野球読書日記「マネー・ボール」

  この名著は出版以来、語り尽くされている感がありますが、私なりに書かせて頂きます。

 この本で私が好きなところは、登場する選手の一人ひとりがいきいきと描かれているところです。

 早速引用すると、

「ボッグスほどの実績ある選手がそんな状況では、ハッテバーグがどう評価されるかは わかりきっていた。ストライクを見逃すと苦手なコースだから見逃すのだがた ちまちベンチから怒声を浴びた。 走者がいるときやノーストライク・ツーボールのとき はもっと振っていけ、とコーチに叱責された。打撃コーチのジム・ライス(レッドソッ クス出身)が、執拗に忠告を繰り返す。ロッカールームでハッテバーグを呼び出し、チ ームメイトの前で『初球を振ったときは5割の成績を残してるのに、打率2割7分台と はどういうことだ?』となじった。『ジム・ライスは現役時代、どんな球でも打って出 るタイプだったから、みんなに同じスタイルを求めたんだ』とハッテバーグは言う。 『おれが初球を打つときは、よっぽどの絶好球が来たというだけなのに』自分の持ち味を最大限に発揮できるよう、上手に調整していたのだが、監督やコーチはそう気づいていなかった。 ジム・ライスの姿を見て、ハッテバーグは『名打者が名コ ーチになれないのはこういうわけか』と悟った」。(271~272頁)

 という箇所など、とても印象的です。私の稚拙な説明で申し訳ないのですが補足すると、ハッテバーグは選球眼が良く出塁率の高いレッドソックスの捕手。ジム・ライスは生涯通算打率.298を誇るレッドソックスのフランチャイズプレーヤー。ボッグスはレッドソックスで首位打者を5回獲得しながらも後にヤンキースに移籍した名選手です。

 ハッテバーグはその高い出塁率に注目したGMビリー・ビーンのアスレチックスに移籍し、一塁手として活躍します。ビリーの主導する「サイバーメトリクス」によるチーム編成(マネー・ボール理論)が有効であることを体現するような選手というわけです。

 この他、ビリーによってアスレチックスに招かれた選手の肖像が実に魅力的に描かれています。

 

 ご存知の通り、「マネー・ボール」はブラッド・ピット主演で映画化されました。私にとって、長女が生まれてから初めて映画館で観た映画で思い出深いです。映画の中でビーンの娘ケイシーがギターの弾き語りをする場面を見て、自分も早く娘とギターを買いに行きたいなぁ・・・と思ったことをはっきり覚えています。まだ実現していません。

 

 議論され尽くしたことではありますが、多くの球団が一斉にサイバーメトリクスの観点で優秀な選手を求めることに力を注ぐと、たちまち「選手市場」は変化し、かつてのアスレチックスの様な財政的に恵まれない球団が従来通りの戦略で強力なチーム編成をすることは難しくなります。ゆえに低い予算で勝てるチームを作る方法論は常に進化し続けることでしょう。

 しかし、それでもこの本は野球のみならず経営や試験などあらゆる競争に応用できる要素が散りばめられていると思います。まさに人生の指南書として読み継がれることでしょう。

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