩いて立ち上がった時には、飛び上がり
そうになった。
先輩たちが去った後、部室を出ようと足を動かした時、膝が
カクカク笑うのに気づき、みんなで互いに爆笑するまで、
誰も口が利けなかったのを憶えている。
ボクがいた高校では、基本的に、3年生が、1年に声をかける
ことはない。
たとえ、3年生の前で、1年の誰かが何かやらかした場合でも、
直接注意されるわけじゃない。2年生が注意されるのだ。
そして、そこは連帯責任ってやつ。その都度、1年全員が呼ばれ、
2年生からドヤされるのだ。
そんなことを繰り返しながら、夏の大会が始まる頃までに、
ボクらは、先輩や監督さん、部長先生、コーチ、OB、父兄、
グランドや道具に対する礼儀や振る舞いを覚えていった。
それと同時に、毎度全員いっしょになってドヤされ、喝を
入れられるうちに同期の仲間との連帯感も育まれていった。
そうやって夏を迎え、夏を終え、新チームがスタートすると、
先輩たちとの距離がぐっと縮まる。
2年の先輩たちといっしょに、同じ数のノックを受け、同じ
ケージで同じ球数のフリーバッティングをさせてもらえる
ようになる。
引退した3年生の中には何人か練習を見に来てくれる
先輩もいるのだけれど、それまで、こっちから一方的に
挨拶をするだけだった3年の先輩が、ケージの後ろから、
「おまえ、バットのヘッドが下がって出て行きようぞ。」なんて
声をかけてくれるようになる。
部室でも、「なんかおいしーいパン、買うて来い。」、なんて
いう悩ましいオーダーにも、「たいがいにして下さいよ、
しまいにゃ、うちくらされますよ。(いい加減にして下さいよ、
しまいにはブン殴りますよ。)」、などという切り返しが認めら
れるようになる。
先輩たちが、ボクら1年を、同じ ”チームの仲間” として、
迎え入れてくれるわけだ。
そして、冬を越し、新しく1年生が入ってくると、今度は
2年になったボクらが、1年を部室に呼び出し、前の年、
自分たちが体験したように、そこでの喝が彼らに効果的
に働くよう演出をしつつ、どなり上げるのだ。
一応、事前にみなで申し合せして、それぞれが最大限、
おっそろしい先輩を演じるわけだけれど、ボクらがそう
だったように、1年のほとんどはそんな場面は初体験
なわけで、中には、あまりの緊張感から突拍子もない
挙動をするやつがいたりして、笑いそうになるのを
こらえるのに苦労したっけ。
テレビの画面の中で、ダグアウトの前で輪になり、
帽子を脱いで監督さんの話に、逐一大声で返事を
する球児たちを見て、ふと、そんなことを思い出した。
今でも、あれは引き継がれてるんだろうか。
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- 事務局に通報しました。
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