野球読書日記「適者生存 メジャーへの挑戦」
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こじっく
2022年09月25日 12:14 visibility273
この本は日本のオリックス、メジャーリーグのエンゼルス、マリナーズで活躍された長谷川滋利さんが現役中に書かれたものです。何度も読み返しました。お風呂の中でも読むために荷造り用の透明テープで表紙を補強しました。それぐらい大事な本です。
私は立命館に中学から通っていたのですが、中学3年目の時に立命館大学4回生の長谷川さんはまさに学園のヒーローでした。同志社大学の同じ学年に杉浦正則さんがおられ、優勝をかけた「立同戦」での投げ合いは西京極球場を満員にし、結果を伝える京都新聞の号外が出るほど古都を沸かせました。
この年、1990年のドラフト会議は亜細亜大学の小池秀郎投手が目玉と言われ多くの球団が指名の意向を示す中、長谷川さんは「幼い頃からの憧れ阪急ブレーブスの後身であるオリックスブルーウェーブに行きたい」と表明されます。そしてオリックスが単独1位指名し、願いはかないます。
その後、プロ1年目に新人王を獲得し、オリックスの主力投手として活躍されます。申し分ない野球人生。
しかし長谷川さんが1997年に海を渡りエンゼルスに移籍された時は、立命館の先輩の壮挙を誇らしく思うとともに意外にも感じました。長谷川さんは、1995年にナショナルリーグ新人王に輝いた野茂英雄さんや長谷川さんと同じ時期にヤンキースに移籍した伊良部秀輝さんの様な豪速球を投げるわけではありません。長谷川さんといえば「頭脳的なピッチング」を特長に挙げる人が多かった。しかも、1996年は日本一を勝ち取ったオリックスの中で4勝6敗1セーブと本調子とは言い難い成績でした。果たしてメジャーリーグで日本と同じように躍動できるのか・・・。
しかし、結果として長谷川さんはメジャーリーグで9年間リリーフを中心に活躍されます。通算517登板は今でも日本人メジャーリーガとして最多記録です。まだまだ余力があるように思える中での引退も鮮やかな印象を残しました。
この本の要諦は、長谷川さんの立命館大学野球部時代に当時の監督中尾さんにかけられた言葉に表れていると思います。以下に引用します。
「僕の人生には、常に『そこそこ』という言葉がついて回る。これはある程度、仕 方がない。僕は野茂君や伊良部君のような10年にひとりの逸材というわけではない。 しかしひとつだけ、自信を持っていることがある。それは中尾監督に言われた言 葉だ。監督が僕をプロに送り出すときに、こんな言葉を贈ってくれた。
『選手がプロでやっていけるかどうかを判断する基準に、プロに入って 「アジャス トメントできるかどうか」という部分を見る。新しいレベルに飛び込んで、適応で きるかどうかを俺はいつも見てる。 長谷川、お前は絶対できる。 大学入学した時は 大したボールを投げていたわけじゃない。でも高校の時に金属バット相手に投げて いた時と違って、大学に入ってからは相手の選手を見て、木のバットやからこう投げたらいいとか、すぐにアジャストメントができる力がある』」(31~32頁)
これは野球だけでなく、仕事や勉強にも応用できることだと思います。私も転職や異動の度に「アジャストメント」を目指してきました。それは決して簡単なことではなく、とても胸を張って「私はアジャストメントを実践できた」なんて言えません。でも何とか生きてきました。この本が人生のお守りになっていたと思います。
私は子どもの頃、探検家になりたいと思ったことがありました。しかし、地球のほとんどが既に誰かに踏破されていることを知り、「もう探検なんてする意味ない」とがっかりしました。しかし、「誰も成し遂げたことはない」ことは無限にあります。長谷川さんをはじめ1990年代の日本のプロ野球選手のメジャーリーグ移籍は、今以上に成功するかどうか分からない冒険であったと思います。人生には無限の挑戦の種が散らばっていて、それを拾い上げて根気よく育てる意思があるか・・・それだけが悔いのない人生を送る条件の様に思わされます。
とにかく学びの多い一冊です。これからも読み返します。
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